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彼女はくノ一! 第五話(274)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(274)

 小埜澪と東雲がそんな会話をしている横で、香也は黙々と食事を摂っている。
 ……この子もマイペースな子だな……と、小埜澪は思う。
「で……色男のおにいさん……」
 澄ました顔をして食事を続ける香也をみているうちに、小埜澪は、からかいたくなってきた。
「君は……いや。
 誰が、君の本命なんだ?」
 香也は、あやうく飲み込みかけていたご飯を吹き出しそうになり、むせる。
「……そんなに焦ることないだろ……。
 誰を選ぶにせよ、みんな、いい子じゃないか……」
「……何?
 あの絵……想像とかではなくて、実際にみたものなんすか?」
 東雲が、今更ながらにそんな間の抜けた声をあげる。
「あの子たちがこのおにいさんと一緒にいる時の表情をみてれば、一発で分かるんだけどね……」
 小埜澪は、香也の背中をさすりながら、そう指摘する。
「……あの絵だって、あんなに克明だったし、第一、そういう妄想とか想像を絵にしたのなら、もっと扇情的な構図というか……それこそ、AVにでも出てくるような、絵になる筈だろ?」
「……ああ、そういえば……」
 小埜澪の指摘に、東雲が頷く。
「そうか……。
 あの絵……どこかに違和感、あったけど……考えてみれば、あの構図は……当事者でなければ……。
 って、ことは……このぼーっとしたのが、あんな上玉二人も……」
 何かを思い返すような表情になって、ぶつぶつとそんなことを呟く。
「……この軽薄な男はな、けっこう間が抜けているけど、記憶力だけはいいんだ……」
 小埜澪は、香也の背をさすりながら、耳元に口を寄せて、
「……もう、ごまかせないぞ……。
 洗いざらい吐いちまいな……。
 あの二人と出来ているんだろ?」
 と、いった。
「……いや、別に……隠しているつもりは…
…」
 ようやく咳こむのをやめた香也は、ぼそぼそと不明瞭に答えて、小埜澪の顔を見返す。
 もちろん、興味本位に面白がっている風もあったが、意外に真剣な面もちにも見えた。
「まあ……わたしらは、すぐにここを去る第三者もいいところだから、恥のかき捨てっていうか、相談するのにはいい相手なんじゃないか?」
 恥のかき捨て……そういう考え方も、あるのか……と、香也は思う。
「……他人に話すだけで気が楽になる、っていうことも、場合によってはあるし……」
 どちらかというと、すべてを自分一人で抱え込むたちの香也は……そのような考え方が、ひどく新鮮に思えた。
 香也は、小埜澪にせかされるままに、ぽつりぽつりと楓と孫子の二人と同時に関係を持ってしまったことを、話す。
 もちろん、詳しい経緯を事細かに話すわけにはいかない。が、香也よりも彼女たちの方がよっぽど積極的であり、香也も、彼女たちのことを真剣に考えたいと思っているため、かえって身動きが取れなくなっている……というようなことを、ぽつぽつと語る。
「……向こうから強引に迫ってくる、なんて……なんとも羨ましい境遇だな……」
 一通り、香也の話しを聞いた後、東雲は、そう感想を漏らした。
 実際、東雲は、心底羨ましそうな表情をしていた。
「……この女癖が悪いのは、ほっとくことにして……」 
 小埜澪は、香也の頭に手をおいて、くしゃり、とかき回す。
「案外、真剣に考えているようで、安心した……。
 いい加減な気持ちで二股とかかけているようなら、ぶん殴ってやろうかとも思ったけど……」
 まあ、後は……焦らずに、時間をかけて、後で後悔しないような結論を出すこったな……と、小埜澪は、いった。
 それを聞いた東雲は、
「……お嬢が殴ったら、一般人なら、即、病院行きですぜ……」
 と、呟き、香也は、
「……んー……。
 じっくり、考える……」
 と、答えた。
 何が解決するか……といったら、何も解決はしないわけだが……それでも、他人に話すだけで気が楽になるということは、あるんだな……と、香也は思った。

 一休みしてから、小埜澪と東雲目白の二人は、狩野家を辞した。
「……でも、考えてみれば……みんな、同じ家にいるんだよなあ……。
 羨ましいけど……代わりたくはないなぁ……」
 東雲は、そんなことをぶつくさと呟いている。
 香也の、身の上に対する感想だった。
「あの子は……ぼーっとしているように見えて、意外に大物だよ……。
 適当なところで、いくらでも妥協できるのに、それをしていないし……」
 小埜澪は、そんな風に返す。
 そして、玄関を出て、いくらもしないうちに、ばったりと荒野に出くわした。当然、軽い立ち話しになる。
 荒野は、学校に用事があるとかで、一旦マンションに戻ってから、またすぐに外出するという。
 小埜澪と東雲が、商店街の様子を見に行こうとしている、というと、荒野は、
「……確かに、いい見世物ではあるかも……」
 と、視線を逸らして微妙な表情をした。
「友達のことを、そんな風にいうもんじゃないぞ……」
 そんな荒野のいいようを、小埜澪が窘める。
「……いや、その……馬鹿にしているわけではないし……それに、実際に見てみれば、あきれ返ると思いますけど……」
 ぶつくさいいながらも荒野は、
「まあ、楽しんでいってください……」
 と、いい残して、マンションの中に入っていった。
 そうして、荒野と別れた後、
「……何となく、意味深ないいかたをしてたな……」
 とか、二人で話し合いながら歩く。
 駅前に近づくにつれて、聞いていたとおりに人出が増えていった。人の流れからいって、駅の方に向かうよりも、駅から溢れてくる方が、多い。
 その人出を縫うようにして、鍋を抱えて右往左往している連中もいて……気配を断っているところから見ても、明らかに一族の関係者だった。
 一族の者が多くこの土地に流れ込んでいる、という噂は聞いていたし、荒野もそんなことをいっていたので、一族の者を多数見かけたこと自体は、疑問ではない。
 しかし、そういった者たちが、何故決まって鍋を抱えているのか、という疑問は、いくら二人で推論を出し合っても、一向に納得のいく回答は得られなかった。
 結局、
「……今度、顔見知りを捕まえた時に尋ねよう……」
 という、極めて面白味のない結論をとりあえず出して、さらに先に進む。
「あ、あの……」
 ……そ、そこに、いらっしゃるのは……お、小埜澪様と、その従者の方では……」
 すると、今度は、野呂静流に声をかけられた。
「……野呂の静流御前かぁ……。
 久しぶりだなあ……」
 小埜澪は、いかにも懐かしい、といった口調で応える。




[つづき]
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