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彼女はくノ一! 第五話(275)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(275)

 楓が玉木の家の台所で牛丼弁当をかき込んでいる時、
「……どぅもー、お邪魔いたしますぅ……」
 と軽薄な調子で挨拶を述べながら、スポーツウェア姿の東雲目白が裏口から入ってきた。
「……こちらに、玉木さんとか徳川さんという方は、いらっしゃいますでしょうか……って、何だ。最強のお弟子ちゃんもいるじゃん……っつうか……そのど派手な格好……なんなんだ? 似合っているっていえば、似合っているけど……」
 などと続けるものだから、慌てた楓は危うく頬ばっていた食物を吹き出すところだった。
 東雲目白に加えて、小埜澪、野呂静流、甲府太介に高橋君までがぞろぞろと中に入ってくる。
「……な、な、な……」
 胸を叩きながら、急いでお茶を含んで口の中のものを飲み下し、楓は、
「……何事ですか、?! 一体……」
 と、叫ぶ。
「いや……この人、じゃなかった、この方たちが、玉木さんや徳川さんに会って詳しく話しを聞きたいっていうから、案内してきたんですけど……」
 甲府太介が、上目遣いに楓の顔色を伺う。
「やっぱ……迷惑、でした?」
 そう、改めて聞かれると……太介や高橋君の立場では、小埜澪や静流のいうことをないがしろにするのも、現実問題として難しいだろうな……と、楓は思ってしまう。
 小埜澪と野呂静流……どちらも、二宮と野呂の本家筋の人間だ。ヒエラルキーとしても、実力本位の基準でいっても、太介や高橋君のかなう相手ではない……。
「……っていうことは、わたしらのお客さんってわけか……」
 玉木は、手を休めてお茶を入れる準備をはじめた。
「……何をお聞きになりたいのは、存じ上げませんが……それと、今、ごらんの通り、立て込んでいますので、たいしたおかまいも出来ませんが……それでよろしければ、答えられる範囲内でお答えいたしましょう……」
 玉木はそういって、テーブルの椅子を勧めようとしたが……五人家族ゆえ、椅子は五脚しかない。そのうち一つは、すでに食事中の楓が占めている。
 太介と高橋君は、慌てて「おれたちは、いいです」と遠慮し、小埜澪、野呂静流、東雲目白が腰掛け、残りの一つには、
「……理路整然とした説明なら、トクツー君のが得意でしょ……」
 と、玉木が強引に、鍋洗いに専念していた徳川をシンクから引きはがして座らせた。
「……それで、何が聞きたいというのだ?」
 玉木によって無理矢理矢面に立たされた徳川は、そういって薄い胸を張った。徳川の傲慢な態度への抗議として、玉木が無言で徳川の後頭部をはたく。
「……ええと、玉木と徳川って……ひょっとして、この二人のこと?」
 東雲が、戸惑った様子で楓に尋ねる。
 楓は、無言で頷いた。
「……なんでぇ……。
 黒幕、ってこったから、もっと貫禄があるのが出てくると思ってたけど……一般人の餓鬼じゃねぇーか……」
 そうぼやいた東雲の後頭部を、小埜澪は無言で叩く。
 一瞬、小埜澪と玉木の視線が交差して、無言のまま「……お互い、苦労するな……」的なエールとメッセージを交換した。
「……聞きたいのは、今、駅前商店街で起こっていることについて。
 これの仕掛け人は、君たちだって聞いた。
 目的は、理解できる……つもりだし、それを可能にした具体的方法も、朝の雪かきを見ていれば想像がつくけど……。
 でも、これ、君たちにとっても、苦労ばかりが多くて、損失の方が多いんじゃないのか? 特に費用面では、とてもじゃないが採算が合わないと思う……」
 結局、ずばりと本題を切り出したのは、小埜澪だった。
「君たちにとって……こうした大規模なイベントを仕掛けるメリットというのは、一体どこにある?」
 まっすぐに人の目をみて話す人だな、と、玉木は思った。それに、自分たちを子供扱いせず、対等の口を利いてくれたことからも、信頼に値すると思った。
「確かに、純粋に、このイベント限りの採算、というこ観点から見ると、赤字もいいところなのだが……」 
 玉木が何かいう前に、徳川が説明を開始する。
「長い目でみれば、それなりにうまみはあるのだ。
 例えば、広報面。
 この、何にもない田舎町が、このイベントのおかげで、ネットで話題になり、地元のニュース番組にも取り上げられた。こうした広告効果を考えると、今回の赤字も、決して高い出費ではないのだ。
 それ以上に、重要なのは……」
 安全保障の費用と考えれば、むしろ安いほどなのだ……と、徳川は続けた。

「……だいたい、こんなところだが……」
 一通りの説明を終えた徳川は、半ばあっけに取られている聴衆たちに向かって、実に偉そうな口調で聞き返した。
「ここまでの所で、何か質問はないのか?
 特にそこのサングラスの人は、この間の晩、工場にいたからすべてが初耳でもない筈なのだ……」
「……わ、わたしは……」
 静流は、自分のサングラスの縁を指先で、こつこつ叩いた。
「……こ、これ、ですから……渡されたパンフレットも読めませんし、い、今、説明を聞くまで、だ、断片的なことしか知らなかったのです……」
 玉木が再び、徳川の後頭部を叩く。
「……いや、すいません。
 このトクツー君、デリカシーってもんをどこかで落っことしてきたような人なんで……」
 徳川の代わりに、玉木が静流に対して頭を下げる。もちろん、静流には頭を下げた玉木の姿は見えていないわけだが……。
「……ど、どうしました?」
 遠慮がちに、楓が、玉木から完全に顔を背けている静流に声をかけた。
 いくら、視覚に障害がある、といっても、今話している人から完全に顔を背けるのは、尋常の様子ではない。
「……こ、呼嵐が、唸っている……。
 あ、安全保障に、問題が起こりかかっている、可能性があるのです……」
 静流が、低い声で答え、椅子から立ち上がった。
「そこの……太助君、といったか?」
 小埜澪も、立ち上がりつつ、背後に控えていた太助にいった。
「この近辺にいる二宮の者に、召集をかけてくれ。
 緊急だ……」
 険しい顔をして、小埜澪がそういう。
 楓の携帯が鳴った。
 液晶を一目、確認し、楓は電話を取る。
『……楓!
 想定外の……襲撃なのっ!』
 茅の声には、珍しく、焦燥の色が滲んでいた。




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Comments

>遠慮がちに、楓が
顔を背けているのは静流さん、かな?

  • 2007/01/18(Thu) 07:01 
  • URL 
  • にゃん #-
  • [edit]

毎度どうも

>遠慮がちに、楓が、玉木から完全に顔を背けている
に、
>静流に声をかけた。
を追加。
完全に「抜け」ですな。
すいませんでした。

  • 2007/01/18(Thu) 07:10 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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