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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(192)

第六章 「血と技」(192)

 茅が異変をかぎつけたのは、茅と入れ替わりに楓が食事休憩に入り、しばらくしてからだった。
 それまで、忙しなく手を動かしておたまでコーンポタージュを紙コップに注いでいた茅が、ふと手を止める。
「……どうしたの?」
 茅の様子がおかしい……と、真っ先に気付いたガクが、尋ねた。
「……何か……異様な気配が……邪気が……ものすごい高速で、周囲を移動しているの……」
「……じゃ、じゃき?」
 傍らにいたテンが、戸惑いつつ聞き返す。
 耳慣れない言葉だし……こういう場で、そういう「曖昧な語彙」を使用するのも、茅らしくない。
「……邪な気配、で、邪気。
 そうとしか、表現のできない何かが……いる、ということは、ぼんやりとわかるんだけど……あっちこっちに、移動しているし……実態が、よくわからないの……」
 茅でさえ、正体がよくわからない相手……と、聞いて、テンとガクは六節棍を取り出して、酒見姉妹とともに、茅とドラム缶を背中に守って別々の方向を向き、油断なく周囲に視線を走らせる。
 そして、口々に、周囲にいた人たちに向けて、
「……危ないから、離れてっ!」
 と、叫んだ。
 いきなり、厳しい表情を作って身構えた四人に、周囲の人々は訝しげな視線を送るばかりだった。
 訳が分からない、ということもあったし、いきなり「離れてっ!」といわれたところで、周囲はすでに人が密集している状態であり、ほとんど身動きがとれないでいる。
 中には、いきなり六節棍を構えて背中合わせになったテンとガクの様子をみて、新手のアトラクションかなにかだと勘違いして、携帯のカメラを向けるものもいる。
「……楓!
 想定外の……襲撃なのっ!」
 茅が楓の携帯を呼び出して、叫んだ時……。
「……じゃーんじゃじゃじゃ、じゃーん……」
 間の抜けたアカペラのBGMとともに、ガクの頭の上に、丸っこい巨体が出現した。
 予告なく、ヘルメットの上に出現した重量物に耐えきれず、ガクの体が、くたくたとと崩れる。
 髭もじゃの巨漢は、外見に似合わぬ身軽な動作でひらりと地上に降り立った。
「……竜斎っ!」
 珍しく、茅が大声をあげた。
「……りゅうさい、とな?
 さて? 誰のことかのぉ……。
 わしは、通りすがりの酔狂じじいじゃよ……。
 そうさな。
 仮に、ミスターRとでも名乗っておこうか……」
 そういって、ひたひとと掌で、覆面に包まれた額の「R」の字を叩く。
 そう。「ミスターR」と名乗った肥満体型の男は、一体どこから調達してきたのか、顔の上半分を覆うルチャレスラーのごとき覆面を被って顔を隠していた。
 しかし……顔を隠して体型隠せず。
 ごく客観的にみてみれば……その正体は、その卵形の体型といい、覆面の下半分からはみ出た髭といい、野呂の長、竜齋以外にありえない。バレバレというか、「……本当に、隠す気、あるのか?」と問い詰めたくなるような……つまるところ、バレバレ以前の問題だった。
「……それでは、ミスターRでいいの……」
 茅は、若干げんなりした表情になる。茅が相手に合わせたのは、そうしないと永遠に話しが進まないような気がしたからだ。
「……ミスターR。
 一体……何が目的なの?」
 そして茅には、野呂の長が、わざわざこんな辺鄙な場所まで来て、こんな手の込んだ悪戯をしなければならない理由……今、この衆人環視の環境下で、野呂竜齋が出張ってこなければならない、理由……を、まるで思いつかなかった。
「目的……目的、かぁ……」
 野呂竜齋……いや、自称、ミスターRは、腕組みをして、考え込むポーズをとる。
「……そうさなぁ……。
 わしも目立ちたいからっ……て理由では、駄目?
 例えば……こんな風にっ!」
 叫ぶのと同時に、ミスターRは一陣の疾風となる。
 そして、ミスターRが通った後で、黄色い悲鳴が立て続けに起こった。
「……テンっ! ガクっ! 酒見たちっ!」
 茅は、メイド服のスカートを押さえながら、叫ぶ。
「早く、あの色ボケ老人を取り押さえるのっ!」
 ミスターRは、高速で移動しながら人混みを縫って移動し、移動経路上にいる女性たちのスカートを片っ端から頭上までめくりあげていった。
 テンとガクは、茅にいわれるまでもなく、ミスターRの後を追っている。
 酒見姉妹は、茅と同じく自分のスカートを押さえていた分、初動が遅れた。
 ミスターRは「にょーほぉーほぉー」と奇声を発しながら、人混みの中を、一直線に逃げるのではなく、これ見よがしにジグザグに移動していく。「被害」にあったゴスロリドレスの女性たちの悲鳴がその後を追い、さらにその後をテンとガク、酒見姉妹が追う。
 さすがは野呂の長というべきか、あえて蛇行しているのに、誰もミスターRに追いつけなかった。

『……姫様っ! 聞こえるか!』
 通話を切っていなかった携帯から、楓以外の女性の声が聞こえた。
『今、近くにいる二宮に動員をかけたっ!
 二宮の一党は、総力を挙げて竜齋のじじいを引っ捕らえるのに協力するっ!』
 小埜澪の声だった。
『の、野呂も……同じく、なのです』
 今度は、野呂静流の声だった。
『……じょ、女性の敵……。
 野呂の恥は、野呂でそそぐののです……』
 二人とも、声に闘志がみなぎっている。
 しかし……。
「……ま、待ってっ!」
『……白昼、堂々……』
 いきなり、そんな大捕物をやりだしたら……と、思った茅が、慌てて二人を制止しようと声をあげる。
 が……。
『……茅様ぁ……』
 答えたのは、楓の声だった。
『あの二人……凄い勢いで、出て行っちゃいましたけどぉ……』




[つづき]
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