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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(191)

第六章 「血と技」(191)

「……静流御前も……そうか。
 確かに、移住してきても、おかしくないよなぁ……」
 事前にそういう情報を得ていたわけではなかったが、小埜澪は、一人でそう納得する。
「……え、ええ。
 か、加納の若が、こ、ここを住みやすい町に変えようとしていると、き、聞きまして……」
 静流も、そういって頷く。
「積もる話しは、後にして……知り合いにあったら、聞こうと思ったんだけど……」
 早速、小埜澪は、静流に懸念事項を確認した。
「あの……鍋を持って忙しそうに走り回っている連中……なんなの?」
「な……鍋、って……あ、あの、お鍋の、ことですか?」
 尋ねられた静流は、心底、不思議そうな顔をする。
「……そ、そんなものを抱えて、で、出歩いている人が、い、いるんですか?」
「……いるんだ。
 それも、何人も……全員、一族だ……」
 小埜澪は、重々しく頷いた。
「そっか……静流御前も、事情を知らないか……」
「……あっ、でも……」
 静流が、片手をあげ、一人うなずきながら、説明をしはじめる。
「そ、それ……ぼ、ボランティア、というのかも、知れないのです……」

「……いや、だいたいのところは理解できた……と、思うけど……」
 静流も商店街の様子を見に来た、というので、三人で歩きながら、話すことにした。
「……雪かきは、まだ分かるんだ。役に立つし……。
 だけど、鍋持って走り回ることの、どこが……誰かの役に立つんだ?」
 小埜澪は、そういって首を捻る。
「……そ、それは、よく、分かりませんけど……」
 静流は、ことなげにそう答えた。
「……誰か捕まえて、聞いてみれば、は、はっきりするのでは……」
「……そりゃ、そうか……」
 そうきいた小埜澪は、ぽん、と小さく柏手を打った。
「……おいっ! 東雲っ!
 お前はそっちのはしっこいのなっ! わたしはあっちのちっこいの捕まえるっ!」
いうが早いが、小埜澪の姿が消える。
「……へいへい……」
 どこか達観したような表情で、東雲もそれに続き……そして、数十秒後に二人が姿を現した時には、小埜澪は甲府太介の、東雲は高橋君の首根っこを捕まえてぶらさげていた。
 太介も高橋君も、「何故、今、自分がこうして猫の子のようにぶら下がっているのか、分からない……」といった風の、釈然としない表情をしている。
「ええっと……君」
 小埜澪は、自分がぶら下げている、太介に向かって声をかける。
「君は、二宮の身内だな? 何、身のこなしをみれば見当がつく。
 わたしは、小埜澪。一応、二宮の第三位、ということになっている……」
「……おの、みお……ってっ! ……っちょっ!
 モロ、本家直系の人じゃないっすかっ!」
 太介は、首根っこを捕まえられてぶら下がりながら、直立不動にしゃちほこばる。
「……こいつ、意外に速かったから、おそらく野呂系ですぜ……」
 東雲はうっそりとした口調でそういいって、高橋君の体を静流の前に突き出す。
「……静流御前が口きいた方が、手っとり早いと思うけど……」
「……いいますっ! 何でも、いいますっ!」
 ぶら下がった高橋君は、こくこくと頷く。
 野呂の術者で、静流の素性を知らない者は、いない。
「聞きたいことは、ただ一つ……」
 小埜澪は、低い声をだした。
「そ、そのお鍋……一体、どうして持っているのですか?」
 静流が、二人の少年に問いただす。
 太介と高橋君は、困惑した表情で、顔を見合わせた。

 論より証拠、とばかりに、太介と高橋君は、三人を連れて、アーケードの外れに設置されたドラム缶コンロのところまで連れていった。
 そこには順番待ちの人だかりができており、ゴスロリ服の若い女性が、「……感謝のしるしとして、商店街が無料でお配りしております……」などと声を張り上げている。
「……こういう、わけです……」
「……おれたちは、ここで配っている中身を補充する係りで……」
 太介と高橋君は、順番に説明した。
「……こういうのが、駅前を中心にして、何カ所もあるわけで……」
「……なくなるのが速いから、どんどん空の鍋を持ち帰っては、新しい鍋、持っていきーの……」
「……いや……。
 そういうわけか……」
「せ、説明されてみると、あ、あっけない真相なのです……」
 小埜澪と静流は脱力したため息とともに、呟いた。
「でも……これ……全部、タダだって……。
 ここの商店街、そんなに儲かっているのか?」
 重ねて小埜澪がそういったのは、ぱっと見の印象であまり儲かっていそうに見えなかったからだ。
 こうしている今も、商店街の放送では駅前広場行われているイベントの様子を、賑やかに中継している。ここに立っていると音声だけしか聞こえないが、アーケードの中に入れば液晶ディスプレイが多数設置されており、そのディスプレイとネットにも、リアルタイムで動画が配信されている、という話だった。
 失礼ないいかたになるが、こんな商店街が主催するにしては……随分と、イベントの規模が大きすぎるような気がする……。
 普通に考えたら、かけた経費分をとりかえせないのではないか……とかいう部分を、小埜澪はひどく不自然に感じた。
「おれもよく知らないけど……ネット配信とか中継とかは、ほとんど手作り同然で、あまりお金がかかってないとか……聞きましたけど……」
「今回の、この無料配布も……ほとんど、玉木さんとか徳川さんが中心になっている感じで……」
 好奇心の強い小埜澪は、早速、
「では、その人たちに直接話しを聞きに行こう……」
 とか、いいだし、高橋君と太介に案内をさせる。
「やれやれ」といった表情の東雲と、それに何故か静流も、その後についていった。




[つづき]
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