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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(194)

第六章 「血と技」(194)

「……次、投擲っ! 別動隊は、網を準備っ!」
 成り行き上、二宮の術者を束ね、指揮することになってしまった小埜澪は、号令をかける。ミスターRは壁を背にしており、流れ弾で第三者を傷つける畏れもない。
 一般人の買い物客は、人払いをするまでもなく、遠巻きにして成り行きを見守っていた。
「……ほいっ。ほいっ。ほいっ……っと……」
 背中に手を回したままのミスターRは、間の抜けたかけ声とともに素早く足をひらめかせ、一斉に投げつけられた手裏剣や六角などの投擲武器を、ことごとく地面にたたき落とした。
 遠巻きにして成り行きを見守っていた野次馬連中が、どっとどよめき、ミスターRに向けて喝采を送る。
 玉木の放送の効果もあってか、大半の野次馬が、新手のアトラクションか何かと勘違いしているようだった。
『……まあ、その方が、こっちも助かるけど……』
 そう思いながら、小埜澪は、号令をかける。
「……投擲、そのままっ! 網、いけぇっ!」
 二宮系の術者が投擲武器を使用する時、その速度は、最低でも時速三百メートルを越える。つまり、拳銃弾とほぼ同じ速度の一斉射撃を受けても、ミスターRは、「足で」そのすべてを叩き落としている……ということになる。
 流石は、「最速」の野呂の長、といった所だが……。
『……こっちも……野呂のトップが、この程度で捕まえられるとは……』
 小埜澪も、思っていなかった。
 投擲武器は、あくまで、ミスターRを足止めするための道具だ。
 投擲武器を叩き落とすことに忙しいミスターRの頭上に、四方から投げつけられた網が迫る。
 その時……ミスターRは、にやりと笑って垂直に跳躍した。
「……にょーふぉーふぉーっ!」
 奇妙なかけ声とともに、ミスターRは、投げつけられた網を、横あいから、蹴った。
 ミスターRの体に覆い被さる筈だった投網は、ミスターRの足首にひっかかりそのまま、横に引きずられる。
 網を投げた者が、前のめりになった。
 ミスターRは、投網を足首に絡めながら、足で半円を描いて着地する。
「……ひょほっ……」
 四方から投げつけられた網のうち、三つが片足に絡まり、残りの一つはミスターRに踏みつけられていた。
 ミスターRは、網が絡まった足首を誇示するように、胸の位置まで上げて見せ、小埜澪にむかって、にたり、と笑って見せた。
「……ほぉれっ!」
 その表情に、何事かを感じ取った小埜澪は、直感に従って、「……退避っ!」と叫んでいた。
「レッツ、ダンシングッ!」
 片足に網を絡ませたまま、ミスターRの体が、独楽のように回転しはじめる。
「……ひょ、ふぉ、ふぉ、ふぉ、ふぉ……」
 と間の抜けた声を上げながら、ミスターRは、網を掴んでいた数人の術者ごと、その場で高速で回転する。
 遠心力に耐えきれなくなった術者が、一人、また一人と、外側に向かって投げ出され、その他に、比較的近距離から投擲武器を使用していた術者数名が、高速で回転する網に横合いから殴られ、少なからぬダメージを受けた。
「……最速は、最強に勝るっ!」
 そう言い残し、回転を止めたミスターRが再び逃走に移った時に、健在な二宮の術者は、以前の四分の一ほどに減っていた。そしてその、残った健在の術者でさえ、以前ほどの志気は期待できないようになっていた。
 ……所詮、六主家の本家筋には……という諦観が、生き残りの者たち全体に覆い被さっている。
『……まずいな……』
 かなり深刻な危機感を抱えながら、小埜澪は、なんとか動ける術者を先導するようして、ミスターRの後を追う。
 しかし、小埜澪は……そうした生き残りの術者でさえ、ミスターRに、すっかり心を折られている……ということを、さまざまと感じ取っていた。
 案の定、いくらもしないうちに、小埜澪は、ミスターRの姿をロストした。

「……なんてぇ、はしっこいんだ……」
 ガクは、ミスターRの後を追いながら、独り言を呟く。ミスターRの追跡を開始してから五分以上が経過していたが、ガクは一度もミスターRに追いつけていない。
 ミスターRは、せいぜい半径数百メートル内の狭い範囲内にしか出没していないから、単純に足が速いとかの問題ではなく、それにプラスして、完全に気配を断ち、誰にも気取られることなく、任意の、意表をついた場所に出没する術を持っている……としか、思えなかった。
 今までにも何度か、十名以上の術者、あるいはもっと多人数の術者と一般人の協力者とが自分たちの体で包囲網を作って一斉に飛びかかったりもしたのだが、ミスターRはその包囲網を愚弄するかのように易々と脱出し、まったくマークしていない場所に出現する。
 人数を集中させて取り囲む、という方法に効果がないことを悟って、術者たちは、人混みに紛れてさりげなく、方々に分散していった。
 暗黙のうちに、個々の術者が「ミスターR」に挑み、徐々に体力を消耗させる……という作戦に、切りかわったのだった。
 現に、当初、一緒に行動していた酒見姉妹も今では別行動をしていて、今、ガクは、テンと二人で行動している。
 ミスターR……つまり、野呂の衆の名目上のトップである竜斎に公然と挑むことができる機会など、そうそうある筈もなく、若くて野心のある術者ほど、実績を作り功名を得る機会に喜んで挑んでいった。
 ミスターRから見れば、「数十人の術者が、自分を見つけ次第、連続してガチンコ勝負を挑んでくる」という状態なのだが……。
 それでも、ミスターRは、そのことをまるで苦にした様子もなく、依然として悠々と逃げては、その合間に、セクハラをしまくっていた。
「……ちょっと待って!」
 ガクのすぐ後ろを走っていたテンが、そういって携帯電話を取った。
「……はい……。
 そ、そうなのっ! うん、うんっ!
 いいよっ! それでいいよっ!
 必要なものは、徳川さんにいえば調達してくれる筈だからっ! うんっ! うんっ!
 わかったっ! そういうことでっ! うんっ! 待ってるっ!」
 最初のうち、覇気のない声で答えていたテンは、会話を続けるうちに、声に張りを取り戻していった。
 通話を切ったテンが、会話をしていた相手の名を告げると、ガクもその場で飛び上がって、
「……勝てるっ! これで勝てるぞっ!」
 と歓喜の声を上げる。
 テンも、すぐにそれに唱和し、二人で笑いざわめきながら抱き合って飛び跳ねはじめた。




[つづき]
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Comments

次回はついに

ノリの登場ですね!?

話中ではあまり時間たってないんだけど, なんか久しぶりなので楽しみです. 背がのびて美人になってるといいなあ.

  • 2007/01/20(Sat) 09:12 
  • URL 
  • たまき #-
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