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彼女はくノ一! 第五話(280)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(280)

『……こちら、駅前広場特設ステージに来ております。
 さぁ、新たに白い杖の人と鎖のチョッキを着た人が参戦、ミスターR争奪戦も、この先どうなるのか、ますます予想がつかなくなってまいりました……』
 ステージに上がった玉木が、張りのある声で実況中継をはじめた。その音声は、商店街中にわんわんと響き渡っている。
 小埜澪の着衣を「鎖のチョッキ」と表現したのは、時代劇もみなければRPGゲームもやらない玉木の語彙に、「鎖帷子」も存在しなかったからである。

 有働たち放送部員と、それに、たまたま周囲にいた人たちが協力して倒れた人たちを運び出している。
 東雲の暗示の効果か、騒ぎ出す人もいなかった。
 かえって、玉木の実況中継につられて、今までこの騒ぎにあまり関心を示さなかった人たちまでもが、駅前に流れ込んでくる。

「……お、おじさま……」
 アーケード上に立った静流が、怒気をはらんだ声を押し出した。
「……お仕置き、なのです……」
 ミスターRは、若干、引き気味になる。
 昔から……普段は物静かな静流が、一旦怒りだすと手がつけられなくなる……ということを、よく知っているからだ。加えて、同じ野呂である静流と竜齋とは、身内同士でもある。
 お互いの手の内を、よく知り尽くしていた。
 だが……。
『……何……静流に、近寄らなければ……』
 内心、かなりたじろいでいるミスターRが、自分自身にそういい聞かせている。
 と、
「どうする?
 りゅ……じゃなかった、ここでは、ミスターRだったっけか?」
 小埜澪が、好戦的な笑みを浮かべて、ミスターRに近づいていった。
「あんまり棒立ちになっていると……こっちから、いくよ……」
「……それから、こちらのこともお忘れなく……」
 背後からは、東雲の声も聞こえる。
「あんまり、動かないでいると……書き換えちゃうぞっ、っと……」
「……けっ! ひよっこどもが……」
 いいながら、ミスターRは肺腑の中の空気を抜き、胸郭を収縮させた。
 急激にミスターRの胸囲が小さくなり、巻き付いていた鎖が、気を失った酒見姉妹ともども、地面にずり落ちていく。
 これからの展開を考えると……重しは、ない方がいいのだ。
「いくら束になってもなぁ、まだまだ青二才にやられるおれじゃあ、ねぇんだよぉ……」
 ミスターRは助走もなしにその場で飛び上がり、アーケードの上に着地。
 そのまま、アーケード上を疾走しはじめる。
「……お、おじさま……」
 見ると、静流が併走していた。
 駅前とは違い、人目がないと判断したのか、仕込み杖を抜いて白刃を晒している。
「お、往生際が、悪いのです……」
 ほとんど全盲に近い弱視である静流は、普通ならミスターRと同じくらいの速さで走ることなど不可能な筈であったが……静流は、視力以外の感覚や能力は、常人に数倍する。だから、ある条件さえ整えば、全力で疾走することもできた。
 ……視覚の障害さえなければ、術者としても大成できたのになぁ……と、静流について、ミスターRは、そう思っている。
「……逃げるつもりはあ、ねぇけどな……」
 いいつつ、ミスターRはさらに速度を上げる。
 静流を引き離したところで、瞬時にきびすを返し、静流に向かって突進しながら、懐中から取り出した六角を投じた。
 静流に少し遅れて併走していた犬が、一声、短く吠えたので、静流は横に飛び退く。
 ミスターRの投じた六角が静流の仕込み刀を砕くのと同時に、静流の横をすり抜ける形となった。
 あの犬は……そういう訓練を受けている、のか……と、ミスターRは納得する。
「……こっ、のぉおっ!」
 今度は、静流の後に続いていた小埜澪が、ミスターRに六角を投じた。
 もの凄い勢いで、殺気さえ、籠もっているように感じられたが……。
「……ひょっ、ほ、ほ……」
 ミスターRの動体視力と反応速度をもってすれば、楽々と迎撃できる速度なのだった。
 ミスターRが投じた六角は、甲高い音をたてて、小埜澪の六角を的確にはじく。
 ミスターRは、自分に向かってくる小埜澪の動きを予測し、その脇をすり抜け、無造作に足を払う。
 ミスターRの動きに目がついていかなかった小埜澪は、雪の積もったアーケード上をそのまま前転して勢いを殺し、立ち上がる。
「……だから、速度が伴わなくては、わしには敵わんって……」
 足を止め、ことさらのんびりとした口調で、ミスターRは、小埜澪に告げた。
 自分に匹敵する素養を持ちながら、視覚にハンディキャップを持つ静流。
 筋力では自分を凌駕しながらも、反応速度が追いつかないために、自分を捕らえられない小埜澪。
 その二人が同時にかかってきたところで……ミスターRはさほど脅威には思えなかった。
 小埜澪は、口惜しそうに下唇を噛みながら、ミスターRを睨む。
 その時、
「……それじゃあ、さぁっ!」
 ミスターRの背後から、いきなり声をかけてきた者がいた。
「ミスターRに匹敵する……いや、ちょっと劣るぐらいの速度を持つのが二人、同時かかっていったら、どうなる?」
 手足と胸部に無骨なプロテクターをはめ、ヘルメットを被った子供が、自分の体よりも重たい鉄板を、両手で軽々と頭上に掲げている。
 ガク、だった。
「ようやく出てきたかぁ……新種ぅ……」
 ミスターRが、にたり、と笑った。
「その酔狂な格好と鉄板が気になるが……待ちかねたぞっ!」
「……なんだ、おじいちゃん……」
 ガクは、心底詰まらなそうな声を出す。
「まさか……ボクたちとやりあいたかったから、こんな騒ぎを起こしたっていうの?
 そんなの、一言いってくれれば、いくらでも相手したのに……」




[つづき]
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Comments

つながってないス

いや、上の「つづく」がリンクになってないすよー

  • 2007/02/02(Fri) 12:30 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

修正しましたよー

ご指摘感謝。

  • 2007/02/03(Sat) 03:45 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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