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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(197)

第六章 「血と技」(197)

「……わぁ……凄いことに、なっているなぁ……」
 液晶ディスプレイの映像をみて、栗田精一、柏あんな、堺雅史らと一緒に駅前広場にかけつけた飯島舞花は、呆然と呟く。
 顔見知りの放送部員たちとその場にいた数人の人たちが、倒れた人たちを肩に乗せて運びだそうとしていた。
 アーケードの前では、覆面姿のミスターRと小埜澪、東雲目白が、緊迫した雰囲気を放射しつつ、何やらいいあっている。
 ステージ上では、エレキギターをBGMに玉木がなにやらアナウンスを行っていた。
「……まーねーっ!」
 立ち竦んだ舞花の腕を、栗田精一が、少し強めに引っ張る。
「考えるのは、後っ!
 今は、倒れた人なんとかしなけりゃっ!」
 そういいながら栗田自身は、放送部員の肩からぐったりした人を受け取り、その人の腕を自分の首に回した。
「そっ……そう、だな……」
 舞花は慌てて、栗田が抱えた反対側の腕を、自分の首に乗せ、二人で一人の人を抱えた。
 実際に倒れている人たちをみて、一瞬、動転してしまったが……このような被害が出る可能性は、常につきまとう……ということは……今まで、荒野たちに何度も説明されていた筈だった。
 ただ、その認識が……舞花の現在の生活と、あまりにも隔たりがあったので、これまで、あまり本気で実感できなかっただけで……。
「この人たち、どこに運べば……」
 舞花は、近くにいた放送部員に尋ねる。
「……どうします? 有働さん?」
 その放送部員は、有働勇作に質問を廻した。
「……とりあえず、コンテスト出場者の控え室に……」
 有働は、携帯を取り出しながら、答えた。
「あそこなら、空調も効いているし……この人数を収容もできるし……」
 有働は、ステージの上にいる玉木を一瞥し、一瞬考えて、茅の番号をコールした。
 その背後では、柏あんなと堺雅史も、舞花たちに倣って気を失っている人を肩にかけて、運び出そうとしている。
 二、三のやりとりで、運び込む場所は、そこでいい、医者は、茅の方で手配してくれる、というのを確認して、有働は一旦通話を切った。
 安心、はできないが……咄嗟の時、込み入ったことを相談ができる相手がいると、不用意に慌てなくて済む……と、有働は思う。
 有働は、どちらかというと誰かをあてにするよりは、「頼りにされ、相談される」ことの方が多かったから、茅や荒野といった、多少風変わりではあるにせよ、自分よりもしっかりとした友人を持てたことで、安心している所もある。
「……あの……」
 そんな有働に、声をかけてきた者がいる。
「できれば……信用してもらえれば、で、いいんだけど……。
 そのカメラ、おれたち野呂の者に、貸してもらえないか? いや、貸してもらえませんか?」
 高橋君、だった。
「……あーあー……。
 こんなところで寝ちゃって……」
 少し離れた所では、甲府太介が、酒見姉妹の体を、一人ずつ左右の肩に乗せていた。
 痩せているとはいえ、年上の女性二人を肩に乗せた少年の足取りは軽く、特に苦にしている様子もない。
「あの……こいつら、どこに運んでおけば……」
 しばらく周囲を見渡した後、有働の方に歩いてきて、そう尋ねました。
 有働は、高橋君に手にしていたビデオカメラを渡し、太介に向かっては、
「一緒に行きましょう。
 ……ついてきてください……」
 と、いった。
 有働が高橋君にカメラを手渡したことで、他の放送部員たちも、それに倣った。
 この間の工場と、それと、今朝の雪かきとで、一族の者たちとはいくらか面識ができていたし……彼らなら、自分たちには近寄れない場所ででも、撮影が可能なのだ。
 荒野たちを信じることにしたのなら……彼らのことも、信用するべきなのだろう。
 たとえ……今回のような、被害が出たとしても。

「……これ、いらない……」
 トラックの助手席の人物が、眼鏡を外してライフルを構えてから、ライフルからスコープを外した。
「なくても……遠くの方が、よく見えるぐらいだし……」
「本当に、それ……使うのですか?」
 運転席の敷島は、心配そうな表情を浮かべた。
「射撃訓練、とかは……」
「したことないよ、もちろん。
 ぶっつけ本番……」
 その人物は、器用なことに、狭い車内でスコープを外したライフルを、片手で、振り回してみせる。
「……うーん。
 やっぱ、重量バランス的に、両手で扱うように出来ているんだなぁ……。
 本当なら、銃座もとっぱらいちゃいたい所、なんだけど……。
 細かいカスタマイズは、後の宿題、かな?」
 その人物は、振り回していたライフルを一度自分の膝に置き、もう一丁のライフルを取り出して、やはりスコープを外しはじめた。
 どちらも、孫子のライフルを複製する時に、何丁か同時に製造したスペアだ。
 それらを、徳川の工場から持ち出してきてるわけで……。
「……たとえ、スタン弾とはいっても……炸薬は、本物なんですから……」
 敷島が、やけに心配そうなそぶりを見せる。
 彼女に何かあったら……敷島は、ライフルの持ち主である孫子と、工場の責任者である徳川、それに荒野にまで責められるような気がする……。
「くれぐれも、扱いには、気をつけてください……」
「……分かっているって……」
 そんな敷島の心配を、知ってか知らずか、その人物は、にこやかに返事をして、今度は、ずらりと弾倉が鈴なりになっているベルトを、肩や腰に着けはじめる。
「じゃあ……眼鏡は、頼んだね……」
 体に巻き付けた弾倉だけでもかなりの重量になる筈だったが、そのままドアを開け、両手に一丁づつのライフルを持ったまま、軽い身のこなしで外に出た。
「……待たせたねっ!
 行こうか、テン! ガク!」




[つづき]
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