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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(198)

第六章 「血と技」(198)

「……しかしまあ、なんか、ひどく妙なことになったもんだなぁ……」
 カメラを抱えてミスターRと、ミスターRを追っている者たちをさらに追いかけている、野呂の者たちは、そうささやき合っていた。
 ただでさえ、一族にとって、この土地は、かなり「微妙」な場所になっている。
 結果として荒野たちが掲げることになった「一般人社会との共存」というテーゼを否定するにせよ、肯定するにせよ……どちらの立場にあろうが、一族でこの土地のことを無視することができる者は、皆無であろう……。
「……ったく、何を考えているんだか、あのハゲは……」
 あのハゲ……とは、いうまでもなく、ミスターRこと、野呂竜斎のことを指す。
 いくら覆面をしようとも、あの体型と性格は、隠しようもない。というか、当の本人からして、隠すつもりもなく、それどころか誇示しているような節もある。
「……荒野さんも……苦労だよなぁ……」
 つい数日前、酒見姉妹に先導されて、自分たちが荒野の一党を襲ったことは、とりあえず、置いておく。一族にとっては、目上の者を、従う価値があるかどうかをまず試すことは、特に珍しいこともない。
 仮に、あの程度の襲撃でどうにかなるようなら、荒野たちも「口ほどでもない輩」として、一族のうちでは総スカンの憂き目にあい、誰からも省みられなくなる筈であった。一族の根本は、時に過剰なほどの実力主義社会であり、故に、荒神とか竜斎とかいう、何かと偏った性格の者でも二宮や野呂の長として認められている……という側面もある。
 つまり、彼ら、移住組の一族の者が、荒野たちの一党の指示に唯々諾々と従っているのは、荒野たちそれぞれが、相応の実力を自分たちに証明して見せた、という実績による。玉木や有働、徳川など、本来なら一族との接点がない子供たちにしても、実際につき合ってみると、荒野が一目置くだけのことはある……と納得するだけの能力を発揮している。
 そんなことをぶつぶつ愚痴りながら、野呂の者たちは、必死になってミスターRとその他大勢との戦いをカメラに収めた。
 この映像が、どの程度、中継されているのか、それに、後でどのような利用のされ方をするのか、彼らは知らない。すべて、あの、特異な子供たちの胸先次第だろう……と、思うと……なんとなく、痛快に感じた。
「……あいつらは……物怖しない、というか、人をこき使うことに、ぜんぜん、遠慮しやがらねぇからなぁ……」
 という「苦笑い混じりの賞賛」が、この近辺に流れてきた一族の者の、荒野の一党に対する心証である。
 あの子供たちは……自分たち一族の将来に、決して少なくはない影響を、与えつつある。ことの重要性を理解できていない、ということも、ないのだろうが……そのことで、萎縮する、ということもない……。
 そして……むやみに怖がられるよりは、それくらい図々しい態度で接してくれる方が、むしろ快かった。
 玉木や徳川、有働たちに対する、彼ら移住組の感情をあえて言語化すれば、以下のようになる。
「……一般人にも、骨のある奴らが、いるじゃあないか……」
 と。
 そういうこともあって、彼ら積極的に、玉木たちに協力している。
 もちろん、荒野がこれから作りつつある、この土地が……この先、どのような姿を成していくのか、自分たちの目で確かめてみたい、という好奇心が、先に立っていたが。
 ともあれ、そうした長期的な展望はさておき……すぐそこで展開されている、ミスターRと敵対者たちとの戦い……に、彼らの目は釘付けになっていた。
 術者同士の戦い……自体は、彼ら術者にしてみれば、さほど珍しいものではない。
 しかし、「六主家の長」が直々に動くような場面を目の当たりにすることは、流石に、極めて希である。
 加えて……その長が、手を抜いているようにも見えないのに、これほど「長引いている」という事実も、驚嘆に値した。
 すでにその実力が周知のものになっている、小埜澪と野呂静流の両名は、ともかく……新種の三人も、実力を発揮する機会さえ、与えられれば、かなりの働きをするものだ……と、彼ら、現役の術者からみても、そう思える奮戦ぶりを、シルバーガールズは見せていた。

 当初、攻勢に加わっていた小埜澪と野呂静流は、「シルバーガールズ」が出てくると、その場から後退し、距離を置いた。
「シルバーガールズ」の攻撃は、だいだい、大ざっぱで時に場当たり的でもあり、三人がかりでミスターRにかかっていきながら、連携も、なっていない。
 お世辞にも洗練された動きとはいえなかったが、それでもその動きの鋭さは、並の野呂の術者に勝っていた。
 その三人が、野呂の頂点にあるミスターRと本気で戦いはじめると、平均的な野呂の術者でさえ、ともすれば、目で動きを追えなくなる。
 一応、カメラを向けてはいるが、どこまで彼らの動きを捕捉できているのか、かなり疑問だ。
 実際問題として、今、この場にいる者の中で、三人の動きについていけるだけ能力を持つ者は野呂静流だけであり、その静流は、視覚に障害があるため、乱戦の場に介入することは、事実上不可能。
 頼みのシルバーガールズも、一人はミスターRの動きになんとか追いついている、という状態であり、もう一人は、何を考えているのか、「自分の体よりも大きな鉄板」などという、扱いにくい代物を片手で振り回している。いや、「振り回せる」だけ凄い、というべきなのかも知れないが、そう言い直したからといって、ミスターRの動きについて行けない鈍重さは、帳消しにはならない。もう一人、最後の、ライフルを手にしたシルバーガールだけが、ミスターRと互角以上の動きを見せている。
 事実、ミスターRが、野呂の上級者にのみ可能な、多数の残像を残す超高速攻撃……一般人のフィクションの中では、「影分身」と呼ばれ、「物理的にあり得ない」とされている。しかし、その能力を極めた野呂の者が、そうした技を使用するのは、紛れもない事実である。一族の上級者は何かと非常識な存在だから、物理法則さえ曲げてしまうのかも知れない……を行うと、他の二人は呆気なく吹き飛ばされ、長身でライフルを手にしたシルバーガールだけが残った。
 地味な色合いの作務衣を着ているミスターRに比べ、ライフルを手にしたシルバーガールは、他の二人とは違い、縁取りの塗装さえしていない、銀無垢のプロテクタを着用していた。他の二人よりも長身のシルバーガールが銀色の残像を残して積雪の残るアーケード上を駆け抜ける様は、ほぼ同じ速度で疾駆していているミスターRよりも颯爽としていて、より早いように錯覚してしまう。
 いや。
 よくよく見てみても、確かに、直線距離においては、シルバーガールの方に分があるようだったが、ミスターRの方が小回りがきき、旋回半径が小さい。ずんぐりした体型に似合わず、ミスターRは、驚くほど機敏だった。
 ちょこまかと細かく方向を変えるミスターRに比べ、やや直線的な動きをしがちなシルバーガールの方は、小回りが効かない不利を、射程の長い銃器の使用で補った。
 そのライフルを扱う手つきも、最初のうちは、どう見ても危なっかしいものだったが……時間が経過するにつれ、かなりスムーズになっていく。
 例えば今では、ライフルの弾倉を交換するのに、瞬きほどの時間もかけない……つまり、ほとんど隙らしい隙に、ならないまでになっている。
 長いように感じているが……三人目のシルバーガールズが登場してから、まだ五分も経過していない。ミスターRの登場から起算しても、せいぜい十五分、といったところだろう。
 三人目のシルバーガールズは、疾走する速度だけではなく、その学習能力についても、かなり「速い」……と、断言してもいいようだ。




[つづき]
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