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彼女はくノ一! 第五話(282)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(282)

 疾走しながら、ノリは、ミスターRに向かい、無数のスタン弾を放った。いくつもの弾倉を空にしていたが、まともに命中したのはテンとガクが連携して隙をつくってくれた時、左の腿と足首に当たった二発くらいで、それ以外はことごとく狙いを外されている。
 ミスターRは、ただ単に「動きが速い」というだけではなく、老練でもあった。
 こちらの動作を読み、引き金を引く前後でランダムに進路を変えて、着弾点から身を離す。
 そして、少しでもノリの動きが悪くなるようなら、容赦なく六角を投じてくるのだった。もちろん、ノリは、二の腕につけたプロテクタではじくわけだが、高速で移動しているミスターRの慣性を乗せたまま突進してくる六角は、ひどく重かった。
 これは、ノリ自身の体感だけ、ということでもなく、数発を受け止めただけで腕のプロテクタがぼろぼろになり、使い物にならなくなったことも、ミスターRが自身の速度を攻撃力に転化する術に習熟していることを証明している。
 ノリはすぐに使い物にならなくなった腕のプロテクタをパージした。
 何、身軽になったほうが、実はノリ自身にとっても、都合がいい。それだけ速く動ける、ということだから。

「……大丈夫か? ノリっ!」
 ヘルメットの無線越しに、ガクが尋ねてくる。
「プロテクタ、渡そうか?」
 プロテクタをパージしたノリを、心配してくれるのだろう。
 また、シルバーガールズの装甲は、三人とも同一規格の量産品を使用している。ガクやテンのプロテクタを外して、それをノリが身につける、ということも可能だった。
「……ぜんぜん、大丈夫……」
 そのような様子で、一見してノリが不利にみえる状況が続いたが、ノリ自身に焦りはない。
「だって……楽しいじゃないかっ!
 ボクの速さについてこれる人なんて……ボク、初めてだよっ!」
 虚勢、ではない。
 ノリの声は弾んでいた。それに、しばらくすると、ノリの鼻歌までもが、無線に入ってきた。

「……倒れた人たちを、収容してきました」
 そういって、有働が入ってきた。
「ご苦労なの。
 医者の手配は、しておいたの。
 先生……三島先生と、近所のお医者さんが何人か、来てくれるって……」
 ディプレイから目を離さずに、茅が答える。
 茅は、孫子のアンプル弾に毒性がないことを知っていたが、対外的なイメージという問題もあり、念のために心当たりに連絡をつけておいた。商店街で、一度にあれだけの人数が倒れたのだから、たとえ無事だと分かっていても、できる限りの手を尽くすのが当然であり、誠意のある行動だ、と、思っている。
「……どうですか? そっちの様子は?」
 有働は、茅、楓、徳川の背中越しに、身を乗り出してディスプレイを覗き込む。
 報告に来た、というのも嘘ではないが、それ以上にミスターRの件がどうなっているのか、という好奇心を持っていた。
「……人間ドッグファイトだな、これは……」
 徳川が、ぼつりと呟く。
 徳川、茅、楓は、近隣のビルの屋上や、それに、野呂の術者たちが手持ちしているカメラからの映像をモニターしている。
 建物の上から俯瞰してみた場合、ノリとミスターRが、アーケード上という細長い空間を縦横にかけめぐる様子が確認できた。
 手持ちカメラの映像は、より近距離で二人が動く様子が確認できる。こちらは、被写体の動きが速すぎるため、たいていの場合ぶれが大きく、ようやく「何が映っているのか」判別できるていどの鮮明さしかないことが多かったが……そうした不鮮明さが、かえって臨場感を増幅していた。
『……大丈夫か? ノリっ!
 プロテクタ、渡そうか?』  
『……ぜんぜん、大丈夫……。
 だって……楽しいじゃないかっ!
 ボクの速さについてこれる人なんて……ボク、初めてだよっ!』
 シルバーガールズ同士の無線通話も、そこで傍受できるようになっていた。
 しばらくして、ノリの鼻歌が聞こえてくる。
「……楓。
 玉木に連絡。この映像を、今からネットと商店街に流すの……」
 ノリの様子を確認し、茅は、そう決断した。
 楓にそう告げるとともに、忙しく手を動かし、何十もあるカメラの映像を、放映に適した形にピックアップしはじめる。
 楓が慌てて席を立ち、その後に有働が座る。
「……手伝います……」
 中継のためのシステムは、細部に若干の改良が施されているそうだがの、インターフェイス部分は有働が知っている放送部で使用していたものと、ほとんど変化がなかった。
「ここで……やつらの存在を、おおやけにするのか?
 完全にカミングアウトするには、まだ時期尚早だと思うが……」
 徳川は徳川で、忙しく手を動かし、放映に必要な設定作業をしながら、茅にそう尋ねた。
「玉木に任せるの」
 茅は、端的にそう答える。
「茅たちは、今、ここで起こっていることを、映像という形で流すだけ。
 それに意味付けをするのは、玉木の仕事なの……」

「……え?
 って、いきなりそんなこといわれても……」
 玉木は、珍しく戸惑っている。
「もう……はじまっているじゃんっ!」
 楓がステージ上にいる玉木の元に駆けつけた時、すでにアーケード上の映像がリアルタイムで流れていた。
 ステージ……というよりは、駅前広場の周辺部には、数多くの液晶ディスプレイが設置されていたので、ステージ上の玉木からも、十分に確認できた。
 液晶ディスプレイには、だいたい、上空から俯瞰した構図で、スピードスケートの何倍もの速度で飛び回っている二人が映っていた。
 時折、断続的に、横からみた映像が挿入されるので、現在、活発に動きまわっているのは、ミスターRとシルバーガールズの一人……他の二人より長身であること、それに、臑のプロテクタに縁取りがしておらず、銀無垢であること、などから、そのシルバーガールズが、三号、こと、ノリであると、玉木は推測する。三号とおとぼしきシルバーガールは、何故か腕のプロテクタを外して、ライフルを構えている。
 その他二名のシルバーガールズも、動いていないわけでもなかったが、ミスターRと三号の動きと比べると、断然、鈍い。
 カメラが二人の後を追うと、フレームに入らないことの方が多かった。
「……それで……どこまで、話しちゃっていいわけ?」
 マイクをオフにした玉木が、小声で楓に尋ねる。
「それは、聞いていません」
 楓は、きっぱりと答えた。
「茅様は、今、この場で起こっていることを中継する……と、玉木さんに伝えろ、といっただけです。
 他には、何も……」
「……そっか……」
 玉木は、ぽつりと呟いた。
「……ったく、信頼されているんだか、いいように使われているんだか……」
 複雑な表情をしながら、玉木はマイクのスイッチをいれ、ステージの中央に戻った。 




[つづき]
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