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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(207)

第六章 「血と技」(207)

 香也とノリが絵について話し、楓たちが台所で食事の支度をしている時、徳川と軽く語らったノリは、羽生の部屋にいってそこのマシンでLinuxの比較的簡素なカーネルをダウンロードして、データをDVDに焼いて居間に戻り、新しいマシンに展開した。
 それから一旦、電源を切り、LANケーブルを引っ張ってきてマシンに接続。電源を再び立ち上げ、ネット接続回りの設定を手早く行い、WEBに接続。徳川の指示に従って、工場内のサーバから必要なデータをダウンロードしはじめた。
「後は……データが重いから、全部来るまで時間がかかると思う……」
 そばで見ていた堺に、そう解説する。
「ひょっとして、撮りためた動画データ、全部?」
 堺が確認すると、テンは、
「そう。その方が、今後の作業もやりやすいし……」
 と、頷く。
 テンの指の動きは目で追うのには速すぎた。堺が確認できたのは、高速で切り替わる画面くらいだが、それでも、テンがどんな操作をしているのか、どうにか見当をつけることができた。
 堺は、茅や佐久間先輩、それに楓のキータッチに慣れていたので、テンの速度にもさほど戸惑わずにすんだ。
「……なーにぃー?
 もーはじめてるの?」
 一度は台所に引っ込んだ玉木が居間に戻ってくる。
「……玉木は手伝わんのか?」
 徳川が尋ねると、玉木は軽く首を振りながら炬燵に入った。
「三島センセに引導渡された。
 お前はもう、わたしの前で包丁持つなってーの……って……」
「似てない」
 徳川は、玉木の物まねを一蹴する。
「本格的なシステム構築とかにはまだ手をつけないけど、動画データだけでもこっちにコピーしておけば、なにかとやりやすいかなぁ、って……。
 茅さんも一通り、早めに見ておいたほうがいいだろうし……」
 本格的な漫才がはじまる前に、と、テンが玉木に説明した。
 徳川と玉木は、昔からの知り合いという気安さもあってか、二人きりで話し出すと、途端に冗長性が高くなり、会話の効率が極端に悪くなる……ということを、工場などで目撃してテンも学習していた。
「……こんばんわなの」
 その時、玄関の方で茅の声がする。
 勝手知ったる何とやら、というやつで、案内も乞わず、ティーセットを抱いた酒見姉妹を引き連れて、そのまま居間に入ってきた。
「……あっ、茅さん。
 今……」
 新しいマシンを指さして、テンが説明をしようとすると、
「後で」
 ぴたり、と、茅はテンの言葉を遮る。
「今から、お茶をいれるの。
 詳しいことは、その後でゆっくり聞くの」
 茅にとっては、おいしいお茶をいれることの優先順位は、かなり高いようだった。
「ええ。ごめん」
 茅と酒見姉妹が台所に入っていくらもしないうちに、玄関の方で時代がかった挨拶の声がする。
「……んー……。
 ちょっと、見てくる」
 まがりなりにもこの家の息子である香也が、ノリとの会話を中断して、腰を上げた。

「あ。
 今日の……」
 香也が玄関まで出向いてみると、そこには小埜澪、東雲目白、野呂静流の三人と、その三人から少し下がって、三角布で腕を吊って顔の上半分を包帯でぐるぐる巻きにした、太ったお爺さんがいた。何故、包帯で顔のほとんどが隠れたその太った怪我人が「お爺さん」だと見当がついたかというと、顔の下半分からはみ出していた髭が白かったからだ。小埜澪、東雲目白とは今日知り合ったばかりの間柄だが、香也が竜齋に合うのはこれが初めてだった。
「やー。どもども」
 四人を代表して、スーツ姿の東雲が持参した包みをかざしてにこやかに挨拶をする。
「今日はさ、朝から皆さんに色々とお世話になりっぱなしでさ、ここから離れる前にお礼でも、ってね……」
「……わ、わたしは……」
 静流が前に進み出て、包帯に包まれた竜齋の頭を強引に下げさせる。
「お、おじさまがご迷惑をおかけしたから、そのお詫びにと……」
「……んー……」
 香也は少し考えたが、すぐに居間にいる荒野に声をかける。
「……なんか、そっちの知り合いの人が、大勢来ているけど……」
「……あー。
 またか?」
 頭をかきながら、荒野が玄関先に出てくる。
 そして、来訪者たちの顔ぶれを見て、露骨にげんなりとした顔をした。
「って……。
 わざわざ来てくださるまでもないのに……」
 荒野は一応、敬語を使った。
「そういいたい気持ちはわかるけど……」
 小埜澪は苦笑いする。
「その……あがっても、いいかな?」
「どうする?」
 荒野は香也に尋ねる。
「……んー……。
 別に、いいと思うけど……」
 香也には、断らねばならない理由はなかった。
「この家の人の許可が下りました。
 どうぞ、奥に……」
 荒野はにこやかに嫌味をいった。

「……あー。
 ミスターRぅ!」
 居間に入ってきた竜齋を指さして、玉木が叫ぶ。
「……五十六点」
 包帯の合間から玉木を一瞥した竜齋がボツリと呟き、その竜齋の足を静流が念入りに踏みにじった。




[つづき]
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