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彼女はくノ一! 第五話(306)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(306)

 香也の上から降りたガクは、
「……っ。
 まだ、おにーちゃんのが、体に入っているような気がするぅ……」
 と、涙目で軽く顔をしかめた。
 股間から足元にかけて、一筋の血がながれているのが、痛々しい。
「……馬鹿……」
 テンが立ち上がり、ガクの肩を抱き寄せる。
「こんな時くらい、無理すんな……」
「いや……無理にでも笑わないと、泣いちゃいそうだし……」
 ガクは、テンの包容を受けながら、やはり無理にでも笑ってみせる。
「ガクは……いつも、ボクたちのために、無理をしすぎる……」
 テンは、頭をガクの肩に乗せ、顔を伏せながら、そういう。
「……ごめん……」
 ガクが、微妙な表情をして、呟いた。
「謝るなよ……。
 ……本当、馬鹿なんだから……」
 テンは、顔を伏せながら、小さく呟いた。

「……はい、おにーちゃんは、こっち……」
 二人がそんなやりとりをしている間にも、香也は、テンに手を引かれて、洗い場に移動している。香也にはもはや、抵抗する気力も残されていない。
 テンは、香也がなすがままにされているのをいいことに、シャワーで香也の股間を洗い流した。
「わっ……。
 まだ、ここ、元気……。
 すごいねー、おにーちゃん……」
 シャワーで洗い流しながら、テンはこわごわと香也の起立を手で探る。
「……んー……」
 香也は、のんびりとした口調で答えた。
「なんか、ここまでくると、かえって現実感がないっていうか……」
 ……あっ。
 麻痺しているんだ……と、その会話を聞いていた羽生は、香也の心理をなんとなく察した。
 ……確かに、理性のどこかを麻痺してしまわなければ、現在香也が置かれているような現状は、なかなか受け入れられないだろう……と、羽生も納得する。
「……まだ、こんなんなんですねぇ……」
「こんなに大きくして、苦しそう……。
 なんなら、わたくしたちが最後まで……」
 香也の前に、楓と孫子が進み出た。
 こころなしか、声がねっとりと艶を含んでいる。
「このままでは、つらそうですわ……」
「わ、わたしなら……ここで、最後までしても……」
 ……楓と孫子は、香也の直前で軽くもみあいをはじめた。
「……んー……。
 いい」
 香也は、妙にきっぱりとした口調でいって、ノリの肩に手をかけ、ノリの体をそっと横にずらす。
「……疲れたし……。
 それに、こういうの、あまり勢いや惰性でしたら、いけないと思う……」
 香也はノリ、楓、孫子の脇をすり抜けて、大股で浴場を出ていく。香也には珍しく、何となく、誰にも有無をいわせない、気迫、みたいなものを漂わせていた。
「……おにーちゃん……。
 怒っちゃった?」
 香也が脱衣所で着替えを抱え、服も着ないで出ていった後、ガクが、こわごわと、といった風情で羽生に尋ねる。
「……怒った、というより……」
 羽生は、軽くため息をつき、
「あれは……なんとなく、そのままで流されちゃった自分に腹をたてているんじゃないのかな……」
 と、ごく簡単に説明した。

 いくら、大勢に囲まれ、逃げ出すのが難しい雰囲気だったとはいえ……ガクのような小さな子と、こんなことをしてしまったことを……香也は、出血をみて、事の重大さを、改めて認識したのではないだろうか……。
 と、羽生は、香也の態度から、推測した。
 しかし、そのような詳細を……まさか、ガク本人の目の前で、しゃべるわけにも、いかない。
 ガクはガクで……強引で、思慮が浅い側面は否定できないにせよ……それなりに、真剣に考えた上で、こうした行動に出ているのだ。それは、ガクだけではなく、テンやノリ、楓や孫子にも、いえることで……。
『……悪意がなく、真剣で……みんな、いい子で……』
 だからこそ、難しいよな……と、羽生は、心中で思う。
 遊び感覚や、興味本位でこのようなことを行為しているのなら、まだしも本気で怒る事ができるのだが……。
 そこまで考えて、
『……それをいったら……こーちゃんのが、よっぽど難しいか……』
 と、思い直す。
 どの子も、拒否したり邪険にしたりするのが難しいほどには、魅力的だし……加えて香也は、他人と細かな感情を伝え合うことが、あまり得意な性格ではない。
 ことに今回のように、相手が、外見的にいかにも子供っぽいガクやテンなどから、明白に性的な関係を強要された時、相手を傷つけずにスマートにかわせるほど、香也は器用ではない。ノリも含めて三人が、楓や孫子と香也がそういう既成事実を作ってしまった、という事実を知っている状態であるから、なおさら、断るのが難しい。
 外見的な年齢、あるいは、香也自身の意志……どちらを口実にして断るにせよ、相手を傷つけることは確実で……そういう駆け引きややりとりに、香也は明らかに不慣れだった。
 そして……。
『……実際に、血をみて……』
 自分の不甲斐なさに対して、自己嫌悪を覚えている最中なんだろうな……と、羽生は香也の心理を想像する。

 とにかく、香也は……今まで人つきあいをさぼってきた分、こうした駆け引きや機微に、場慣れしていない。
『……こーちゃんも、大変だけど……』
 この子たちも、大変だよ……。
 と、羽生は同性の同居人たちを見渡して、しみじみとそう思った。
 年少の三人はいうに及ばず、楓にしろ、孫子にしろ、誰もがちょっとづつ、「ズレ」ている。
 同年輩の、ごく普通の生活を送ってきた、例えば、樋口明日樹とか玉木珠美、飯島舞花などとは、ちょいとしたところで感覚や価値判断にズレがある。
 流石に、楓や孫子などは、学校に通うようになってからこっち、同級生らの影響か、急速に「普通の感覚」を学びはじめているようだが……。
『……三人の方は、まだまだ世界が狭いからな……』
 ことに最近は知り合いも増えて、つき合いがぐんと広がっているようだったが、それでも、まだまだ「こっちの世界」に来て間もないので、香也とはまた違った意味で、他人とのつき合い方をよく分かっていない節がある。
『……こういうのは……』
 三人の、社会適合の具合とかは……もう一人の「こうや」、加納荒野も、管轄外だろうな……と、羽生は思う。
 あっちはあっちで、何かと個性的なニンジャさんたちのお世話とか尻拭いでイッパイイッパイのようだし……そもそも荒野は、三人の保護者でも後見人でも、なんでもない。
 もしも、三人が、「こっちの世界」に適応っできなければ……荒野なら、あっさりと三人を見限りそうな気がする……。
 もっとも、羽生が見るところでは、三人の学習能力と順応性は、かなり高いので、そんなことにはなりそうもなかったが……。
 いずれにせよ……。
『……みんな、それぞれに……』
 複雑な子たちだよ……と、羽生は、思う。
 もちろん、その「複雑な子」の中には、香也も含まれているわけだが……。




[つづき]
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