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彼女はくノ一! 第五話(309)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(309)

 そのような取り決めによって、「今日は、ガクの番」ということになっているわけで……昨夜、「中立だから」という訳の分からない理由で、半ば無理矢理、順番を決めるためのあみだ籤を作らされた香也も、しかたはなしにそれを受け入れている。下手に逆らっても余計に事態がこじれるだけだし、表面的には彼女らの提案を受け入れてみせて、後はできる限り自分のペースを維持しよう、とは思っている。年端もいかない子供でもあるまいし、そうそう他人の世話を必要とすることもない。香也さえ毅然としていれば、今までと特に変わらない筈だった。

「……皆さん、今日の予定の方は……」
 朝食の時、羽生が、いつものように皆に尋ねる。
 羽生は羽生で、真理の留守中に家庭内の人間関係がどんどん変質していくことに対して、複雑な思いを抱いているのだが……それでもまさか、世間体を考えて、年頃の娘たちに「他人に好意を持つな」ともいえない。
 昨夜、あやうく妖しい雰囲気に引きずりこまれそうになった羽生は、「それ以上、彼女たちのペースに引き込まれない」ことを、自分自身の指針としている。
「……今日はねー、ノリが帰ってきたし、午前中の家事が終わったら、トクツーさんの工場にいくーっ!」
 ガクが、羽生や香也の複雑な心境も知らぬ顔で、無邪気に声をあげる。
「あたらしく来た人たちにも顔通ししておきたいし、射撃練習とかも、あそこならできるし……」 
 ノリも、ガクの言葉に頷いた。
「……あと、せっかく三人揃ったんだから、これから本格的に新装備の準備とかも、はじめたいよね……。
 せっかく、新しいパソコンも、誂えてくれるというし……」
 ガクもにんまりと笑う。
「また面白そうなソフトを開発したら、声をかけてくだされば、販路を開拓いたしますわ……」
 孫子も、請け合った。
 もちろん、その際はいくばかのマージンを受け取るつもりだったから、孫子にしてても、まったくの善意でいっているわけではない。ガクの人物識別ソフトは、今のところ、大きなバグも発見されておらず、実用面でも、まったく問題がない代物だった。
 三人のうち誰かが、あるいは、三人共同での制作で、この先画期的なソフトを開発する可能性も十分にある……と、孫子はみている。
 そして、それを換金するための道筋をつくるのは、自分の仕事だ……と、孫子は思っている。
「わたしは……今日も、茅様と一緒に、ぎりぎりまで居残りですね……。
 学校の方で、まだまだ人手が必要ですから……」
 楓が、いう。
 実の所、「人手が」うんぬん以前に、楓と茅の二人は、校内で開発したソフト群の総括者とみなされている。パソコン部の生徒たちも最近、めきめきと技量をつけているのだが、まだまだ楓たちの判断を仰ぐ場面が多く、二人のどちらもいない状態だと、すぐに「判断待ち」の案件が溜まってしまい、処理するのに難儀することになる。
 最近、茅はソフト開発から徐々にフェイドアウトして、仕事の比重を自習用ソフトのデータ整備に移しているので、楓の負担は少しづつ、増加していた。実践的な仕事を経験するうちに、堺たちパソコン部員たちの知識や作業効率の方が着実に向上してきているので、今のところ、なんとかバランスがとれている状態だった。
「……それで、わたくしは、いよいよ起業の方が、秒読み段階に入りました……」
 最後に孫子が、にこやかに答える。
「今日の放課後も、その準備であちこち走り回る予定です……」
「……そんで、こーちゃんは、いつもの通り、部活、と……」
 羽生は、ぐるりと皆の顔を見回す。
 まさか、学校にいるときまで、昨夜のようならんちき騒ぎを繰り広げるわけもなかろう……と、その程度には、羽生も彼女らを信頼している。
「……昨日いってた、当番もいいけど……いちゃつくにしても、ともかく、常識の範囲内でいちゃつくように……」
 それでも……羽生は、そう付け加えずにはいられなかった。
 三人組は、その「常識」の概念自体がかなりあやしかったし、楓と孫子についても、こと、香也が絡むとなると、かなり怪しくなる。
 現にガクは、いつも楓と孫子が占めている「香也の隣」の席を、例の当番制のおかげでゲットして、かなりご機嫌な様子だった。
『……楓ちゃんやソンしちゃんの隙を伺っていたこの子らには、それなりにメリットのある提案だったんだろうけど……』
 この当番制がもたらす安定が、実際にさて、どれだけ続くのかというと……羽生には、かなり心許なく思えるのであった。
 それでも……。
『……まあ、昼間のうちは……』
 たいしたことも起こらんだろう……と、羽生も思っては、いる。
 今後、何事かが起こるとすれば……全員が揃っている、夜なんだろうな……と。
 当番制、とやらで順番に香也に……と、決めたはいいが、実際に香也が誘惑に負けて、特定の少女とそんなことをはじめてしまったとして……他の少女たちが、取り決め通り、その様子を見て見ぬ振り、できるのかどうか……。
『……エロゲでよくあるハーレム展開って……はたからみていると、胃が痛くなるもんなんだな……』
 と、羽生は思った。

『……どこかで……』
 香也は朝食の席で、現在の自分の境遇に、既視感を抱いている。
 しばらく思い返して、
『ああ。
 羽生さんの、ゲーム……』
 同人誌の参考に、と、羽生に見せられた成人向けゲームのシュチュエーションに、現在の自分の境遇に近いがいくつかあった……と、香也は思い当たった。
 それら、当時の売れ線のゲームを題材とした同人誌を作成するため、羽生にざっと大まかなストーリー
を説明されながら、プレイ画面のセーブデータを見せられたのだった。
 その手のゲームの主人公は、平凡な学生だったり特殊な能力を持っていたりするあたりの設定はまちまちだったが、何故か、妙齢の女性に囲まれている、というあたりでは一致している。主人公を除く登場人物が全員女性、という、思い切りのいいゲームも少なくはなくて、たいていプレーヤーの分身である主人公が何もしなくとも最初から好意を持っていたり、そうでない場合は、話が展開すると何かと口実をつけて、主人公に言い寄ってきたりする……。
 羽生に説明されながら、そうしたゲームに触れた香也は、「……ずいぶん、都合がいい話しばかりなんだな……」と思ったわけだが……いざ、自分が似たような立場になってみると……。
『……これは、これで……』
 ストレスが、溜まるもんだな……と、思った。




[つづき]
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Comments

ぶは

「いくばかのバージンを受け取るつもりだったから」

…バージンキラー?

  • 2007/02/20(Tue) 16:14 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

今のところ、

>大きなバグも解消されておらず、実用面でも、まったく問題がない代物だった。

・・・問題ありまくりじゃないですか。 「解消」→「発見」とかでは。

  • 2007/02/20(Tue) 21:45 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

修正二カ所。

ご指摘に、感謝。

バージンキラー → マージン
「解消」 → 「発見」

意所運、修正させて貰いました。

  • 2007/02/21(Wed) 22:19 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

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