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「髪長姫は最後に笑う。」  第六章(226)

第六章 「血と技」(226)

 酒見姉妹の話しによると、ノリを迎えた三人娘が、いよいよ活発に動き出した……ということだった。
 徳川の工場は、仁木田たちの一件以来、流入組の中で暇な者が、なんとなく屯するようになっている。
 徳川や三人組に対する、単純な物珍しさもあったし、撮影やシルバーガールズ用に誂えた装備をみて、実用面での興味を持ちはじめた、ということもあった。
 彼ら、一族の者は、開発中装備の実用試験や撮影への協力など、積極的に三人と関わりを持つようになって来ている、という。
「「あの新種……今では、かなりの人気者です……」」
 色違いのメイド服を着た酒見姉妹は、そう声を揃える。
「まあ……妬まれたりするよりは、いいんじゃないかな?」
 一族のうちのほんの一部とはいえ、無用の摩擦を生まずにあの新種たちが一族に迎え入れられたこと事態は、非常に結構なことだ……と、荒野は思う。
 もっとも荒野には、特に竜斉との一件が原因となって、あの新種たちが一目置かれるであろう事は、容易に予測できたのだが。
 仮にも、六主家の長を、正面からぶちのめしたのである。
 あの一件のおかげで、「実力」を人物評価の際、かなり重要視する一族の社会の中で、新種たちはそれなりの評価を確立した……とみるのが、妥当だ。
「「それは、いいんですが……」」
 また、双子たちは声を揃えた。
「「あの三人を、この土地での共存実験の象徴とみなすものが、ではじめています……」」
「一種の、シンパ……みたいなもんか……」
 荒野は少し考えてから、頷く。
「そういう展開も、まるで予測していなかった訳でもないし……。
 それも、特に問題はない……」
 実のところ、成り行きとはいえ、自分自身が一族の者に「共存路線の旗頭」として目されることに、荒野はいい加減、げんなりとしてきている。
 その手の好奇の視線がいくらかでも三人の方に分散されるのなら、荒野としても歓迎したいところだし……それに、そうした傾向は、「あの三人を目立たせる」、という、例の悪餓鬼対策とも、合致する。
 荒野が特に異を唱えることもなく首肯したので、酒見姉妹は、物足りなさそうな表情をして、
「「……そうですか……」」
 と、声を小さくした。
 ……この二人は、どうも……おれに、もっと強力なリーダーシップを取って貰いたい……という願望を持っているようだ……と、その表情を確認した荒野は、予想した。
 しかし、荒野個人の希望としては、そもそも、現在のように目立っていること自体、とても不本意なこととであり、自分に向かう視線がいくばかでもあの三人に分散するのなら、そういう傾向はむしろ歓迎したいところところだった。
「「……あとは……」」
 続けて姉妹は、工場内での、三人の具体的な活動を報告しはじめる。
 別に、その手のことを調べておけ、と命じた訳ではないが、荒野が学校にいる間の出来事を自主的に報告してくれるのは、それなりにありがたい。
 この姉妹は、どうやらこの土地では荒野に取り入ることを考えているらしく、荒野の心証をよくするため、自発的に働いてくれているようだった。
「「まずは、例のシルバーガールズ絡みで……」」
 かなり大規模なソフトの開発を、はじめた……という。
 わいわいと打ち合わせをしながら、三人でいっせいにキーボードを打つ様は、壮観であった……そうだ。
「「……学校から帰ってきた徳川さんの話しによると……3Dとかグラッフィック関連の基幹ソフトを、どうも一から作りはじめたようで……」」
 実写の人間の動きを、光源や影、背景はそのままに、リアルタイムで3Dのキャラにさし変える……というソフトを、あっという間に作ってしまった、という。
「それは……ガクが、か?」
 荒野は確認する。
「「特定の誰か、というより、三人の合作のようで……」」
 酒見姉妹も、工場内で直に目撃していたわけではない。
 目撃した一族の知り合いから、「こういうことがあった」というメールが回って来たのだ。国内の一族の者に、これといった伝手がない荒野とは違い、酒見姉妹には、その程度のニュースなら、教えてくれる知り合いがいる。
 特にこの土地に流入した者の間には、見聞したことを伝え合う、暗黙の了解のようなものができつつあった。突発的な事件が多く、周辺の事情を少しでも早く、詳細に知りたがっている……という点では、流入組のニーズは一致している。そのためには、協力して情報を持ち寄った方が効率的なのだった。
 とにかく、酒見姉妹が目にしたメールには、目撃した者の中で、そうした技術に比較的明るい者の解説コメントも付随していた。
 それによると、三人の作業中のおしゃべりから類推するに、大体の区分でいえば、レンダリングなどに必要なエンジン部をガクが、周辺のインターフェース部分をテンが担当したらしい。
 ノリは、テンの手伝いをしながら、高速で操作が可能な動画の編集が可能なシステムを組んでいたり、孫子のライフルの設計データに手を入れ、自分専用にカスタマイズをしていた……と、いうことだった。
「「……ここまでが、午前中で……」」
「……ちょっと待て……」
 荒野は、酒見姉妹を制する。
「今ので……午前中だぁ?
 ……普通、一日かけても終わらないんじゃないか、それ……」
 荒野のような素人でも、そこまでの作業だけでも、かなりの工程を踏まなければならない、ということは、容易に察しがつく。
「ええ。
 実際、まだまだ完成していませんし……」
「だけど、基礎部分は、かなり出来たといっていましたけど……」
 姉妹は、荒野に向かって頷きながら、交互に答える。
「「でも……あの子たちは、普通ではありませんし……茅様が作業しやすい環境を整えておくんだって、張り切っていたそうです……。
 壮観だったそうですよ。
 わいわいおしゃべりしながら、六本の腕が、同時に六つのキーボードを高速で打鍵する様は……」」
 その時の様子を想像し、まるで、キメラか阿修羅像だな……と、荒野は思った。
 三人のそういった面に対して知識を持たなかったギャラリーは、さぞかし驚いたことだろう。
「……それで、午後は、別のことをやったんだな?」
「「……そうです……」」
 荒野が確認すると、酒見姉妹は頷いて話しを先に進めた。
「午後は……どちらかというと、ハードウェアの開発を行っていたようです……」
「お昼に徳川様にメールで材料の使用許可をとって、ノリ様が、午前中に起こしていたCADデータから、自分専用のライフルを実際に試作しました」
「テン様とガク様は、多目的通信機を試作していました……。
 通信機、といっても、実際には無線LANをつけた小型コンピュータを作って、それに音声チャットのソフトも組み込むそうですが……」
「音声のみの応答にも使用できて、必要に応じて、それ以外のデータのやり取りも可能で……」
「通信時に、データの暗号化をすることを前提にしたものを、作るそうです……」




[つづき]
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