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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(227)

第六章 「血と技」(227)

 ノリが、孫子のライフルを自分用にカスタマイズした試作品を早速作り、試射をはじめた。孫子のライフルのスペア・パーツに若干のオリジナル部品をくっつけて組み立てただけ。しかも、精密加工が可能なハイテク工具も必要な材料も、工場内にあらかじめ置いてあったものを使ったので、午前中にCADデータを用意していたこともあって、実際の加工には、ほんの小一時間ほどしかかけなかったという。
 酒見姉妹の話しを総合すると、「拳銃のグリップにライフル銃身を無理矢理くっつけた」ような、形状をしていたらしい。スコープはつけておらず、セイフティ・スイッチ、その他の操作も、片手だけで出来るように工夫されていたそうだ。もともと遠視の傾向のあるノリは、裸眼のまま、それを片手で扱い、試射時には相応の命中率を叩きだした。
 荒野はその話しを聞いた時、「銃床がないと、重量バランス的に安定しないのではないか?」と思い、聞き直してみると、グリップの底から二の腕にかけて、細長くて扁平な形状の安定板をとりつけ、それを腕に固定することで安定させているらしい。その安定板には、手首の下あたりで関節をつけられており、手首の動きについては、かなりの自由度を保証されている。
 あくまで、ライフルの総重量を単純に持ち上げ続けるだけではびくりともしないノリの筋力を前提としたものだが、銃身の長い銃を抱え、できるだけ動きやすいシステムを考案したもの……であるようだった。
 ノリの機動力に、ロングレンジの攻撃力が付加すると……ダメージを受けにくく、攻撃は当たりやすい、という、かなり理想的な「駒」になる。

 ノリがそっちの「試作品」を製作している間、ガクとテンは、電気屋さんで調達してきたジャンク扱いのパソコンパーツやLANカード、マイクやイヤホンを接続し、「かろうじてLAN接続が出来る」程度のジャンクマシンを作り上げた。
 ほぼ、接続実験のにみ使用するマシンだから、ハイスペックである必要はないのであった。
 その試験用マシンで、もとからあった徳川の工場内のLANに接続できることを確認すると、ガクがジャンクマシン用の、テンがLAN制御用のコードを、猛然と打ち込みはじめた。
「これは、まだまだ最初の試験機だからこんなゴチャゴチャしているけど……。
 本番の時までには、必要な機能を絞ってチップに組み込む、とか考えるから、かなりの小型化、軽量化が図れると思う……」
 キーを打つ手も休めず、テンとガクは、集まってきた一族の者に自分たちがやっていることの意味を説明しはじめる。
「今、作っているのは、要するに、多目的通信機。
 無線LANで、声はもちろんだけど、必要なデバイスさえ接続すれば、映像も送れるようにする。これだけの人数がいても、指揮系統がしっかりしないと、咄嗟の時に動きが鈍くなったり、必要な時と場所に駆けつけられなかったりするでしょ?
 そういったロスを防ぐための、システム……」
 などなどと、説明してみせる。

 酒見姉妹にだいたいのところを説明された上で、意見を求められた荒野は、
「……いいんじゃないか? 通信と打撃力の強化、ってことだろ?
 順当な展開だと思うけど……」
 と、気のない返答をする。
 話しが長くなったので、夕食はすでに終わり、茅がいれた紅茶をみんなでいただいている。この間の一件以来、茅は酒見姉妹にはお茶をいれさせないようになっていた。
「「……でも……」」
 と、双子が荒野に反駁する。
「……お前ら……。
 そんなにおれに、陣頭に立って欲しいのか?」
 荒野は、ますますうろんな目つきになった。
「それじゃあ、いうけど……。
 やつらが今やっているのは、コンセプト的にいえば、正規軍的な軍備増強だ。
 補給と通信を確保し、物量で攻める……そうだな。
 才賀のヤツが好きそうな方法論だ。
 そこまでは、わかるな?」
 荒野がそこで一度問いかけると、酒見姉妹は首を何度も縦に振った。
「で、だ……。
 そもそも、おれたち一族は、根本的な部分で、力押しオンリーの正規軍なんかではないし、おれたちが、今、仮想敵と想定している悪餓鬼どもは、それに輪をかけてワケのわからん連中なワケだ。
 いいか?
 そういった装備品の整備が、戦力増強に効果があるこことは、確かだ。否定しようがない。
 だけどな……。
 どんなに戦力を増強したところで……肝心の、叩くべき敵の姿を捉えられなければ、宝の持ち腐れだろう?」
 荒野が指摘すると、酒見姉妹は完全に虚を突かれた表情で、「「……あっ」」と、小さく声をあげた。
「……さらにぶっちゃけていうと、だな……。
 今、ヤツらが用意しているような代物、町中で派手に使用するようなハメになったとしたら……。
 もし、そんなことになったら……おれら、全員、確実にここにはいられんようになるぞ……」
「「……そう……でした……」」
 荒野が続けると、酒見姉妹は肩を落として小さくなった。
「だから、一番いいシナリオは、悪餓鬼どもが何かを仕掛けてくる前に、こっちがヤツらの動きを捕捉して、身柄を取り押さえる、っていうことなんだが……。
 戦闘に勝って全てを失った、ってのも……ひどくつまらない結末だろう?」
 そう付け加えながらも、「悪餓鬼どもの所在が掴めた後でなら、三人が増強した軍備も使いようはあるかな……」とか、思っている。
 あの三人や一族の者多数が、ハイテク機器の力を使って連携して取り囲めば、多少の個体の能力差なら、十分に無効化できる筈であり……。
『……でも、なあ……』
 今まで十年以上も隠れ続けてきたヤツらだ。
 そう簡単にしっぽは掴ませないだろう……とも、思う。
「……もう一度、確認のためにいっておく……」
 最後に、荒野は念を押した。
「一番いいのは、ヤツらが本格的に動き出す前に、取り押さえて無力化すること。
 それでも駄目なら、初動の段階でヤツら鼻面をぶったたいて、被害を最小限に食い止めること。特に……人的な被害は、絶対に出しちゃあ、いけない……。
 おれたちの目的は、負けないことであって、勝つことではない。
 これは、スポーツでもゲームでもない……おれたち自身の生活を守るための行動なんだ。
 その辺を履き違えると……この土地での居場所をなくすぞ……」




[つづき]
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  • 2007/02/22(Thu) 11:48 
  • URL 
  • 物書きネット #-
  • [edit]

検討もなにも……

法人の体裁も整えていない場所で、印税もなにもないでしょう(苦笑)。
あのー。
失礼ですけど、そんなもん、本気で売れると思っているんですか?
ネットには無料のコンテンツなんていくらでもあるわけですから、有償化するには、極端にクオリティが高いとか、あるいは、それなりの付加価値を提示するとかしないと、誰も買う人、いないと思われますが……。
第一、電子書籍の販売を手がけたいのなら、全部わたしの手でやって、印税八割どころか報酬総取りしますよ(笑)。売れないと思うからやらないだけで。
そういう申し出は、もう少し世間知らずの、協力出版とかに食らいつく方にしてみてください。
当方ではノーサンキューでございます。

  • 2007/02/22(Thu) 14:12 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

きっとまちがい?

 銃架(機銃等を取り付ける台、またはバレル先頭等につける接地足)?
 銃床(ストック)の間違い?

 銃関係の用語は下記hpが非常に役に立ちますよ。
http://gun.world.coocan.jp/basic/index.html

 拳銃のロングバレルは結構ありますよ。
 個人的にはルガー12インチなんかが素敵だと…他にもリボルバーでとんでもない長さの銃身のもあります(有名なのはワイアットアープのコルトバントラインスペシャルかな、16インチのバレルは壮観です)。
http://www.md.ccnw.ne.jp/oyaziwarud/akira02.html

 ちなみにモーゼル等、拳銃に付けるストックが非常にマニアックで素敵だと思う今日このごろ。

  • 2007/02/22(Thu) 21:23 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

そう、まちがい。

銃架 → 銃床
に、修正。
こういううろ覚えの細かい用語、出先でスマートフォンでちゃっちゃか書いていると、「後で調べよう」と思いつつそのまま忘れちゃうパターンが多い。
>ロングバレル
いや、あってもいいけど……安定と命中率、悪そうだよな。実用的じゃないというか。
実際の所、どうなんだろう?
>モーゼル
はい。
昔、馬賊がよく使っていたヤツね(その程度の知識しかない)。
あれはフォルムが独特で、美しいと思います。

  • 2007/02/22(Thu) 21:29 
  • URL 
  • 浦寧子 #-
  • [edit]

ロングバレルの有効性

 ロングバレルの場合、より有効に推進力を弾頭に与えられるので弾の初速が上がる=射程が伸びるという効果があります。
 無論命中性も上がり、実際ロングバレルにスコープを付けて狩猟に用いられています(コルトパイソンハンター等)。
 また、ロングバレルの自重及びガス圧のロスの低減、ガス自体の放出の力点が前に大きくずれるので、拳銃特有の射撃時の跳ね上がり(天井を撃つってやつ)が大幅に低減され、集弾率かなり上がるかと。
 それゆえ西部劇の時代は、遠距離での撃ち合いや狩猟も視野にいれたロングバレルが重宝したと思われます。
(モチロン早撃ちには向きません、とりまわしもかなり難儀になるかと)

 ちなみにモーゼルも射程が長く、それゆえに中国大陸での使用が多かったのかも(事実後期生産のかなりの部分は中国に流れたそうです)。
 だがモーゼルはややバランスが悪く、射撃時の跳ね上がりも大きいために連射時(モーゼルは機関銃のように連続発射が可能)はストック必須だったようです。
(だがしかし、その跳ね上がりを利用して銃を横にして連射する「水平薙ぎ撃ち」という技もある)

  • 2007/02/23(Fri) 00:08 
  • URL 
  • かささぎ #-
  • [edit]

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