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第六章 「血と技」(231)
「……なんか……呆気ないっつーか……今回のは、素材として使えないっす……」
「いや……でも、女の子同士がバイオレンスなことする映像よりは、こっちの平和でいいですよ……」
茅による種明かしをされた後、玉木と有働は小声でそんなことをぶつぶつ話し合っていた。
「……グローブってところで、思い出すべきだったな……。
それ、野呂さんのやつのパクリだろ」
「……パクリではなくて、インスパイアなの」
荒野が問いただすと、茅はさりげなく荒野から目を逸らした。
「……パクリだろうがインスパイアだろうが、必要な条件を満たす素材を確保するのに苦労したのだ……」
徳川が説明をはじめる。
「透明度、強度、引っ張り強度……熱に対する耐性も要求されるし、重量制限も厳しい……。
心当たりがあったから、なんとか調達出来たが……。
かなり高くついたのだ……」
徳川の説明によると、茅が使用したワイヤー状の物体は、某所から無理して都合して貰った、カーボン系の最新鋭ハイテク素材だという。
「軌道エレベータの建材として開発中の試作品を、無理いって譲って貰ったのだ……」
「代金は、後で働いて返すの……」
茅は、平然と返す。
「それはいいのだが……」
徳川は、ちらりとテンに視線をむける。
テンは、体中に絡まったワイヤーを、ガクとノリに取って貰っている。
「……ガクではあるまし、テンがこんな単純な仕掛けにあっさりと引っかかるとは思わなかったのだ……」
「……ガクではあるまいし、っていうのは何だよーっ!
こんなもん、予想できる方がおかしいよーっ!」
「痛いっ!
ガク、引っ張るなってっ! 無理に引っ張ると痛いんだからっ!」
複雑に絡まったワイヤーがなかなかほどけないので、こっちはこっちで、騒がしいことになっている。
「……トクツーさん……。
これ、全然ほどけないけど……簡単に切る方法、ないの?」
ノリが、げんなりとした表情で呟く。
「簡単に引きちぎれるようなら、こういう使い方はできないのだ」
徳川は、したり顔で頷く。
「強いていえば……耐熱処理はしてあるとはいえ、もとはカーボンだからな。熱には、比較的弱い……。
どれ。
今、バーナーを持ってくるのだ……」
「でも、荒野。
茅、テンに勝ったの。
これで、体術を……」
「……楓……。
基礎からみっちり、教えてやれ……」
荒野は、仕方がないと思っていることを隠そうともせず、首を振りながら、楓にそういった。
「……はい……」
荒野が不機嫌になったことを感じ、楓は小声で返事をする。
「やると決めた以上、本気で仕上げるつもりでいけ。
茅だからといって、手加減する必要はない。半端に覚えると、かえって面倒なことになるし……」
荒野はあえて、重ねてそう明言する。
荒野が許可を出すのは「いやいや」だ。だが、やると決めた以上は、本気で茅を「使える所」まで持って行って貰わねば意味がない。
「分かりました」
楓も、荒野の意図を察して、真面目な顔で頷く。
「茅様……覚えは早いから、わたしはあまり心配はしていませんけど……」
「……それで、そのグローブだが……」
荒野は、今度は茅に向き直った。
「野呂さんのみたいに、先端にアンカーつけて射出したりできるのか?」
落ち着いてくると……何しろ、珍しいツールだ。
具体的な使用法や応用に関して、興味が出てくる。
「理論的には、可能なの」
茅は、頷く。
「今回は、時間がなかったし、仮にそういう仕掛けを作ったとしても、茅の力では使いこなせないから、射出機構はつけていないけど……」
遠くにあるモノや人にワイヤーを絡ませて……というのは、確かに一定以上の筋力がなければ、効果的な使い方が出来ない。
「この糸……もっといっぱい、用意できる?」
テンを解放するためにバーナーを持ち出した徳川に、ノリが尋ねた。
「ボクたちなら、これ、もっと効果的に使うことが出来るけど……」
「そういうと思って、かなり余分に確保してあるのだ」
徳川は、バーナーに点火しながら、つまらなそうな顔をして呟いた。
「非力な茅でさえ、あれだけ使えたのだから……あの素材を使ってお前ら専用の武器を作れば、もっと強力な使い方ができるのだ……」
「……考えておく……」
ノリは、頷く。
「リーチが長くて、強度があって、視認しにくいワイヤーか……やれることが多すぎて、目移りがするくらいだよ……」
「……結構なことなのだ……。
テン。
熱いけど、少しの間、我慢するのだ……」
「……はいはーい……。
放送部は、撤収。早く帰って仕度しないと、学校遅刻しちゃいますよーっ! 今ならまだ、朝ご飯食べても間に合いますよっー!」
これ以上、ここにいる必要もないと判断したのか、玉木は周囲に向けて大声で叫んだ。玉木の声に反応し、ぞろぞろと撮影機材を片付けはじめる放送部員たち。
「……今回、こっちはあんま収穫なかったけど、そっちはそれなりに得るところがあったようっすね。
また、学校ででも詳しいこと教えてください……」
とかいいながら、玉木たち放送部員は撤退していった。
「……おれたちも、帰るか……」
荒野が茅にそういうと、グローブを脱ぎながら、茅は頷いた。
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つづき]
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