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彼女はくノ一! 第五話(315)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(315)

「……あれ?」
 風呂上がりの楓は、ガクを背負った香也が玄関から入ってくるのを目撃した。
「ガクちゃん……」
「……んー……。
 プレハブで、寝ちゃった。
 そのままにしておくわけにもいかないから、連れてきた」
「……はあ……。
 今日も、朝早くからいろいろやっていたようですし……」
 と、楓は言葉を濁す。
 楓や荒野たちが、香也の関わりのない場所でいろいろと動いているらしい……ということは、流石に香也も気づいている。なにせ同居しているのだ。
 楓たちも、香也を巻き込むまいとは思っているようだが、特に秘密にしている、という風でもなく、例えば食事時などにも、三人組は平然と開発中のソフトの話しとかをしている。幼い声と口調に似合わない、香也にはまるで理解できない難解な専門用語の羅列だったが、香也に「彼女たちが、大人の専門家顔負けの仕事を行っている」ということを理解させるには十分だった。
「あっ……。
 後は、わたしが、部屋まで運んでいきますから……」
 楓は慌てて香也の背中に歩み寄り、ガクの体を受け取った。
 その際、湯上がりの楓の体臭が香也の鼻腔をくすぐり、香也は少しどきりとする。
「……んー……。
 お願い……」
 内心の動揺を隠すため、香也はことさらにゆっくりとした口調で答えながら、姿勢を低くして、楓がガクを受け取りやすいようにした。
 ガクの体を楓に渡すと、香也は再び庭のプレハブに向かう。
「……あの……」
 その香也の背中に、楓が話しかけた。
「また……見にいっても、いいですか?」
「……んー……。
 いいけど……」
 香也は、「いつもは断りをいれることもなく来るのに、今日に限ってなんで……」と訝しく思ったものの、別に断るべき理由もないので、軽い気持ちで快諾する。
 楓は、実は時間さえあればプレハブに立ち寄る常連だったりするのだが、すぐ側にいる時でも、いつも香也の邪魔をしないよう、気を遣って静かにしているので、香也も楓の存在を苦にする、ということはない。香也にしてみれば、絵を描く邪魔をしない限りは、相手が誰であっても拒否する理由はない、ということになる。
 しかし、その夜、楓が庭のプレハブに行くことはなかった。

「……ちゃんと報酬も出すのですから、真面目にやって貰わないと……」
 居間で、炬燵の上に自分のノートパソコンを置きながら、孫子が楓にいった。香也と別れて、ガクを三人の部屋に届けてからすぐに……楓は孫子に捕まった。
「……ボランティアの方で使用しているスケジュール調整のソフトを、こっちでも応用したいし……それに、これ、うちの系列で使用している、ロジスティック用の管理プログラムなのですけど……」
 楓の思惑はなど素知らぬ風で、孫子はノートパソコンを操作しながら、淡々と説明を続ける。
「基本的に、有りものプログラムに適宜、手を加えればなんとかなると思うのですが……あなた一人で無理なようでしたら、必要なだけ、人を使っても結構です。
 報酬は、出来高……提出されたものを、生産性その他の観点から評価して、その都度、支払います」
「あっ……はい……」
 プレハブにいる香也のことを考えがちだった楓は、目の前の現実に意識を集中する。
 複数の人手が必要な大規模な改良ならば、それに見合った報酬を用意する……ということなのだろう。報酬を保証した上で孫子の希望を伝え、その上で、楓の判断に委任している形だ。孫子のコネクションを考慮すれば、仕事を評価する伝手にも困ることはないのだろう。才賀系列の企業にあえて仕事を回さないのは、孫子が地元での雇用を確保することに拘っているからだった。
「これ……いつまでに、やれば……」
 期限を、尋ねてみる。
「当然の話ですが、早ければ早いほど、都合がいいです」
 孫子は、考えながら、答える。
「既存のソフトでも、多少、余分な人手がかかるとはいえ、通常の業務は、最低限、こなせるわけですから……。
 逆に、今あげた改良点にパッチを当てるとして、どれくらいの時間がかかるものなのか、こちらが知りたいですわ」
 どうやら孫子は、一回きりの大規模な改良というよりは、業態に沿った小規模な改良の積み重ねを、楓に期待しているらしい。
 学業その他と兼業でやる以上、楓にしてみても、明確に期限を区切られない方が都合が良かった。
「その、業務なんですけど……実際に実務に携わる人にしか思いつかない部分、っていうのが、あると思うんですね……。
 ですから、今のうちに、実働している人に話しを聞いてから取りかかりたいんですけど……。
 もう、働いている人、いるんですよね?」
「まだ、人数は少ないですけど……商店街回りでのチラシ配りとか、清掃とかの仕事は、試験的にはじまってます」
 孫子は、頷く。
「今の時点では、大半が一族の関係者ですが……そうですわね。
 あなたになら、彼らも本音で話してくれるでしょうし……あなたがヒアリングにいった時に協力するように、全員に通達しておきます。
 それから、うちの仕事をするのに必要でしょうから、業務用に一台、あなたにもパソコンを預けます。三人が使うのと一緒にこの家に届くよう、手配しておきましょう」
「……助かります」
 今度は、楓が頷いた。
 学校とか部活とかと平行して行う以上、自宅で作業できる環境があった方がいいに決まっている。
「現在、稼働している人員のデータについては、オンラインで確認できるようにしておきますから、好きな時間に話しを聞きにお行きなさい」
 こうして楓は、孫子の会社の、システム関係の非常勤顧問のような形に収まった。





[つづき]
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