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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(232)

第六章 「血と技」(232)

 その日の昼休み、荒野たちは示し合わせて囲碁将棋部の部室に集合した。参加者は、荒野、茅、楓、孫子、玉木、有働、徳川の七名。
 ボランティア活動と自主勉強会、孫子の会社と「シルバーガールズ」……などなど、様々な活動を同時進行しているおかげで、定期的に集会して連絡を取り合った方が効率的だろう、ということで、皆の意見が一致したからだ。放課後にはそれぞれやることがあるので、校内の関係者が集まるのに都合のいい時間となると、昼休みくらいしかない。

「……ボランティアの方ですけど……参加希望者はそれなりに集まっていますが、ネックとなるお金、資金源の方が、相変わらず、あてがない状態です……」
 開口一番、有働がそういった。
「あまり、こういうことは強調したくないのですが……人手だけあっても、先だつものがなければ、出来ることは限られているわけで……」
「当座はうちからの寄付、という形で、出してもいいのだ」
 すかさず、徳川がそういう。
「税金対策にも、なるしな……」
「お気持ちは、ありがたいですけど……駄目です」
 しかし、有働は、きっぱりと断った。
「寄付そのもの……は、否定しませんけど……別に恒久的な資金源を作っておかないと、長続きしません」
「それで、シルバーガールズ!」
 玉木が、元気よく片手をあげた。
「あれって……本当に、お金になるんですか?」
 有働が、怪訝そうな顔をして玉木を見返した。
「なるよっ!
 今、すっごい、反応来ているんだからっ!
 ネットの方のアクセスも、増えているしっ!」
 玉木は、若干ムキになって答える。
「それ……今の時点で、具体的に、どれほどの金額を予測していますの?」
 孫子は、玉木に尋ねた。
「……ええっとぉ……具体的な数字は、今、ちょっとぉ……」
 途端に、玉木は口ごもる。
「……ちなみに……これ、この前試算してみたんですけど……」
 有働は、コピー用紙にプリントアウトした書類を全員に配りはじめた。あらかじめ、用意してきたらしい。
「……現在チェックしている場所の不法投棄ゴミを、自前で片づけると、これだけの金額がかかります……」
 有働に手渡された書類をみて、荒野や徳川は、
「まあ、こんなもんだろうな……」
 とか、
「妥当な線なのだ……」
 などと頷き合っている。
 孫子は、黙って頷くだけで、楓と茅は、書類に一応目を通したが、そこに示された数字がピンとこなくて、どう判断していいのか分からないらしく、困惑顔のまま、なにもいわない。
「……ちょっとっ!
 これ……水増ししてないっ!」
 玉木一人が、大声をあげる。
「たかがゴミが……なんで、こんなお金かけなけりゃ、なくらならないのぉっ!」
「たかがゴミ、でも……量が、量ですから。
 それに、これでも、かなり低く見積もっているんですよ……」
 有働はそういって、別の書類を回した。
「で、これが……削減できる費用を、可能な限り削減した際の、試算です。
 こっちのパターンですと、ゴミをあらかじめ分類して、リサイクルできるものはリサイクルの業者に、それ以外の粗大ゴミも、直接クルマで乗り付けて、行政指定の捨て場に持って行くことになります。
 このパターンですと、かなり安上がりになるんですが……」
「……さっきのより、こっちがいいじゃないっ! さっきの何分の一かですよっ!」
 玉木が、また大声をあげた。
「こっちの試算では……ゴミの運送にかかる費用を計上していないから、見かけ上、安く見えるわけです。
 仮に、トラック持ち込みで、ゴミを運んでくるボランティアが、必要数、確保出来たとしても……燃料費の問題があります」
「……のべで、何十往復……いや、百往復以上のオーダーか……。
 ガス代だけでも、ン千万とか軽くいっちゃうんじゃね?」
 荒野が、指摘する。
「それ……個々人で負担してくれっていったら……誰も、引き受け手、いないわな……。
 常識的に考えて……」
「……じゃ、じゃあ……。
 細切れにして、乗用車とかで、一人一回だけ運んで、とかいうキャンペーンとかやれば……」
「……その場合も、現場にはりついて、持って行くゴミの場所とかを教える人が必要になります。その人は、他人の私有地に、四六時中張り付いて、いつ来るか分からない協力者を待ち続けることになるわけですが……。
 学校に通っているぼくらには、無理ですね……」
 有働が、指摘する。
「……そういや、才賀の会社では、宅配便みたいな仕事もするんだよな?」
 荒野が、孫子に確認した。
「……ええ。
 荷物を配送した後の、空荷の社用車にゴミを乗せて、毎日少しづつ……ということなら、可能です。
 若干、燃料代が割り増しになりますが……これは、仕方ありませんね……」
 孫子も、荒野と同じことを考えていたらしかった。
「……現金を寄付するよりか、そっちを負担した方が、地元での会社の印象、良くなるんじゃねーの。
 どのみち、量が量だから、長期戦になるわけだし……。
 あとは……ゴミの仕分けか……。
 これ、マニュアルとか、もう作っているの?」
 荒野は、有働に確認した。
「簡単なものなら、一応、作ってありますが……。
 ぼくも、実際には一度もやったことがないので……そのマニュアル通りに行くのかどうか、心許ない状況です……」
 有働は、軽く首を振る。
「……じゃあ、そのマニュアル作成と、仕分けの人集めは、そっちでやって貰う……ってことでいいかな?
 どうせ……才賀の会社も、本格的に動き出すまで、まだしばらくかかるだろうし……」




[つづき]
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