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彼女はくノ一! 第五話(317)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(317)

 香也にとっては、昨夜から今日にかけては、比較的穏やかな展開になっている。昨夜、プレハブについてきたガクは早々に寝てしまったし、その後、楓が来るとかいっていたが、何故だかあれからプレハブには姿を現さなかった。かといって、香也が楓のことを案じるということもなく、一人で静かに絵に没頭できる環境でありさえすれば、香也にとってはそれでいいのであった。
 事実、いい時間になって画材を片づける段になって、ようやく、
「……そういや、楓ちゃん……来なかったな……」
 と思い当たったくらいで、つまり、その時まで香也は、楓のことをまるで失念していた。
 それから、一人でのんびりと風呂を使い(幸いにして、この日は誰も乱入してこなかった)、就寝。
 朝、起きたときから学校の校門につくまでべったりとノリにくっつかれたのは少々アレではあったが、それ以外は特に波乱もなく、まずまず平穏だった、といってもいいだろう。登校時、ノリに腕を取られていたところを、柊をはじめとしてクラスメイト数名に軽く揶揄されはしたが、そういった罪のない野次も、一緒にいた楓や孫子が一瞥をくれるとすぐに静まったので、香也にとっては特に問題にするほどのことはなかった。
 授業時間中はいつものように機械的にノートをとりながら気軽に聞き流し、休み時間中も、ノートの端に落書きをしたりぼーっとしたりしているうちに、すぐに過ぎ去っていく。
 つまり、香也の主観によればあっという間に放課後になり、香也はそれまで、ぼっーっと意識にかかっていた霞がいきなり晴れたような気持ちがした。
 香也にとっては、これからが本当の意味での、一日のはじまりである。外見上、そうとはわからないわけだが、香也は教材を手早く片づけ、意気揚々と美術室に向かった。登校する時、放課後、ノリたちが家でなにかをやるとかいっていたが、とりあえず、その時点で学校にいる香也には関係がない。強いていえば、樋口明日樹もそっちにいく、というから、部活に参加する生徒が実質、香也一人になるわけだが、香也はそのような些事を気にすることもなかった。明日樹不在の部活は確かに、少し寂しい気持ちはしたものの、香也自身の活動には、直接的には影響しない。
 香也にしてみれば、学校であれ自宅のプレハブであれ、静かに絵を描ける環境さえあればいいのであった。
 美術室に入り、手早く絵を描く準備を整え、さあ、これから、というところで、ガラリと音をたてて美術室の戸が開いた。
 ……誰だろう?
 と疑問に思いながら、そちらに首を向けると、同じクラスの柏あんなが立っていた。
 何故か、怒った顔をしている。
「……香也君!」
 柏あんなは、怒った顔のまま、ずかずかと大股で香也の近づいてきた。
「……いったい、どういうことなの!
 松島さんや才賀先輩では飽きたらず、今度はガクちゃんやノリちゃんにまでっ!」
 ……香也は、固まった。
 いや……柏あんなが、彼女なりの倫理感……というより、「女性としての規範」として、無思慮無分別に同居人と「仲良く」しているように見える香也に、怒りを覚えている……というのは、理解できるし、「事情を知らない第三者からは、そう見えるだろうな……」ということも、想像がつく。
 実際には、柏あんなが漠然と想像しているように、香也が彼女たちを誑かしたり口説いたりコナかけたりしているわけではなく、その逆に、香也の方が彼女たちの積極的な振る舞いにたじたじとなっている有り様なのだが……それを説明し、納得させるのは、容易ではない。
 そこで、香也は、
「……んー……」
 と、とりあえず、うなってみせた。
 そして、相変わらず、怒った顔をして立っている柏あんなに、
「……説明してもいいけど……話すと長くなるから、座って。
 ちょうど、誰かに相談したいと、思っていたところだったし……」
 勢い込んで駆けつけてきた柏あんなは、そんな香也の様子に戸惑ったようだが、もともとあんなは香也に意見をしようとして来たわけであり、不審な顔をしながらも、香也の勧めに従って、適当な椅子に腰掛けて香也の顔を見据える。
「……んー……」
 と、香也は少し考えた。
 柏あんなに相談するのはいいのだが、どこからどこまで説明していいものか……こうしたことに不慣れな香也は、うまく判断ができない。
「それで、柏さんは……ぼくの何に、文句をつけにきたの?」
 そこで香也は、柏あんなに、まず、話しをさせようと思った。あんなが香也の何に不満を持っているのか……以前からのあんなの態度から類推しても、おおよその見当はついている。だが、あんなの不満が見当違いであることを、順を追って説明する方が、この場合、早道であるように思えた。
 幸い、今日は樋口明日樹も香也の自宅に向かっている筈であり、他にこの時間に美術室に来る可能性があるのは、顧問の先生か、楓くらいしかいない。
 前者は、仮に来たとしてもすぐに出ていくからやりすごせばいいし、楓が来たとしたら、香也にとってはかえってこういうことをじっくり話すいい機会である。

 柏あんなにしてみれば、若干、出鼻をくじかれた感もあったわけだが、それでも憤然とした様子で香也に食ってっかかった。
 香也はそのあんなの誤解を、つまり、「自分が彼女たち迫っているわけではなく、むしろその逆である」ということを、一つ一つ丁寧に、場合によっては、差し障りのない範囲内で、具体的な例をあげながら説明していく。例えば、香也は入浴中、何度か彼女たちに乱入され、性的な誘惑をなされたことまでは柏あんなに語ったが、その先のもっと具体的な行為の詳細については、話さなかった。
 省略した部分が多いにせよ、香也の説明がやけに具体的、かつ詳細でリアリティに富んだものであったため、最初のうち、香也をやりこめようとして乗り込んできたあんなは、次第に不審な顔になり、ついで、困惑した表情になり、
「……ちょっと、まぁくん……堺君、呼んでもいいかな?」
 と、自分の携帯を取り出した。
 例によって、パソコン部の部活に勤しんでいた堺雅史が、柏あんなに呼び出されて美術室に合流し、香也は、問われるままに、あんまり過激な部分は省略したした形で、二人に今までの同居人たちとのあらましを語る。
 この二人は、それなりにつきあいはあるとはいっても、飯島舞花、栗田精一、玉木珠美、有働勇作、徳川篤朗ほど「こちら」の内情に通じていたわけではない。この時、はじめて知る事実も多かったが、これまでに二人が見聞してきた事物と香也の証言に大きな矛盾はなく、時折、堺が不定期に差し挟んだ質問に香也がすらすらと答えたこともあって、香也が一通りのことを説明し終えることには、どうにか現在の香也の境遇を納得してくれたようだった。
「……ようするに……」
 香也の「事情説明」が一段落すると、柏あんながため息まじりにそういった。
「うちのおねーちゃんみたいなのと、何人も一緒に同居しているようなもんね……」
「……んー……」
 今度は、香也が首を捻った。
「あの……柏さんのおねーさん……普通の人に、みえるけど……」
 香也にとって、柏あんなの姉である千鶴は、羽生の同人誌が修羅場になると駆けつけてくれる人、という認識しかないのだが……それでも、穏やかでまともそうにみえた。
 香也がそういうと、柏あんなは慌てた様子で、「今のは忘れて」とか、「そういう意味じゃないから」とか、理由にならない理由を並べ立てて、前言を撤回した。




[つづき]
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