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彼女はくノ一! 第五話 (322)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(322)

 次に、今度はちゃんと「いつもの起床時間」に起こされた時、香也は、普段よりずっと、すっきりとしない目覚め方をした。変な時間に一度起こされたせいか、なんか、頭がすっきりとしない……。
 それでもごそごそと起き出して布団を片付け、顔を洗って、着替えて、食卓につく。この辺の動作は、多少、頭がぼーっとしていても、長年の習慣で、半ば条件反射的に体が動いてしまう。焼き魚にみそ汁、香の物という定番の朝食をゆっくりと咀嚼するうちに、だんだんと意識も覚醒してくるのだが、香也の場合、見た目的にはそれ以前とそれ以後の区別がつきにくい。というのは、香也は、外見的には、普段からぼーっとしていているように見えるから。

 そんな感じで、いつもと同じように朝の支度を終え、全員で外に出る。三人娘は玄関先までで、誰もついてこようとしないのは、今日の「香也当番」が楓であるからだ。今日は二月十四日、つまり、聖バレンタインデーに当たる訳だが、籖引きによって楓がこの日の当番に当たった時、孫子は露骨に悔しがった。とはいえ、その時、皆にせがまれてあみだ籖を用意したのは香也であり、その作業は衆人環視の環境下で行われた訳だから、不正が介在出来る余地はない。いくら孫子が不平に思おうが、文句をいうべき余地はなかった。
 楓は、昨日のノリ程べったりと香也にくっつきこそしなかったが、いつもよりは距離を近づけているようにみえる。
 飯島舞花が、「これ、義理だから」といながら、いつも一緒に登校する男子生徒たちに一口大のチョコを配る。「義理だ」と断らなくとも、一目ですぐにそうと分かるような、ひとつ三十円とかの、安価で小さなチョコだった。これくらいの方が、貰う方も気が楽というもの、でもある。舞花は、栗田に対してはそのチョコを与えず、栗田の方もそれを当然、という顔をしている。本命分はすでに渡したのか、それともこれからかは知らないが、別の機会に渡すことになっているのだろう。
 ともかく、舞花のそれが皮切りとなって、孫子、楓、テン、ガク、ノリ、それに樋口明日樹までもが、義理チョコ配りをはじめた。学校まで持っていていくよりは、今配っちゃった方が……という、散文的な理由だった。樋口明日樹以外は、チョコ講習の時、ついでに作った小さなチョコを適当にラッピングしたものだった。
 それらが歴然と「義理チョコ」だと分かってはいても、樋口大樹は、「……おれ、こんなの、はじめて……」と、かなりの感銘を受けた様子だった。
「……おにーさんたち、遅いな……」
 飯島舞花が、ぼつりと呟く。
 舞花が「おにーさん」という時は、たいてい、荒野のことを指す。
「今日の朝も、集まりが悪かったし……。
 またなんか、あったのかな?」
「……ちょ、ちょっと、様子を見て来ますね……」
 何故か、楓があわてた様子で、マンションの中に駆け込んだ。
「……たるんでいますわ……」
 その楓の背中を見ながら、孫子が、ぼつりと呟いた。

 やがて、珍しく寝むそうな顔をした荒野と茅が、楓に伴われて合流する。
「……随分、疲れた様子ですけど……」
 そのような荒野を見たことがない樋口大樹が、無邪気に、荒野に尋ねる。
「何か……あったんすか?」
「茅、何も言うなよ」
 荒野は、大樹の質問に答える前に、何故か、茅に口止めをした。
「あったといえば、あった。
 だけど、プライベートに属することだから、何があったか、具体的に述べることは出来ない」
 荒野は明瞭に「答える気はない」と語った。
 香也は茅と荒野の憔悴ぶりをみて、「……昨夜、自分の知らないところで、よほど、すごいことがあったのだろう……」と悟った。
 そうした荒野たちの背後で、楓が、非常に微妙な表情をしている。なにかいいたいことがあるが、それを堪えているような……。
「「……皆様、いってらっしゃいませ……」」
 いつの間に背後に控えていた酒見姉妹が、声を揃えて一礼した。昨日と同じ、メイド服姿だった。酒見姉妹も、荒野たちの同様に、疲れた顔をして、目の下に隈をつくっている。
「……双子さんたちも、いたのか……」
 飯島舞花は、不審そうな表情を浮かべる。
「ランニングには、来なかったようだけど……」
「……だから……」
 荒野は、もっともらしい顔をして頷いた。
「昨夜は、いろいろあったんだよ。
 詳しくは、言えないけどな……」
 荒野の背後にいた楓が、ますます複雑な表情になる。

 ぞろぞろと登校する途中で、荒野が楓に向かって長々と何事かを説明しているが、少し離れて歩いている香也の耳には、「野呂と二宮が……」とか、「佐久間も、やっと教師役を……」とか、断片的な言葉しか聞こえてこない。いずれにせよ、荒野の周囲に、また新しい人が来る……のかな? と香也は思う。
 そして、来るのだとすれば、それは……また、かなりユニークな人格である筈……という、かなり確実な予感が、香也には、ある。
 何しろ、今までが今までである。
 そんな予感は香也を少し不安にさせたが、楓に説明をしいている荒野の声は、決して暗いものではなく、逆に、明るく張りのあるものだったので、過度に心配をする、ということもなかった。
 香也な、身辺が多少騒がしくなっても、あまり気にかけない性格だが、出来れば、今後、身近に人が増えるのであれば、異性よりは同性がいい……と、思った。
 少なくとも、これ以上、自分をとりまく人間関係……もっと端的にいって、女性関係が複雑になるのは、勘弁して欲しいところだった。

「……昨日はどうもぅ。お世話様でしたぁ!」
 途中から、玉木玉美が合流してきた。
 玉木は、孫子と同じく、義理チョコを配ろうとはしない。
「いや、貰う方は嬉しいかも知れないけど……義理は所詮、義理だしなぁ……。
 それに、わたしの場合、顔が広いから、配りはじめると金額的にシャレになんなくなって……」
 とかいって、頭を掻く。
 孫子の場合、
「不合理な習慣だと思います」
 と、一蹴だった。
「本気なら、ともかく……義理というのは、お互いに気を遣いすぎますし、資産運用としてみても、ロスが多すぎます」
 孫子と玉木とでは、性格がまったく違うが、妙なところで意見が一致するのであった。




[つづき]
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