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彼女はくノ一! 第五話(324)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(324)

 香也は、その日も外見上は、異常がなかった。
 つまり授業中も休み時間中も、他人の話しを聞いているのかいないのかよくわからない、茫洋とした態度でぼーっとしていた。それが香也の常態であり、あやしむものはいなかったが、その実、香也は一日中睡魔と戦っていた。早朝、いつもなら熟睡している筈の時間に一度叩き起こされているのが、つらい。
 新学期がはじまってからこのかた、香也の体は自分で自覚する以上に、規則正しい生活に慣らされている。誰かに起こされなくとも、毎日決まった時間に自然に目が覚めるし、逆に、そのリズムが一度崩れると、今日、そうであるように、妙な時間に眠たくなる。
 ちゃんと聞くふりくらいはしないと、目の前で授業をしている教師に悪い、と思うからだが、そのくせ、自分の都合で学校を休みことは躊躇しない。このあたりの香也の倫理感は、客観的にみると奇妙にバランスを欠いているわけだが、香也自身は、それをあまり「奇妙」だとは自覚していない。
 そして、その香也の努力は、本人が自覚するほどには身を結んではおらず、授業中、何度も舟をこいでは慌てて背筋を伸ばしたり、時には、前後不覚になって、机の上に額をうちつけそうになったことさえある。
 そして、すぐそばで香也の様子をみていた楓など、かなりはらはらさせられた。
 大半の教師は、そんな香也を観て、「……本人も、寝るまいと努力はしている……」と判断したのか、あるいはただ単に、注意するのが面倒だったのか、見ぬ振りをしてくれた。生徒たちから「厳しい」とされている嵯峨野先生や大清水先生など、「顔を洗ってきなさい」とか「授業を受けられる体調でないのであれば、素直に保健室で休みなさい」などと、香也を名指しで注意した。香也は、前者の忠告にはおとなしく従って廊下にでて、後者の忠言は、謹んで辞退した。保健室で待ちかまえているのが三島百合香でなかったら、香也も後者の忠言に喜んで従ったのかも知れないが、以前、いきなり往復ビンタをくらっていらい、香也は三島に対して若干の苦手意識を持っている。授業時間中、他に誰もいない筈の保健室で、あの奇妙な先生と二人きりになる……という事態は、香也としては可能な限り避けたかった。
 香也がその日、一日中、そんな様子だったので、刺激に飢えた、言葉をかえれば、暇な同級生たちは、休み時間にこそこそと憶測を囁きあった。もちろん、香也本人や楓、ならびに、牧本さんや柏あんななど、香也たちと比較的親しい友人たちの耳に入らないように、ではあるが……。
「……何かの拍子で、あの家に住む女の子たちと一挙に進展。
 今夜は眠らせないよっ!
 ……ってな状態だったり……」
 という、いささか品性にかける説を唱えたのは、例によって柊誠二であった。
 しかし、柊のこの憶測は、おおかたのものに指示されなずに終わった。
 本日、二月十四日、聖バレンタインデーであるにもかかわらず、柊が一つの義理チョコもゲットいていない、というのは周知の事実だったし、それでなくとも普段の言動から、「柊は、美少女に囲まれて暮らしている香也のことをやっかんでいる」ということは、クラス内ではもはや「定説」となっている。
 香也と同居している楓や孫子の様子がいつも通りであることも根拠となり、柊の説は一蹴された。
 その他、「人知れず、夜中まで猛勉強している」、「深夜ラジオにはまっている」、「例によって朝方まで、絵に熱中していた」などなどの説が提出されたが、そのどれもが決定打とはならなかった。
 強いていえば、一番最後の「絵に熱中していた」説が一番有力視されたが、それでも、「同居している楓や孫子が、そんなことを許すか?」という反論もあって、やはり疑問視されている。
 楓や孫子の、香也に対する過保護なまでの「世話焼きぶり」については、この頃までには、クラス内はおろか、校内で知らぬものがいないほどになっていた。
「……あと……」
 香也の授業態度に関する噂話をする時以上に声を潜めて、「もう一人の名物生徒」の異常に対して、生徒たちは囁きあった。
「……加納さんも、なんか、お疲れモードっていうか……」
「……ひょっとして……。
 意表をついて、茅ちゃんと狩野のやつがデキてたりして……」
 柊は、さらに「珍説」を披露する。
 これは、以前の憶測以上に、他の生徒たちから無視をされた。
 いかに家が近いとはいえ、香也には楓や孫子が、茅には荒野が、常時身辺にぴったりと寄り添っている。
 荒野の、茅に対する過保護ぶり……も、校内では、知らぬものがいない「事実」である。今週に入ってから、茅の下校時に、「メイド服姿の双子」という目立つ護衛がつけられていることも、校内ではかなり広く知られるようになっていた。
 絵を描く……という特技がなければ、平々凡々たる男子生徒でしかない香也とは違い、茅は、なにせ「目立つ」生徒である。
 成績優秀……というか、学科に関しては、事実上、オール・マイティ。それどころか、楓と一緒になって、パソコン部を率いて学校のシステムを改良しているのも、茅だ。放課後の自習時には、当然のように「上級生の」勉強までみている。
 それでいて、運動音痴ということもなく、それどころか、体育の授業を観る限り、大半の女生徒よりは、よほど活発に動けた。機敏であるだけではなく、体力もある。身体能力的には、普段、ろくに体を動かさない男子生徒よりも、現在の茅の方が、よっぽどタフかも知れない。
 ようするに、「加納茅」とは、周囲のクラスメイトからみて、かかり「出来すぎ」の生徒なのである。
 香也の場合は、「彼の邪魔をするのは、悪いから」と放置されているような感じだが、茅の場合は、その整った風貌、感情の起伏が読みとりづらいことなども手伝って、他の生徒たちに、どことなく「近寄りがたさ」を感じさせる生徒だった。
 楓や、下校時に迎えに来る双子が、茅のことを「様づけ」で呼んでいるところも、何人かに目撃されていることもあって、茅のことを「姫」とか「姫様」と呼ぶ生徒も、ぼちぼち現れはじめていた。あるいは、一族の関係者が、茅のことを「加納の姫様」と呼ぶのを、どこかで漏れ聞いた者がいたのかも知れない。この頃になると、放送部の関係者や日曜日のボランティアや商店街での騒動時など、一部の生徒たちと一族の者が接触する機会も、それなりにあるのであった。
 茅の「近寄りがたい雰囲気」と、周囲の者の茅に対する態度から連想された、罪のないニックネームのようなものだったが、この時点では、茅のことをそう呼ぶ生徒は、まだまだ少数派である。




[つづき]
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