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彼女はくノ一! 第五話(325)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(325)

 その日、香也は一日中ふらふらしていた。授業中だけではなく、休み時間も自分の席で机の上につっぷして、ぐったりと休んでいる。
「……大丈夫ですか?」
 昼休みをすぎてもそんな調子の香也に、楓が、心配そうに声をかけてきた。
「あんまり調子悪いようでしたら、早退して家で休んでいた方がいいと思いますけど……」
「……んー……」
 香也は、いつもののんびりとした口調で答える。
「……調子が悪いというか、眠いだけだし……。
 でも、そうだね……。
 部活はしないで、まっすぐ帰ろうか……」
 そういって香也は、のろのろと携帯をとりだして、樋口明日樹にメールをうった。香也が部活に行かないのなら、明日樹もまっすぐ帰って受験勉強でもするだろう。

 授業と掃除当番を適当にすませ、香也は予定通りまっすぐに帰宅する。楓も、当然のような顔をして、香也についてきた。
「……部活の方は、大丈夫なの?」
 香也は楓にそう尋ねる。
「ええ」
 楓は、頷いた。
「……そっちは、もうかなり落ち着いてきまていすし、それに、もうその気になれば、自宅でもできますから……」
 先日、楓専用のノートパソコンが届いている、ということらしかった。
「あと……今日は、わたしが香也様をお世話する日、ですし……」
 まだ外が明るい時間に、二人っきりでの下校は、極めて珍しい。たいていは、大勢で、下校時刻ぎりぎりに帰宅するからだった。以前、一度だけ、「楓が調子悪くて、保健室で休んでいた日」に二人だけで下校したことがあったが、それ以来のことだった。
 当然のことながら、この時間帯だと楓や香也と同じく、下校しようとする生徒の数が、いつもよりもずっと多い。また、校内の様子も、部活とか、用もないのに居残っている生徒たちが、活気のある物音をたてている。
 途中、何どか楓が声をかけられて、挨拶したり、二、三、短く言葉を交わしあったりしていた。
「……茅様たちのお手伝いをしていると、いろいろなお友達ができるもので……」
 楓の説明によると、例のボランティアや自習会関係で知り合いが増えている、という。一方、香也の方は、相変わらずで、声をかけてくる生徒など、ほとんどいない。
 二人でとことこと歩いて、校門を通り抜け、商店街も通過するあたりで、人通りががくんと減る。というか、昼間の住宅街なので、二人以外の人影が見あたらなくなる。
「……さ、寒いですね……」
 不意に、それまで押し黙っていた、楓の声が聞こえた。香也がぎくりと横を振り返ったのは、例によってぼーっとして楓の存在を意識していなかったことと、それに、予想していた以上に、楓の声が間近から聞こえたことによる。
「……う、うん……」
 戸惑いながら、香也は答える。
 見ると、楓は頬を紅潮させて、予想以上に香也に密着している。
「……あの……」
 楓が、目を伏せて、香也に尋ねた。
「……家まで……で、いいですから……。
 手、繋いでいっても……いいですか?」
「……う、うん」
 香也は、反射的にそう答えてしまった。
 そう答えたのは、否定する理由がないからだったが……それでも、反射的に答えてしまってから、自分の頬が熱を持ってくるのを、香也は自覚する。
 女の子と、手を繋いで歩く……というのは、よくよく考えてみると、「かなり恥ずかしいこと」のではないか?
「……いいですかぁっ!」
 しかし、楓がぱっと顔を輝かせて、即座に香也の手を取ったので、香也は前言を取り消すタイミングを、永遠に逃した。
「……んー……」
 香也はなんとも微妙な表情を作る。
 ここから家まで、五分くらいだし……それに、楓がこんなに喜ぶんなら、それでいっか……とか、思った。
 実際、それから家にかえりつくまで、楓は上機嫌だった。

 帰宅してから、すぐ、楓に「お布団、しきましょうか?」と聞かれたが、香也は即座に断った。こんな時間に本格的に寝てしまったら、夜になっても寝られなくなるような気がしたし、炬燵でうつらうつら仮眠する程度で十分だろう、と、判断した。
 着替えて、居間にいくと、すぐに楓もやってきて、
「……これ……」
と、香也にラッピングされた小箱を差し出す。
そうされたことで、香也は、「ああ。そういえば、今日は……」と、「バレンタインデー」のことを思い出す。
 そういえば、今朝、登校の時もそんな話しが出ていたな……と。
「……あ、ありがとう……」
 とりあえず、香也は楓に、礼を述べる。
 昨年まで、香也は、真理や羽生以外に、この日にチョコを貰ったことなどなかったわけだが……楓のこれは、普段の態度からも明らかなように、決して「義理」ではない。
 そのこと自体は、決して嬉しくないわけでもないのだが……。
『……今日、これから……』
 同居人の少女たちにより、怒濤のチョコ攻勢が開始されるのか、と思うと、香也は少し憂鬱になる。
 香也は、甘い物は、どちらかというと苦手だった。
「……あ、後で、ゆっくり味わって食べるから……」
 とりあえず、楓にはそういっておく。
 少しづつ食べるのなら、香也でも何とかいけるだろう。
「はいっ!」
 楓が、目を輝かせて、元気よく答える。
「甘さ、控えめにしておきましたからっ!」
 楓は、香也の嗜好も熟知していた。
『……他の子たちも、これくらい、素直だと、いいけど……』
 とか思いながら、香也は、いったん、楓のチョコの包みを部屋に置きに戻り、その後、また居間に戻って炬燵に足を潜り込ませた。
「……できるだけ、静かにしますから……」
 香也が戻ると、楓は自分の分のお茶をいれながら、炬燵の上にノートパソコンを広げていた。
「……お茶、いりますか?
 お茶うけも、ありますけど……」
「……んー……。
 いらない……」
 香也は、そのまま横になり、目を閉じる。

 香也がうつらうつらしだした時、来客があった。
「……あの……」
 玄関で対応した楓が、香也をやさしく起こす。
「樋口さんが……」
 香也が身を起こすと、楓の後ろに、私服姿の樋口明日樹が立っていた。
「……あの、調子、悪いっていってたし……」
 明日樹は、微妙に香也から目をそらしながら、ラッピングされた小箱を香也に差し出す。
「それに……これも、渡したかったし……」




[つづき]
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