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彼女はくノ一! 第五話(336)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(336)

 こうして明日樹と香也は、お互いの性器を晒して向かい合わせとなった。明日樹は性的な興奮のためであり、香也は慣れない運動にいそしでいたから、とそれぞれ理由は違っても、二人とも、息が荒いことには代わりはない。明日樹の方は、矢継ぎ早に性的な刺激を矯正され、はやまともな思考ができない状態にあった。香也の亀頭を目前に突きつけられても、自分がそれを恐怖しているのかどうか判断できないほどに思考が麻痺している。いや、怖いことは、怖いのだが……。
「……ほら、おにーちゃん、ここ……」
 ガクがそういって、明日樹の陰唇を指で押し広げ、背後からは「……香也様にして貰わないと、死んじゃうんですよぉ……」という、クスクス笑い混じりに声が聞こえてくると……なんだか、今、自分が置かれている状況自体が、ひどく馬鹿げた夢であって、とにかく、現実離れしているように思えてきた。
 悪夢というか、淫夢というか……。
「……んー……」
 非現実的なこの場面の中で、香也だけの態度だけが、いつもの通りだった。たとえ、全裸で完全に勃起した陰茎を振り立てていたとしても……香也は香也なのだ。
「そう、いわれても……無理矢理にするのは、駄目だと思うし……」
 香也は、のんびりとした口調でそういって、明日樹に背中を向けようとする。
「……あっ……」
 明日樹は、反射的に背中を向けようとした香也に向かって、手を延ばそうとする。この時の明日樹は多人数で押さえつけられている状態で、当然のことながら、香也の体まで手は届かなかったわけだが……。
「……あれ? おねーちゃん……」
 テンが、めざとく、弱々しく香也に向かって手をあげた明日樹の動きを見つけ、指摘する。
「……ひょっとして……おにーちゃん、欲しいの?
 駄目だよ、ちゃんといわないと……ボクだって、まだやってないんだから……」
 そういいながら、テンは立ち上がり、香也の背中にもたれ掛かる。
「……ね……おにーちゃん……。
 今度は、ボクにして……。
 ボク一人だけ仲間外れなんて、やだよぉ……。
 まだ、こんなに硬いし……大丈夫だよね……」
 後半は、香也の目をまともに覗き込みながら、香也の股間に手を延ばしながら、かすれた声で、香也に懇願する口調になっている。
「……ほら……」
 その時、孫子の囁き声が、明日樹の耳元で、した。
「……欲しいものは欲しいといわないと……他人に、取られちゃいますわよ……」
 明日樹は、孫子の吐息がくすぐったいのと、自分が何を欲しているのか明確に意識をすることを忌避して、いやいやをするように首を横にする。
「……このまましないと……樋口さん、死んじゃうんですよぉ……」
 今度は楓が、後ろから明日樹の耳元に囁いた。
「それとも、明日樹さん……香也様とするのが、いやなのですかぁ……」
「……ここ……こんなにしている癖に……」
 ガクが、自分で押し広げた明日樹の中心に指を添え、すうぅっと下から上に向かって、動かす。押し広げられた「中」を経由して、最後に上部にある硬くなった突起にガクの指が触れると、明日樹の全身がびくりと震えた。
 そうこうしている間にも、テンは香也の前にひざまづき、香也の股間あたりで頭を前後させはじめる。香也がこちらに背中をむけているので直にはみえないが、ぴちゃぴちゃと水音がするので、テンが口で香也の奉仕をしているのだろう……と、容易に想像がついた。
 直接目にみえない分、つい先ほど、ノリが同様のことをしていた光景を思いだし、明日樹は自分でも知らない間に身震いしている。
「なに、物欲しそうな顔して……」
 ガクが、明日樹の中心を指先で上下に刺激しながら、そんなことをいう。
「本当は、あすきーおねーちゃん……おにーちゃんが欲しいんでしょ……」
 明日樹は硬く口を閉じ、「……んんっ!」とうめくだけで、明確な返答を拒んだ。
 その時、香也の股間にとりついていたテンが、「……ぷはぁっ!」と口を離した。
「……きれいになったし、元気になったぁっ!」
 といいながら、テンは立ち上がり、香也に抱きつく。
「……おにーちゃんっ!
 あすきーおねーちゃん、おにーちゃんとするのがいやだっていってるから、ボクにしてっ!」
 テンのその言葉を聞いた途端、明日樹は「……あっ!」と、声をあげていた。明確に、テンの言葉に対する反発、ないしは、非難の響きが籠もっている、「……あっ!」だった。
「……ほら、素直にならないから……」
 再度、孫子が囁く。
「いつまでもそうしていると、永遠にあなたの番は回ってきませんわよ……」
 悪魔の囁きだ、と、明日樹は思う。
 明日樹だって、これまでに香也とそうなることを、まったく夢想しなかったわけでもない。
 しかし、このような状況は……まったくの、想定外だった。
 もっとロマンチックな雰囲気で……とは、いわないまでも……そういうことは、最低限、二人きりでするものなのではないだろうか?
「……おにーちゃん、無理矢理はいやだっていっているし……ほら、このままだと、次はテンになっちゃうよ……」
 香也に抱きついたテンは、身長差があるため、香也の首に抱きつくようにして、長々と口唇を重ねている。口唇も重ねながらぞもぞとした動いていることで、ただのキスではなく、舌を入れあっているのがわかった。
 明日樹は、自分でも知らずに固唾を呑んでいる。
「……ほ……欲しい…」
 誰かの、かすれた……というより、嗄れた声が、聞こえた。
 聞き覚えのある声だ、と、よくよく思い返してみると、それは明日樹自身の声だった。
「……欲しい。欲しい。欲しい。欲しい……」
 一度口にしてみると、後は堰を切ったように、そんな言葉が自分の口からとどめなく出てくる。
 香也に、抱きしめてもらいたい……口を吸ってもらいたい、それ以上のこともしてもらいたい……と、これまで必死で押さえつけてきた自分の欲望が、心の奥底からあふれ出てきた。
「……狩野君っ!」
 明日樹は、束縛を逃れて、香也の足下にすがりついた。
「……わたしにも……して……」




[つづき]
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