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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(254)

第六章 「血と技」(254)

「……ま。
 お前も、もう一人のコウヤなみにはモテるようになってきた、ってこったな……」
 というのが、夕食の支度をしながら、荒野の説明を聞いていた三島のコメントだった。
 ……いや、あっちは全員、損得勘定抜きの純粋な好意だし……といいかけ、昨夜、その手の言動がもとで女性陣の機嫌を損ねたことを思い出し、荒野は口を噤む。
 そこで荒野は、実際には口に出しては、
「……まだまだ、向こうの足下にも及びませんよ……」
 とかいって、謙遜してみる。
「……そういや……向こうも、今日は大変そうだな……」
 窓の方に顔を向けて、荒野はそう付け加えた。
 狩野香也の、バレンタイン……ちょっと想像しただけでも、いかにも無事ですまなさそうな気がする……。
「……とはいえ、お前さんも、他人の心配していられる身分じゃないだろ?」
 三島は、キッチンの墨に置かれた「チョコレートの山」をおたまで指さして、指摘する。
「……それの始末もあるし、今、ここに集まった人たちのこともある……」
「……いや、チョコは、甘いもの、嫌いじゃないんで、少しづつ片づけるつもりですが……」
「流石に、あれだけの量をいっぺんに食うと、血糖値が上がりすぎてあぶないからな……って、そういうこっちゃなくてっ!」
 荒野のぼけに、三島が律儀につっこみをいれた。
「……わかっているんだろ、お前も……。
 自分の足下にも、火がついてきているってことは……」
 三島は、にやにやと笑いながら、荒野に追い打ちをかけてきた。
「先生……。
 楽しんでますね?」
 荒野は、真顔で確認する。
「無論だ」
 三島は、即座に頷いてみせた。
「他人の不幸は蜜の味。
 というか、面白がらなくては、正直やってられん。
 お前の悩みというのはだな、一言でいえば、モテすぎて困るってこったぞ?
 ノロケか? イヤミですかそれは?」
「……そういう先生だって、昨日、喜んでチョコ作ってた癖に……」
 荒野は、うろんな目つきで三島を見返す。
「……先生、シルヴィの薬、どっぱどっぱ入れてましたよね……」
 荒野は、キッチンの隅に置いてあるチョコの山に視線を向けた。そこの中にある三島の特大チョコには「Oh! 義理!」とホワイトチョコで大書きされている筈だった。昨日、三島は、その「特大義理チョコ」とは別に、通常サイズのチョコを作っていたのを、荒野は確認している。そして、三島がシルヴィの薬をどっぱどっぱ入れていたのは、義理チョコではない方だった。
 まさか、自分で食べるものに、そんな薬を盛るとも思えないので……荒野は、三島からチョコを貰うことになった「被害者」に、心から同情する。
「……にひっ。
 にひひひひっ……」
 荒野が指摘すると、三島は気色の悪い笑い方をした。
「……そらぁ、もう、威力絶大でな。
 やつも、まだ若いから立ちは問題ないんだが、保ちと回数に少々難があってな。おかげで昨夜はひさびさにしっぽり堪能してずっぽりと腰が立たなくなるまで抜いてやったわ……」
 三島の隣で鍋をみていたシルヴィが、ぐっ! と、三島に親指を立ててみせる。
 ……可哀想に……早速、犠牲者がでたのか……と、荒野は、ぼんやりとそんなことを思った。
 ……三島みたいなのに捕まった男も、災難だよなぁ……と。
 そういえば、今日の三島は、荒野たちが徹夜明けで憔悴しているのとは対照的に、気のせいか肌がテラテラと精気にあふれ、輝いている。
 ふと、テーブルに座っている静流を見ると、心持ち頬を赤らめて、うつむいていた。
 ……この中では、静流が一番純真なのかな……と、荒野は思う。今まで親元にいたわけだし、気軽に遊びに出かけられる身でもなし……荒野を頼りにするくらいだから、おそらく、静流は生娘なのだろう……。

 その晩、三島が用意した献立は、塩鮭の焼き物に大根下ろしを添えたもの、ポークソテー、揚げ出し豆腐、アスパラガスの和え物、ほうれん草の煮びたし、しじみの味噌汁、だった。
 塩鮭は人数分あったが、普段でも人の三倍はふつうに食べる荒野がいるので、他の品目もかなり多めに作って大きめの器の盛り、取り分けるようにしていた。主菜がポークと塩鮭の二種類用意されているのは、三島以外は全員、徹夜明けでくたびれた顔をしていたからだろう。十分に栄養をとって休養しろ、という、三島なりの気配りなのだと、荒野は解釈した。
 こちらの食料の備蓄まで心配して買い出しにいってくれたり、こうしてなにかと料理を作ってくれたりするあたり、なにかと気が利くのだが……。
『……他の性格がなぁ……』
 と、三島について、荒野は思う。
 この人につき合わされているその男性というのも、さぞかし振り回されて迷惑しているのだろう……と、荒野は改めて想像する。
「……センセイの作るごはん、おいしいね……」
「……ほ、ほんと……」
 シルヴィと静流が、そんなことをいいあっている。
「「……い、意外なのです……」」
 酒見姉妹が、そう声を揃えた。
 全員、今までに三島の料理を口にする機会があった筈なのだが、そういう時はたいてい宴会のさなかであり、今回のように改めて、三島が作る場面をじっくりとみて味わう、という機会は、確かになかった。
「……茅も、先生に料理の基本、習ったんだよな……」
 荒野はマイペースで箸を使いながら、そんなことをいう。塩鮭は、ごはんが進む。みると、他の者たちも、荒野ほどではないにせよ、旺盛な食欲をみせていた。
「「……そうなんですか……道理で……」」
 酒見姉妹が、納得したように頷く。
 味付けが似ている……とでも、思っているのかも知れない。
「……それはともかく、だな……」
 三島が、荒野に向き直って、尋ねた。
「シルヴィに聞いたが、昨日はかなりお盛んだったそうだし、今日はこうしてグラサンのねーちゃんが来てる。
 お前らの一族ってのは、こういうの、ハーレム状態っての、アリになっているのか?」
「……あー……」
 荒野は、部外者の三島に分かりやすい説明の仕方を、少し考えた。
「……基本的には、当事者同士の意志が優先されますが……おれたちは、あれ、体や遺伝子も、資本ですから……」
「……自分たち自身の、ブリーダーを兼ねているようなもね……」
 シルヴィも、肩を竦める。
「……強くて優秀な子孫を得ることが出来れば、それだけ次世代以降が強化されるわけだし……」
 そう説明した後、「姉崎は、個体の能力をあまり重視してないけど……」と、付け加える。
「……文字通り、体が資本ってか……」
 三島が頷く。
「「……そうです……」」
 三島の言葉に、酒見姉妹が頷く。
「「六主家でも、特に加納は……本質的に、複雑なハイブリットですから……」」
「……どういうこった?」
 三島が、眉をひそめた。
「……先生には、詳しく説明してなかったけか……」
 と前置きしてから、荒野は説明を続ける
「……加納は、出生率が極端に少ない。
 受精率もかなり少ないし……仮に受精したとしても、その子供が加納の特性を受け継いで生まれる確率は、さらに少なくなる。結果として、今では加納は、絶滅寸前にまで人数が減っている……」
「それは、前にも聞いた」
 三島も、頷いた。
「で……その対策として、ご先祖様は、ばんばん縁組みとか種付けとかしてきたわけだ。加納の特性を受け継いだ子供が産まれなくても、縁組みとかが増えれば、それだけ加納の地盤は安泰になる。
 だから、一般人よりは、他の有力な血族との婚姻を重ねる……」
「……ああ……」
 三島は、ようやく納得がいったのか、大きく首を縦に振った。
「つまり加納は……結果として、何代だか何十代だかに渡って……他の一族の血を混ぜ合わせ、濃くしてきた、っと……」




[つづき]
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