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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(255)

第六章 「血と技」(255)

「……そんなわけで、遺伝子提供者としての加納は、一族の中ではかなり人気があるんだけど……」
 三島に向かってそう説明したのは、シルヴィだった。
「際限なく、他の血族と混血していった加納は、結果として、様々な因子を潜在的に内包しているわけだから……。
 子供にどういう資質が受け継がれるかは、運任せのロシアン・ルーレットね。例え、本人の能力が劣っていても、加納の血を引いているというだけで、性能のいい子が生まれる可能性は、格段に向上する……」
「……もともと、加納、姉崎、佐久間は、六主家の中でも身体能力に頼らない……どちらかといえば、知恵や経験で勝負する方だったから……」
 空になった茶碗を茅に差し出しながら、荒野も、説明を付け加える。
「……そのうちでも、特に加納は……長生きとしぶといのだけが自慢の、能なし……なにもできない加納、とかいわれてたんだけどね……」
「……佐久間は、個体として強力な頭脳を備えている。姉崎は、個体の特性に頼らず、コネクションとか蓄積した知識で勝負する。加納は……弱いけど、しぶとい……。
 個体の寿命が極端に長い、ということは、それだけおおくの事例を……失敗例を蓄積できるということだから……」
 シルヴィは、肩を竦めた。
「……で、何百年か何十世代かかけて、必死になって異質な種族と混合してたら、結果として様々な因子を内包した、オールマイティな存在に……何でもできる加納に、なっていた、と……」
「「……現に、加納様は……」」
 酒見姉妹は、箸を休めて声を揃えた。
「「……たいていの二宮よりも力が強く、野呂よりも速いのです……」」
「……身体的な能力値が高くても、あまり極端なアドバンテージにはならないよ……」
 荒野は、茅におかわりを受け取りながら、ゆっくりと首を横に振った。
「特に、現代では……一般人が作った道具の方が、どんな術者の能力よりも、よっぽど性能がいいわけだし……それに、そういう道具は、使い方を学びさえすれば、誰にでも扱える……」
「……そ、それでも……」
 今度は、静流が、口を挟む。
「……有能な者同士を掛け合わせる、という原始的な手段は、それなりに効果があったのです。
 弊害も、それなりにあるわけですが……」
 そういって静流は、こんこん、と指先で自分のサングラスの縁を軽く叩いた。
「……近親婚が続けば、エラーがでる率も多くなる、か……」
 三島も、頷く。
「昔っからそういうことやっているのなら、その程度のリスクは、経験則で予測できた筈だが……そのリスクを押して、なおかつ、子孫の能力を延ばす、って、メリットを取ることを選択した、ってことだろ?
 人間ブリーダーだな……」
「「……そうです……」」
 酒見姉妹が、同時に、三島の言葉に頷く。
「「……少なくとも、野呂と二宮の二家に関しては……その通りなのです……」」
「……そんでもって、お前のところの加納が、その六主家の吹き溜まり、っと……」
 三島が、今度は荒野の方に顔を向けた。
「……茅とかあいつら三人の新種どもも、どうやらハイブリッドらしいいけど……お前も、たいして変わらんな……。
 ハイテクかローテクかってところが違うだけだ……」
「……否定はしませんけど……」
 荒野は、口に含んだ塩鮭とごはんを、豚汁で喉の奥に流し込んでから、答える。
「それでも、おれら加納は……六主家のうち、佐久間と秦野の血は入っていない筈です。あそこらは排他的で、よそとは血を混ぜませんから……」
「……加納は、個体数が少ないんだったな……」
 三島は、何やら考え込む表情になる。
「……濃くなりすぎた六主家の血を攪拌するほどには、数がいないか……」
「それは……おっしゃるとおり、人数的に無理です」
 荒野も、三島の言葉に頷く。
「加納に、様々な因子が吹き溜まりはしていますが……加納は、外部に対して影響を与えるには、数が少なすぎます……」
「……こ、濃くなりすぎた血を、か、攪拌、ということなら……」
 静流が、荒野の言葉尻を引き継いだ。
「むしろ、一般人という、広大な遺伝子プールがありますから……」
「……そっか……」
 三島も、静流に向かって頷き返した。
「必ずしも、一族同士で子供を作るとも限らないわけだ……」
「子供だとか家族だとかは、術者のモチベーションに直接関わってきますからね」
 荒野は、三島に向かって説明する。
「結婚とか家庭を作るっていったら、やはり、当事者同士の意志が一番優先されます。そこは、一般人とさしてかわらない。
 ただ、優秀な子が欲しくて配偶者以外の者と子供を作って育てることはあるし、政略的な婚姻を結んおいて、よその異性と子供を作る……あるいは、未婚者が、何人も子供を作る……とかいうことも、結構おおっぴらにやる。誰も面倒がみれない子供の育成に関しては、かなり充実した専用の施設が用意されてますから、その分、親の心理的経済的負担は、かなり軽くなってます。
 そういうの、娑婆の感覚からいえば、乱暴でいい加減な印象を受けるかも知れませんが……一族の色恋や子造りは、オープンな分、一般人社会の男女関係よりもよっぽどさばさばしている、ともいえます……。
 こういうの、一般人社会の倫理感とは、ずれがあるかも知れませんが……」
「……そっか……特定の親の子供……というより、血族とか一族全体が扶養するシステムも、整備されているから……」
 三島が、感心したような声を出す。
「そうです。
 一族全体、という視野から見ても……どんどん、次世代を作って貰った方が、都合がいいんで……」
 荒野は、三島に頷いてみせた。
「……するってぇと、ナニだな……」
 三島は、ひどく真面目な顔をして、荒野の目を見据えた。
「お前さん……公然とハーレム三昧いつでも中出し可な女体天国モテモテ王国を作れるわけだな……」
「……まず、第一の前提として……おれ、茅の許可がない時は、他の女性を抱きたくないです」
 ……荒野は、三島の脳天を思いっきり叩きたい衝動に駆られたが……もちろん、実際にはそんなことをせず、静かな口調でこういった。
「第二に、おれ、まだ父親になりたい年齢でもないし……。
 それに、仮に、茅がそういうのをいいっていってくれたとしても……相手が誰であるにせよ、おれの子供が出来る可能性は、かなり低いです……」
「……ヴィは、コウと子供を作るのを条件に、姉崎の機構を使っているわけだけど……」
 すかさず、シルヴィが指摘した。
 これは、三島への説明……というより、他の女性陣への牽制だろう。
「「……わ、わたしたちだって……」」
 酒見姉妹が、同時に、がたん、と椅子から立ち上がった。
「「……加納様のお役に……心の底から、誠意を持っておつかえしたいと……」」
「……わ、わたしは……」
 静流は、顔を伏せながら、いう。
「こ、こんな身体ですから、ぜ、贅沢をいえる身分ではありませんが……わ、わたしよりも強くて、その気になれる、と、殿方って……ほ、ほとんど、いないわけですし……。
 こ、これでも……野呂本家の、一員なのです。
 ほ、本家の血を絶やさないため……そ、それと、わたし自身の気持ちとを、同時に満足させることの出来る方は……そ、そうそう、いやしないのです……」
「……よかったなぁ、荒野……。
 やっぱりモテモテのウハウハで……」
「……なんで、そこで……先生が、嬉しそうな顔をするんですか……」
 荒野が半眼で三島を見つめながら、指摘する。
「そいつは、気のせいだ」
 三島は、しれっとした顔で、荒野に答える。
「わたしは、だな。
 嬉しいじゃなくて、お前さんの境遇を他人事だと思って面白がっているんだ」




[つづき]
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