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彼女はくノ一! 第五話(340)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(340)

「……そもそも……性交したのかしないのか、ということを、生化学的に判断するのは難しいと思いますけど……」
 ……少し冷静になって考えれば、それくらいわかりそうなものなのに……と、孫子は付け加える。
 明日樹はひどく納得のいった表情をしていたが、楓は、その場で立ち上がって、なわなわと全身を震わせながら、孫子を指さし、パクパクと金魚のように口を開閉させている。
「……楓ちゃん……」
 またか、と思いつつ、羽生は念のため、楓に声をかけておいた。
「気持ちはわかるけど……その、今は食事中だからな。
 気合いのはいったお話し合いなら、また後でじっくりするべ。
 な。
 この場は、腰をかけて落ち着いて……」
 ……ここしばらく、落ち着いていたと思ったが……楓と孫子の関係は、これでなかなか、根本的なところで、緊張をはらんでいる。最近では、お互いに信頼しているような雰囲気も、それなりに感じてはいたが……ことに孫子の方が、楓に有形無形のちょっかいを出している。
『たしかに、楓ちゃん……いじりやすいキャラ、しているけど……』
 素直すぎるくらいに素直な楓の性格は、たしかにからかい甲斐があるよな……と、思いつつ、それに加えて、「楓は、孫子よりも先に、香也に手を出していた」という事実が、二人の関係を複雑なものにしている……と、羽生は、考える。
 孫子も楓も、お互いの力量を認めあっている節はあるのだが……とくに、楓ほど素直ではない孫子は、香也を間に挟むとそういう好意を素直に表明できない傾向があるようだった。
『……また、喧嘩になるんかな……』
 羽生に注意され、不承不承、といった態で座り直した楓も、今にも噛みつきそうな顔をして、孫子をにらんでいる。
 もちろん、この二人が本気でどつきあったら、羽生が介入できる余地は、まったくなくなる。仮にそういうことになったら、二人を止められるのは、それこそ、荒野ぐらいのものだろう。
 食卓をざっと見渡してみると、この場の緊張状態に気づかぬ風で、のほほんと食事を続けているのは香也とガク、それに孫子の三人、明日樹とノリは、完全にビビりがはいって萎縮しているし、テンは、いかにもおもしろそうな顔をして、楓と孫子の様子を観察している。楓は、時折、孫子の方に険悪な視線を送りながら、忙しく箸を動かしはじめていた。
『……しっーらない、っと……』
 一応、羽生は、家庭内の雰囲気は険悪になって欲しくない……という立場だが、男女間のことや楓や孫子の暴走に関しては、完全に、羽生の手には余る。

 食事が終わった後、三人組は風呂に入りに行き、楓と孫子は食事の後片づけ、香也は明日樹を送るために、二人で外に出ていった。
「……才賀さん……」
 肩を並べて食器を荒いながら、楓が、やけに真剣な声で孫子に話しかける。
「なんで……あんな嘘、ついたんですか?」
「なんなことでもしなくては……」
 孫子は、淡々とした口調で答える。
「永遠に、あなたとの差が、縮まりませんわ……」
 いち早く香也との距離を縮めている楓に対し、孫子が、心穏やかではいられない……という心境にあることは、楓は、まるで気づいていない。
 そうした楓の無頓着さも、孫子を苛立たせる一因となっているのだが……。
「……そ、そんなことでっ!」
 楓が、孫子の方に向き直って、大きな声を出す。
「あなたにとっては、香也様とのことは……そんなこと、程度の価値しかないのですか?」
 孫子が冷静に返答すると、楓は言葉を詰まらせた。
「わたくしは……香也様のためなら、喜んで手を汚します」
 事実、あんな姑息な手段を弄さなくては、孫子は、楓と香也の間に、割り込むことができなかったのだ。だから、薬物とペテンいう姑息な手段に訴えたことを、孫子は後悔していない。
 例えば、強引な手段に訴えて、香也に自分を抱くようにし向けた最初の時も……ああでもして割り込まなくては、香也と楓の距離は、あのまま自然に縮まって、すぐに付け入る隙もない有様になってしまっただろう……と、孫子は思っている。
「……だ、だからって……」
「……それとも、あなたはっ!」
 楓が、なんとか孫子に反駁しようと試みるのを、孫子は、ぴしゃりと遮るように言葉を重ねる。
「目の前で、他の誰かが、香也様と深い関係になっていくのを……指をくわえてみていることができるのですかっ?!」
 孫子が、楓を見ていらいらするのは、こんな時だった。
 楓は……あまりにも、善人で……邪気が、なさ過ぎる。
 無茶なこと、汚いことをしなければ、自分が欲しいもを手に入れられないとしたら、孫子は、平然と自分の要求を満たすために、いくらでも汚い真似が出来るが、楓は、そうではない。
 一族の関係者にはあるまじき、まっとうな倫理感の持ち主である、といえるが、楓を使う荒野の側にしてみれば、かなり使いづらい人材なのではないだろうか? ……と、孫子は思う。
 いくら、その他の能力が秀でていたところで、判断力に難があれば、単独での行動はかなり制限される。精神面での脆弱さと肉体面でのずば抜けた能力が同居している楓は、そのアンバランスさ故に、使いどころが難しい人材になっている……と、部外者である孫子でさえ、そう思う。
 荒野、並びに、楓をここまで鍛えた一族の上層部は、かなり口惜しい思いをしているのではないか?
『……それでも……』
 最後の最後に、自分の欲しいものを手に入れてしまうのは、楓のような、邪気がなく、善良な性格の人間なのではないか……とも、孫子は思いはじめている。
 孫子や荒野のような特殊な人間が、なりふり構わず力ずくで構築した地平を、何の疑問も持たずに享受し、その成果を一番に味わうのは、結局のところ、何の後ろめたさも感じることのない、「善人」たちなのだ。不公平なことだ、とは思うが、孫子や荒野は、苦労する分、「強者」として相応の待遇を得てきているので、それなりに帳尻があっては、いる。
 しかし、楓は……能力的には、一般人よりも孫子や荒野に近いのだが、心情的には、一般人に近い場所に立っていた。
 孫子も、一般人と仲良くすること自体を否定するわけではない。が……それでも、やはり……一族や自分たちと一般人には、根本的な部分で、違うところがある。
 これは、否定しようがない事実であり……しかし、楓は……この溝の存在を、あまり意識しているようには見えない……。
 明らかに一般人以上の能力を持ちながら、一般人としてしか物事を判断することができない楓は、そのうち大きなしっぺ返しを食らうのではないか……と、孫子は、そうした、漠然とした予測も、した。




[つづき]
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