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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(261)

第六章 「血と技」(261)

 校門から出てしばらくいったところで、携帯が震えた。
「……テン?」
 液晶で呼び出してきた相手を確認すると、荒野は電話にでる。
「……荒野だけれど、なに?
 またなんか起こったか?」
 電話にでるなり、荒野は開口一番、そういった。
『……起こった、というか……来た』
「……来たって、何が?」
 荒野が、訝しげな声を出す。
 テンにしては……妙に、歯切れが悪い話し方だった。普段のテンなら、もっと「わかりやすい」話し方をする。
『……佐久間から……ボクたちの先生が……』
「……何?」
 確かに、茅や三人に佐久間の技を教える人間を派遣してもらう……という約束は、佐久間の長に取り付けておいたが……あれから音沙汰がなかったし、何故、荒野のところではなく、テンたちのところに姿を現したのか……まるで、見当がつかない。
「……テン、今、どこだ?」
 詳しい事情は、直接聞かなければ埒が明かないようだ……と、荒野は判断する。そこに「佐久間の先生」がいるというのなら、荒野が急行して話しを聞いた方が早いだろう……と、荒野は思った。
『……どこって、うちだよっ!
 うちの、居間っ!
 そこに、佐久間現象と二宮舎人のおじさんが来てるのっ!』
 ……なんなんだ、それは……と、荒野は呆れた。

 荒野が羽生に案内されて狩野家の居間に入ると、そこにはテン、ガク、ノリの三人と、佐久間現象と小柄な少年(少女?)、それに二宮舎人が差し向かいになって炬燵に当たっていた。
 テン、ガク、ノリの三人は緊張した面もちで向かい側の三人を睨んでいる。
 佐久間現象は、何故か、首にギプスを巻いた姿で、対面している三人から不自然に視線を逸らしていて、二宮舎人は大きな背中を丸めて湯呑みを傾けている。その二人の間に挟まれた小柄な子は、いかにも居心地が悪そう様子で、縮こまっていた。
「……ども……」
 居間の様子をざっと点検すると、荒野は声をかけて炬燵に入った。
「旧知の人物二人に、新顔さん一人、か……。
 新顔さんもいるから一応自己紹介しておくけど、おれが、加納荒野です……」
 現象と舎人の間に挟まれて小さくなっている子に向かって、荒野が頭を下げる。
「……あっ、どうも……。
 存知あげております。
 加納の若様は、有名人ですから……」
 と、その子が声を出して挨拶を返したので、女性だということが判明した。きれいなアルトだった。
 ガクが、
「……でたよ、かのうこうやのたらしが……」
 と、小声で呟いたが、当然のことながら、これは無視する。
「……それで……これはどういうことなのかな?
 誰が説明してくれるの?
 できれば、そっちの現象君とは二度とお目にかかりたくはなかったんだが……」
「……あっ!
 はい……」
 真ん中の子が、慌てて説明をはじめる。
「おっしゃること、もっともかと思います。
 ですが、長の命により……」
「……その前に……」
 荒野は、その子の説明を遮った。
「君は、どういう立場の人なのか……という説明を、先にして貰えるかな?
 両脇の二人は旧知の人物だけど、君のこと、こっちは知らないわけだし……」
「……そ、そうですね。うっかりしてました。
 わたしは、佐久間梢。これでも佐久間の末端になります。
 長の命により、この現象とともに、皆様に佐久間の技を伝える為に参じました……」
「……この、現象とともに?」
 びくん、と、荒野の眉が跳ね上がった。
「佐久間の長も……随分と意地の悪い人選をなさる……」
「同感です」
 梢、と名乗った少女は、荒野の言葉に頷く。
「こんな性根がひん曲がった者は、一生座敷牢にでも放り込んでおくべきです……」
 まんざら、芝居や謙遜だけでもなく、真面目な顔をして梢が頷く。
 この梢という少女も、現象にはあまり好意的ではないらしい……と、荒野は判断し、脳裏に書き留めた。
「……佐久間本家でも手に負えなくて、体よく放逐されましたか?」
 にこやかに微笑みながら、荒野は確認した。
「……似たようなもの、ですね……」
 梢も、にこやかに笑いながら、荒野に答える。
「更正と再教育の必要あり、ということで、厳重な監視下のもと、しばらく、一般人社会の中で生活させることになりました……」
 ……だんだん、話しがみえてきた……と、荒野は思った。
「……それで、その監視役というのが……」
「……ええ」
 梢が、頷く。
「このわたしと……」
「……おれだぁ。
 ま、まったくの初対面よりは、こいつと面識があるもののほうがやりやすいだろう、って判断だろうが……。
 今度は、正真正銘の、佐久間本家の依頼だな……」
 二宮舎人が、ごつい顔に太い笑みを浮かべる。
「……こいつがへましたら、思う様どつきまわしていいって話しになっているんで、それなりにやりがいはあるかな、っと……」
 荒野は、現象の首のギプスをまじまじと見つめた。
「……まさか、この怪我……。
 舎人さんがやったんじゃあ……」
「……違う、違うっ!」
 舎人は、慌てて否定する。
「第一、おれはたった今、合流したばかりだっ!」
「……あ、あの……」
 梢が、申し訳なさそうに顔を伏せて、小声で説明した。
「現象の、この怪我は……長がやったもので……。
 現象が、長に無礼なことをいったので……その、しばき倒された次第で……。
 本当は、もっと重傷だったのですが、ようやく動けるようになったので、こちらに来た次第で……」
「……ええっと、あの……長が?
 あの、佐久間の……長が?」
 荒野が、目を丸くすると、梢はますます小さくなってしまった。
「……いや、話しはわかった。
 佐久間って……頭脳派だと思ったけど……長ともなると、荒事の修練にも手を抜かないらしい……」
 それから、現象を見つめて、しみじみとした口調で、付け加える。
「お前……人を怒らせる才能だけは、たっぷりあったんだな……」




[つづき]
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