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彼女はくノ一! 第六話(3)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(3)

 二宮舎人をプレハブの中に招き入れて、ノリと羽生は相談の末、母屋に入った。ノリも舎人とは初対面だったが、ガクやテンから「ガクが暴走した時、自体を収拾するのに協力してくれた人」として話しを聞いている。その舎人とあの「梢」と名乗った少女の二人なら、つまり、無意味に高圧的な少年を除いた二人なら、信用できそうな気がする……というのが、二人の一致した意見だった。
 もとより、あのプレハブの中には、膨大な、過去、香也が描いた絵と、順也が放り込んでいったキャンプ用品くらいしか置いてなく、仮になにがしかの被害が発生しても、たいした損害ではない、と判断したのも、三人を放置する一因になっている。こと香也は、描く課程に重きを置いているので、一度描き上げた絵がどうなろうと頓着しない傾向があった。万が一、香也の絵が破損した場合、香也本人よりも楓や孫子、荒野などの周囲の人々が本気で憤りそうな気がしたが、現象という少年もかなり深い興味を持って香也の絵を一枚一枚みているわけで、あの様子ならあそこで暴れ回る、ということはないだろう……という見解を羽生がしめし、ノリもその意見に賛同した。

「……向こうにお茶、差し入れに行こうか?」
 母屋に入ると、羽生はノリにそう、お伺いを立ててみる。
「いや……。
 お客っていっても、こちらから招いたわけでもないし……それに、灯油ストーブの火、付けてきたから、飲み物がほしかったら、自分たちで勝手にやると思うけど……」
「……それも、そうか……」
 羽生は、頷いた。
 あの現象という少年が、学校襲撃事件の実行犯の主犯だ、ということは、頭では理解しているのだが……この二人は、その件については伝聞でしか耳にしておらず、いまいち、実感がわかないのであった。
 しばらく話し合った後、「ガクやテンが合流してくるまで、放置して様子をみよう」という結論が出た……と、思ったら、玄関の方で、「「……たっだいまー……」」と、いうテンとガクの声がした。
 羽生とノリは顔を見合わせて玄関に急行し、その場でかくかくしかじかとプレハブに来訪した三人について説明する。もともと、二人が知っている事実自体がそうは多くないので、その説明もすぐに終わる。
テンとガクからも、二人が知っている範囲内で情報を提供して貰う。とはいっても、二人とも、現象については、顔はみていてもまともに会話したことがなかったので、専ら、既知の人物である「二宮舎人」についての話しになる。
 その舎人について、「あのおじさんは、信用できる」ということで、テンとガクの見解は一致していた。あのおじさんがついているのなら、大きな間違いは起こらないだろう、と。舎人は、何か問題が起こりそうになったら、身体を張ってそれを止めてくれそうだ、と。
「で……どうする?」
 羽生が尋ねると、テンが、
「……かのうこうやに連絡しよう……」
 と、携帯を取り出す。
 気づくと、すでに終業の時刻をいくらか過ぎていた。
「……ボク、あの三人を呼んでくる……」
 ガクが、腰をあげる。
 ガクと舎人とは、奇妙な因縁があったから、ちょうどいいのか知れない。暴走が収まった後、すぐに病院に運ばれたので、ガクはまだ舎人にあの時の礼をいっていなかった。

「……起こった、というか……来た。
 ……佐久間から……ボクたちの先生が……。
 ……どこって、うちだよっ!
 うちの、居間っ!
 そこに、佐久間現象と二宮舎人のおじさんが来てるのっ!」
 テンの説明は、珍しく要領を得なかった。
 何度か荒野が聞き返して、それに答える……という状態が、テンの言葉からも推測できる。
 ……この子でも、慌てることがあるんだな……と、羽生は感心した。テンについては、「冷静な判断力を持って、計算高い子」というイメージを持っていた羽生は、軽い驚きをもってテンを見守る。
 この前、自分たちを窮地に陥れた佐久間現象が、今度は、自分たちを助けてくれるために現れた……ということに、テンは、面白いほど動揺しているようにみえた。
 いくら頭が良くても……閉鎖的な環境で育ってきた三人は、こと、対人関係に関しては、経験値が圧倒的に足りない。
 年長者はうやまえ、とかの、一面的な基本原則は弁えていても、今回のような複雑なパターンになると、どういう態度をとったらいいのか、判断に迷うのかも知れない……と、羽生は思った。

「……絵なら、後でいくらでもじっくりみれるし、あれ描いたおにーちゃんも、後しばらくすると帰ってくるから……」
 とかいいながら、プレハブの三人を引き連れてガクが居間に入ってきて、そのすぐ後に、マンドゴドラの包みを抱えた荒野が来訪した。荒野は、学校帰りに直行してきたのか、制服姿で鞄も抱えていた。

 マンドゴドラの包みを羽生に預け、荒野は早速、事情聴取を開始した。
 まず荒野は、荒野にとって初対面である佐久間梢について質問し、梢が、「佐久間の末端で、現象の監視役と、現象とともに、技の指南役として派遣されてきた」といった意味のことを答えると、感心したような、呆れたような表情をした。
 荒野たちとは因縁のある現象が教師役と派遣されたことについては、複雑な表情で、
「佐久間の長も……随分と意地の悪い人選をなさる……」
 と、感想を漏らした。
 呆れ、驚いているようだったが、現象に対して憤りや恨みを感じている表情ではない……と、羽生は、荒野の態度をみて、そう観測する。
 むしろ……呆れつつ、この状況を、面白がっている風でもあった。
 それから、現象の首のギプスを指さし、
「……まさか、この怪我……。
舎人さんがやったんじゃあ……」
 と水を向けると、舎人は、
「……違う、違うっ!
 第一、おれはたった今、合流したばかりだっ!」
 と、かなり強硬に否定する。
 可哀想になるほど小さくなった梢が、現象の怪我は、佐久間の長の仕業であることを説明すると、
「……ええっと……長が?
あの、佐久間の、長が?」
 と、大仰に驚いてみせた後、しげしげと現象をみつめながら、
「お前……人を怒らせる才能だけは、たっぷりあったんだな……」
 やけに感心した口調でいった。
 どうやら、荒野にとって、その「佐久間の長」という人と、現象に加えられた体罰の後とが、イメージ的に噛み合わないらしい……と、羽生は思う。




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