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彼女はくノ一! 第六話(5)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(5)

 学校内で、という以上な状況下でこうした淫らな行いをすることに興奮したのか、香也はすぐに背中を震わせ、香也の下腹部にとりついていた孫子が「……んっふっ!」とうめく。
 孫子がそこから顔を離したことで、明日樹は、「……終わった、の?」と判断した。
 香也の前にひざまづいた姿勢から立ち上がった孫子は、自分の口を手でおさえていて、香也は孫子が離れた途端、手早くジッパーをあげて準備室からでていった。これ以上、この場でこの手のことをしない……という、香也の意思表示でもあったのだろう。
 香也が出ていった後、孫子と二人、取り残された明日樹は、孫子の様子をみた。
 孫子は、しばらく口を手で押さえて軽く眉を顰めていたが、やがて喉を大きく起伏させ、口から手を離した。
「……飲んじゃった……の?」
 明日樹が、目を丸くして孫子に尋ねる。
「ええ」
 孫子は、明日樹に向かって邪心のない晴れやかな笑みをみせた。
「おいしいものではありませんが……これを無理に飲むと、香也様の一部を体内に取り込んだ、という気分になれます」
 明日樹は……そんなことを断言できる孫子に、妬心を覚えた。

 準備室から美術室に戻った香也は、急いで絵を描く用意をし、「これ以上、彼女たちのペースに巻き込まれてはいけない」と心中で自分にいい聞かせながら、キャンバスに向き直る。最近では一番、心休まる場となっている放課後の美術室でまで、突発的にピンク色の突風が吹き荒れる家でのノリを持ち込むのは、断じて勘弁してほしかった。
 そこで、キャンバスに向かった香也は、猛然と筆を使いはじめ、すぐに描きかけの絵に没入して雑念を脳裏から追い払う。経験上、絵を描いている時は、彼女たち……楓、孫子、それに、昨日からは明日樹も……香也の邪魔はしない、ということがわかっていたからだ。
 事実、香也に少し遅れただけで美術準備室から出てきた明日樹と孫子は、香也が一心不乱にキャンバスに向かっているのを認めると、それ以上何も干渉しようとはせず、明日樹は自分の絵に取りかかりはじめ、孫子は空いている椅子に座って文庫本を開く。
 そして、その日のそれ以降は事件らしい事件も起こらず、静かに時間が過ぎ去った。
 こういうのこそ、自分の望む環境だ……と、香也は思った。

 最終下校時刻の予鈴が鳴る少し前に、帰り支度をした楓と茅が美術室にやってくる。すると香也と明日樹は画材を片づけはじめ、帰宅のための身支度をしはじめる。孫子がこの場にいることを除けば、おおむね、いつもの通りの段取りだった。
 このところ、比較的安定していた楓と孫子の関係は、昨夜の一件……より正確にいうのなら、夕飯の時に孫子が楓を騙していた事をばらした時点から、再び微妙な緊張をはらむようになっていた。と、いうより、楓が一方的にむくれていて、孫子の顔をまともに見ようとはしなくなっている。
 それで具体的な実害があるかないかといえば、ないのだが、自宅内の雰囲気が確実にぎすぎすしたものになっているのは確かであり、香也としては早くこの状態がいい方に変化しないかな……と思わないわけにはいかないのであったが、実際に自分が口を挟むとかえって事態が悪化しそうでもあり、結局何もいえないのであった。

 楓と孫子の険悪な雰囲気を関知して、明日樹もどこか決まりが悪そうな表情をしている。明日樹は昨日の一件以来、無関係とはいえない間柄になってしまったわけで、くわえて、夕食にも同席していたので、孫子が楓に自分の嘘をばらした現場にも居合わせている。それで、香也と同じく、今朝の登校時から、明日樹の居心地も、非常に悪そうだった。
 露骨に孫子を無視しようとする楓。悪くなる雰囲気に不満を抱きつつも、何もできないという無力感を抱いている香也と明日樹。現在の状況を理解していながら、澄ました顔をして改善策を講じようとしない孫子。この気まずい雰囲気をわかっているのかいないのか、いつもとまったく変わらない態度の茅……という組み合わせで、その日の帰路はきわめて言葉少なく、静かなものとなった。

 マンション前に来ても、茅は別れようとしせず、香也たちと一緒に狩野家についてこようとした。
「……こっちに、荒野とお客様が来ている、とメールがあったの」
 との、ことだった。
 興味を持ったのか、明日樹も茅と一緒に、玄関までついてくる。
 玄関に入ると、確かに、この家の住人のものとは別に、荒野の靴とゴツいブーツ、それに、見慣れないスニーカーが二足、置いている。
「……また、加納君の関係者?」
 玄関先で靴を見おろしながら明日樹が尋ねると、
「そうなの」
 と、茅が答える。
「でも……なら、どうして……茅様には連絡が入って、わたしには何も……」
「荒野が、急いで会わないといけないお客さんではないっていうし……楓に知らせると騒ぐかも知れないから、知れるなって……」
「……わたしが知ると、騒ぎそうなお客さん、ですか?」
 楓が、首を傾げる。
「どのみち、すぐそこに居るのですから……こんなところで考えているより、中に入って直に顔を拝んだ方が早いのではなくて?」
 孫子が、いつまでも玄関先で雁首を並べている滑稽さを指摘した。
「そう……です、ね」
 楓は頷いて、靴を脱いだ。
「ただいま」とか「お邪魔します」とか口々にいいながら、一緒に帰宅した連中が次々と家の中に入っていく。
 そして、居間に入ると……。
「……あっーっ!」
 ケーキをぱくついている現象と舎人を指さして、案の定、楓が騒ぎだした。
「なんでなんでっ!
 こんなところでマンドゴドラのケーキ食べているんですかっ!」
 分厚い胸を屈めてフォークを使っていた二宮舎人が顔を上げ、「よっ」と片手をあげて旧知の楓に挨拶をする。
「……楓」
 それまで、とろけそうな顔をしてケーキを食べていた荒野が、いきなり顔を引き締めて、いった。
「こいつらが、茅たちに佐久間の技を伝授してくれるそうだ。
 別に丁重に扱う必要はないが、あまり乱暴なこともしないように……」
「……いえ。この現象に関しては、何か粗相がありましたら、遠慮なくしばきたおしてくれても構いませんけど……」
 二宮舎人の隣に座っていた女の子が、そういった。
「そういうわけだ、雑種……」
 二宮現象が、無意味に胸を張った。
「お前等の手助けをしてやるから、せいぜいありがたく思え……」




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