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彼女はくノ一! 第六話(6)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(6)

「……そういや……今日は、酒見たちは?」
「現象が来ているというから、今日は断ったの。
 あの二人がこの場にいると、また騒ぎそうだから……」
「……あー。
 それで、正解か……あいつらも、単純だしな……。
 後で落ち着いてから説明した方が、面倒がなさそうだ……」
 楓の焦燥をよそに、荒野と茅はのんびりとそんな話しをしている。
「……ちょっ!
 か、加納様っ!
 ……だから……何で、ここに、こいつがっ……」
 誰も鎮火しようとしないので、騒ぎ続ける楓。
「静まれ、雑種……」
 現象が、静かな口調で楓にいう。
「このぼくが、お前らの一派に佐久間の技を伝授してやろうというのだ。せいぜい、光栄に思え……」
「……なるほど……そういうこと……」
 孫子が、頷いた。
「佐久間から、茅たちの家庭教師を出して貰うという話しはありましたが……まさか、この者が派遣されてこようとは……。
 加納……あなた……他の一族から、便利な問題児の更生係だと思われているのではなくて……」
「……あの……」
 現象の隣にいた少女が、遠慮がちに片手をあげる。
「加納様に、そこまでお願いする気は……一応、わたしが現象の更生係ということになっているんですが……」
「……あなたは?」
 孫子が、その少女に視線を向けて、尋ねる。
「梢とお呼びください。これでも、佐久間の末端です。
 この現象の監視役と、それに皆さんへの技の教授をお手伝いに来ました……」
「……一応、おれもな……その、監視役ってやつ……」
 梢と現象の両脇を挟むようにして座っていたごつい男も、片手をあげる。
「二宮の末端、舎人だ。
 佐久間本家のご依頼でね……」
 孫子、香也、明日樹を除き、その場にいた大方の者は、舎人の顔を知っていた。
「あと、いっておくと……佐久間本家は、現象を完全に野放しにするつもりもないようだ……。
 この間、大きな騒動を招いた張本人ってこともあるし、野呂からも誰か専任の監視役がつくとか、聞いている……」
「……ご免」
 玄関の方で、声がした。
 まだ居間の入り口で立っていた楓が、玄関に向かう。

「……ええっと……お客さん、です……」
 スーツ姿の、サラリーマン風の男性が、楓の後に立っている。
 その男は、その場で手をついて平伏した。
「……現象殿監視の役、佐久間本家より仰せつかった野呂の末端、平三と申します。
 それがし、常人よりも耳が利きます故、遠方よりすでに監視の任についておりましたが、この地に来て加納の若にご挨拶をせぬのも非礼と思い、この場に参上した次第……」
「入ってください、平三さん」
 荒野が、声をかける。
「監視対象とは、距離を置く……というのは、それなりの見識ではありますが……佐久間は、現象に与える影響も考慮して、今回の人選をしていると思います。ここで、現象の一派としっかり合流していた方が、後々やりやすくなると思いますよ。
 それから、香也君たちも、いつまでも突っ立ってないで……」
 荒野が手招きすると、平三と名乗った男は、恐縮しながら炬燵に近づいた。
「……あ。わたし、そろそろお夕飯の仕度……」
 それを機に羽生が食べ終えたケーキの皿の上にティーカップを重ねて立ち上がると、テン、ガク、ノリも「お手伝いするー」とかいいながら、羽生の後に続いた。
「……着替えてくるの。
 楓も、荷物持ってくるの手伝って……」
 茅が、玄関の方に歩き出し、楓が、「あっ、はい……」とかいいながら、茅の後を追いかける。
「……んー……。
 着替えて、くる……」
 香也は自室に向かい、孫子は制服のまま、炬燵の空いた席に足を入れた。明日樹も、少し躊躇ってから、孫子の隣に座る。
「……良かったな、現象。
 お前さんも立派なVIP扱いだ……六主家のうち、半数から直々に注目されるなんて、滅多にないことだぞ……」
「ふん」
 現象は、荒野の言葉を鼻で嗤った。
「こいつらが……このぼくが本気になった時も、取り押さえられる実力の持ち主だといいがな……」
「おれ一人にノックアウトされたやつが、何をいうか……」
 荒野も、そういう現象を、嗤う。
「……以前とは違い、ここいら、今は一族の溜まり場だから……お前くらい簡単にあしらえる人たちが、ごろごろいるぞ……」
「静流様も、こちらにいらっしゃるようで……」
 炬燵に入りながら、野呂平三がいう。
「それに、ぼくもいるしぃ……」
 いつの間にか、荒野のすぐ後に荒神が立っていた。
「……なにぃ?」
 と、荒野が振り返るよりも早く、
「……こぉぉやくぅぅぅんっ……」
 荒神は、荒野の背中に抱きついている。
 突如出現した荒神に、しばらく呆然としていた二宮舎人、佐久間梢、野呂平三が、弾かれたように炬燵から出て、畳の上に平伏する。彼ら、並の術者にしてみれば、「最強」二宮荒神は、殿上人どころかその名の通り、「神」にも等しい存在だった。
「……ありゃ? 荒神さん、久しぶり……」
 荒神の声を聞きつけた羽生が、顔だけを出して挨拶する。最近の荒神は、数日に一度、深夜に帰って来て数時間だけ滞在して外出する、というパターンを繰り返しているので、この家の住人が荒神と遭遇する頻度は極端に少ない。
「……ご飯、食べてくでしょ?
 荒神さん以外のみなさんも……」
 羽生の気の抜けた声が、居間に響いた。




[つづき]
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