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彼女はくノ一! 第六話(9)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(9)

「……ええっとぉ……」
 楓が、助けを求めるように周囲を見渡す。
「……これは、一体……」
「昼間、プレハブで絵を見ていたのですが……」
 梢が、推測を口にする。
「どうやら……思っていた以上に、感銘を受けていたようで……」
「感動した、とか、そういうことではない」
 現象は、香也の目をまともに見据えていう。
「正直、絵の善し悪しなぞ、ぼくにはわからない。
 加納が以前、いっていた通りだと感じた。それだけだ。
 一族や、それにぼく自身もそうだが、人を傷つけたり足を引っ張るような真似ばかりしていた。
 だけど、ここに、自分の意志で黙々と何かを創り続けいた人間がいた。一族のやることは、引き算だが、貴様がしてきたことは足し算だ。
 なんの見返りも評価もなしに、加納の言葉を借りれば、世界を豊かにしてきたやつがいる。
 その事実を確認できたことが、嬉しい……」
 現象は一気にまくしたてながら、ぶんぶんと香也の手を握りしめて上下に振り回す。
 香也の方は、露骨に迷惑そうな顔をして現象から顔を逸らし、「……んー……」と唸っていた。
 しばらくそうしていた後、流石に辟易したのか、
「……あの……そんなに、絵を描くのが偉かったら……自分でも、やれば?」
 とか、いいだす。
「紙も筆記用具も、そこいらに転がっているし……」
 香也にしてみれば、あんまり大仰に褒められても照れくさいだけだったし、それ以上にまともに相手をするのが面倒くさい。現象の反応は、一見、褒めているようではあるが、その実、香也の絵をしっかりと見てはいないのではないか……と、感じた。
「……そーだな……。
 ほれ、紙」
 羽生は、香也の言葉を受けて、現象にちょうど持っていたスケッチブックと鉛筆を手渡す。
「あと、鉛筆もあるし、筆とか絵の具欲しかったら、すぐにでも持ってくるから……」
 その場にいた全員が、現象に注目していた。
「……い、今すぐ……か?」
 現象は、露骨に狼狽した様子で、誰にともなく尋ね返す。
「いや、よかったら、やれば……ってことなんだけど……。
 だって、絵を描くことは、素晴らしいことなんでしょ?
 だったっら、うだうだいわないで、自分でどこどこやってみ……」
 羽生が、多少意地が悪い口調になって、いう。
「……んー……。
 やってみれば、別に、難しいことでもないし……」
 香也は羽生ほどの悪意もなく、あくまで普段の通りの口調でしゃべっている。
「別に、そんなに構える必要はないし……。
 そこのノリちゃんだって、ついこの間描きはじめて、もうスケッチブック何冊分か描き尽くしているし……」
 香也がそういうと、ノリは、どたどたと一度居間から出ていき、すぐに数冊のスケッチブックを抱えて帰ってくる。
「……そう。
 こんだけ描いた……」
 そういって、ぱらぱらとスケッチブックの中身が現象に見えるように、開いてみせる。
 あくまで無邪気な口調だった。
「……ということで、今までの経験の有無とか関係ないから……」
 羽生は、笑いながら現象の肩にぽんぽんと手を置いた。
「……他の新種にできて、こっちでは出来ない、ということになると……恥、ですよ」
 梢が、さりげなく現象を追いつめる。
「別に、難しいことはないと思うの……」
 茅も、口を挟んだ。
「視覚情報を座標として変換すれば、平面上に正確なパラメータを図示することは……」
「佐久間の能力も、個人差があります」
 梢が、茅に向かって説明した。
「見た目や質感から、距離やサイズ、質量をいいあてる能力の持ち主は、佐久間の中でも希です」
「……じゃあ……」
 ノリが、楓に尋ねる。
「このおにーちゃんの場合……そういうのは、一般人並なの?」
「今までの試験の際、ごまかしがなければ……」
 梢が、答える。
「わかった」
 ノリが、頷いた。
「そこの、目つきの悪いおにーちゃん。
 絵、描きたい?
 うちのおにーちゃんみたいに……」
「……おっ……おぅっ……」
 現象が、戸惑いつつも、頷く。
「大丈夫。
 誰でもはじめは初心者だから……。
 遠近法って知っている?」
 ノリは、現象が羽生に渡されたスケッチブックに描線を走らせ、今までの香也に教えられた技法をひとつひとつ噛み砕いて説明しはじめる。
 現象は、真剣な顔をしてノリの説明を聞いていた。

「……わたし、そろそろ帰ります。
 あんまり遅くなっても……」
 少ししてから、頃合いをみて、明日樹が立ち上がる。すると、香也もいつものように外出の用意をしだした。明日樹を送っていくのは、香也の役割と決まっていた。
 そのころになっても、現象の左右にノリと羽生がとりついて、あれこれと絵の描き方を指導している。
 ……慣れないうちは、下手にアドバイスするよりも、自由にやらせて絵を描く、という行為に慣れさせたほうがいいんだけど……と、香也は思ったが、なかなか自分の手を動かそうとしない現象のようなタイプは、あれくらい周りがせっついた方がいいのか、とも、思う。

「……なんか……また、変わった子が来たね……」
 帰り道、明日樹は、香也に話しかける。
 学校襲撃の件を伝聞でしか知らない明日樹と香也は、何故、荒野があれほど現象に対して露骨に警戒するそぶりをみせるのか、いまいちしっかりと実感できない。
 今日の様子をみる限り、現象は、無意味に偉そうな態度、反応が読めないオーバーなリアクション……等々、明日樹の言葉を借りれば「変わった子」、もっとぶっちゃけた表現を使えば、「変なやつ」以外の何者でもない。
 知り合いに一人くらいいると賑やかかも知れないが、自分からはあまりお近づきにはなりたくないタイプだな……というのが、現象に対する香也の評価だった。もっとも、香也の場合、現象に限らずたいていの人付き合いを「面倒くさい」と思ってしまうタイプなのであるが……。
「まあ……また、女の子が同居、とかいうパターンじゃなくって、よかったわ……」
 香也が何もいわないので、明日樹は会話の方向性を変える。
 そして、夜道をみわたし、前後に人がいないのを確認してから、香也の耳に口を寄せた。
「……今日の、準備室での、才賀さん……」
 頬と耳にかかる、明日樹の息づかいが、くすぐったくて、香也は背筋を震わせた。
「……あんなこと……しょっちゅう、してもらっているの?」
「……い、いや……」
 香也は、慌てて首を振る。
「……本当?」
 顔を近付けてきた明日樹が、至近距離から上目遣いで香也を見上げた。
 その表情に、香也は何故だかぞくぞくするものを感じる。
「ほ……本当……」
 香也は、かすれた声で答えると、明日樹は、不意に背伸びして、香也の頬に口をつけた。
「……信じてあげる」
 明日樹は、香也から目をそらして、自宅の方に足早に進み出した。
「うち、もうすぐそこだし、今日はここまででいいから……。
 また、明日……」
 香也が自分の頬に手をあてて呆然と立ち尽くす間に、明日樹は去っていった。




[つづき]
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