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第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(12)
「ねーねー、狩野君……」
教室にはいると、今度は牧野と矢島が近寄ってきた。
「……んー?」
香也は、「今日は、良く人に話しかけられる日だな」とか思いながら、曖昧な返事をする。
もっとも、牧野と矢島が香也に話しかけてくることは、珍しくはない。
「今度は、何を描くの?」
「いや、今度のは、そういうことじゃなくて……」
「いや、ついでに春の新番のキャラを……じゃなくて……」
牧野と矢島は、交互に香也に話しかける。
「……ええっと……。
実は、部活のことなんだけど……」
「マン研、二年生皆無だから、今の三年生が卒業しちゃうと、完全に定員割れなんだよね……」
「……そう、なの?」
香也は、首を傾げる。
マンガなんて、誰でも気軽に読むものだと、香也は認識している。少なくとも、絵を見たり描いたりする人口よりも、マンガを読んだり描いたりする人の方がよっぽど多いのではないか……と、香也は思った。
「マンガの方が、美術よりもよっぽど人集まりそうな気がするけど……」
羽生の関係で同人誌即売会の現状などについて生半可な知識がある分、香也の認識には変なバイアスがかかっている。
「いや、読む人はめちゃくちゃ多いけど、描こうという人は、滅茶苦茶少ないよぉ……」
牧野は、苦笑いを浮かべながらそんな意味のことをいって、ぶんぶんと手を顔の前で左右に振る。
「それでね、来年の新入生の入部者数は読めないから、いっそのこと、来年度から美術部に併合して貰おうかなーって……」
矢島はそういって、牧野と顔を見合わせ、「ねー」と頷きあう。
「……んー……」
香也は、二人が何故そんな話しを自分にするのかよく分からなかった。
「そういう話しは、旺杜先生とか樋口先輩とかに……」
「もう、したした」
矢島が、頷く。
「旺杜先生は、問題起こさないなら好きにしろ、だし、樋口先輩は、来年の部長は狩野君だからって……」
「で、来年の美術部長さんに、話しを通しておきたいと思ったんだけど……」
牧野が、香也の顔を覗き込んだ。
「それって……」
香也は、首を捻った。
「ぼくが絵を描く時、なにか影響あるの?」
「ない、ない」
矢島は、顔の前でぱたぱたと手を振った。
「単なる、人数合わせっていうか……。
もちろん、狩野君の邪魔をするつもりはないし、それに、必要な道具も出来るだけ自分たちで持ち込むから、部費の負担なんかも、ほとんどない筈だし……。
あっ。
絵の描き方とかは、少しは、教えて欲しいかなっ……ていう気はするけど……」
「……んー……。
分かった」
香也は、頷いた。
二人の話し聞く限り、別に面倒なことにもならないだろう……と、思えたからだ。
昼休み、香也は珍しく教室を出てパソコン実習室へ向かった。
「ゴミの投棄場所の、地図、ですか……」
実習室に用事のある楓も香也に同行していて、実習室に向かう廊下で香也に話しかけていた。
「……んー……。
そう……」
香也は、頷く。
「放課後、スケッチに回ろうと思うから……。
前は、有働さんに案内して貰ったけど、考えてみれば、地図を貰って一人で廻った方がいいかなって……」
香也の本音としては、昨日の様子を考えると、放課後の美術室もそろそろ安息の地とはいえなくなってきたので、出来るだけ一人きりになれる時間が長くなる方法を考えた末、そのような口実を思いついたわけであるが……。
「あっ。
それじゃあ、わたしもご一緒していいですか?」
香也の心境を知らない楓は、そんなことを言いはじめる。
「……そろそろ、校内で必要なシステムも、固まってきましたし……わたしの手も、空いてきているんですけど……」
「……んー……」
香也は、出来るだけ平静な声を出すように努めた。
「別に、いいから……。
ただ、スケッチして回るだけだし……危険なことが、あるわけでもないし……。
第一、ぼくがスケッチしている間、この寒い中、ぼーっと待っていてもらうだけ……っていうのも、悪いし……」
香也らしくもなく多弁になっている……という、自覚はなかった。
「……そう、ですかぁ……」
しかし楓は、香也の態度を特に怪しむことなく、残念そうなそぶりをみせながらも、素直に頷いた時、二人はパソコン実習室に到着した。
「……あっ。
斉藤さん、ゴミ投棄場所の地図、プリントアウトできますか?」
楓は、実習室の中に斉藤遥の姿をめざとくみつけて声をかける。
斉藤遥は主として放送部がらみのサイト管理を取り仕切っている、パソコン部員だった。
「あっ……楓ちゃん……。
うん。それくらい、お安いご用だけど……。
ああっ。
そっちの絵描きさんのご要望か……」
楓の背後に香也の姿を認めた斉藤は、納得した表情で頷く。
放送部と打ち合わせすることが多い斉藤は、香也が放送部の依頼で、ボランティアのポスター製作に協力していることも知っていた。
斉藤は、すぐに末端を操作し、香也のためにゴミ投棄場所の地図をプリントアウトしてくれた。
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つづき]
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