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彼女はくノ一! 第六話(14)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(14)

 六時限目の授業が終わるのと同時に、香也はそそくさと帰り支度を開始し、あたふたとわき目もふらずに教室を出ていく。香也がこの時間に一人で下校する、というのも、最近では珍しい。
 今日は、昼休み、斉藤遙がプリントアウトしてくれた地図を頼りに、以前、有働が案内してくれた以外の場所を重点的に回ってみるつもりだった。絵の参考にするため、写真などはかなりみせて貰ってはいたが、はやり、描く対象を自分自身の目で確認する事は大事だったし、それを除いても、香也自身も興味があった。たかが不法投棄の粗大ゴミに、何故ここまで興味を持てるのか、と、香也自身、不思議に思えるくらい、香也のモチベーションは高くなっている。
 地図でだいたいの方向を確認し、この時期はまだまだ日が沈むのも早いし、移動に必要な時間も考慮しなければならないから、今日一日では全部は無理かな、などと考えながら歩いていると、
「……おにーちゃんっ!」
 と、声をかけられる。
 自転車で車道を走ってきたテンが、ずさっーっ! と急ブレーキを踏んで、香也の脇で停止した。
「……みーつけたぁ!
 念のため、おにーちゃんが帰る時間、楓おねーちゃんに確認しておいてよかったよ……」
 どうやら、メールか何かで楓に香也の下校する時間を、確認しておいたらしい。
 ……一人になれないのか……と、軽い失望を覚えるのと同時に、こういう慎重な部分は、いかにもテンらしいな……と、香也は納得する。ガクやノリなら、最終下校時刻ギリギリまで香也が部活をやることが多い、ということを知っているから、確認を取るまでもなく、それを見越して迎えに来るのだろう。
「……おにーちゃん、これから、いろいろなところ、回るつもりなんでしょ?
 だから、はい。
 乗った乗ったっ!」
 そういって、テンは、ガクが再生したママチャリの荷台を掌で叩く。
「……んー……」
 香也は、冷や汗をかいた。
 これは……香也に、そこに乗れ……ということ、なのだろうな……。
「でも……二人乗りは、禁止だし……」
「それは、普通の人の話しでしょ?
 ボクの場合、そこいらの原チャリくらいの出力があるし、全然、大丈夫だよ。小回りも利くし、細かい裏道も知っているから白バイくらい軽く振り切れるし……」
 そういう問題ではない、と、香也は心中でつっこみをいれた。
「……はいはい、時間がもったいないでしょっ!
 早く乗って、おにーちゃんっ!
 荷物とかスケッチブックは、前のかごにいれておくねっ!」
 それでも、何気に強引なテンに押し切られる形で、香也はママチャリの後部荷台に腰掛けるのだった。
 テンは、香也の手からプリントアウトの地図をもぎ取って一瞥し、すぐに香也の手に返した。
「……この、一番近いところから順番に回る感じで、いいねっ!
 じゃあ、おにーちゃん、振り落とされないようにしっかりしがみついていてよっ!
 いっきまーっすっ!」
 などと宣言すると同時に、びゅん、と周囲の風景が後ろに流れる。
 強烈なGを感じ、このままでは誇張でもなんでもなく「振り落とされ」かねない、と感じた香也は、生存本能に従って、テンの小さな背中にしがみつく。
 ママチャリに法定速度というものが適用されるのかどうか、香也にはよくわからなかったが、車両用の制限速度は遙かに超越していることは、直感的に理解できた。
 そもそも……自転車って、こんなにスピードがでるものだったのだろうか? 香也の体感では、真理の運転する車や、羽生のバイクに乗った時よりも、よっぽど早く感じる……。
 反射的に喉から漏らしかけた悲鳴を、香也はあやういところで飲み込む。
 スピードを出している割に、周囲の車両にクラクションをならされたり、といった混乱は、不思議となかった。スピードこそ滅茶苦茶早いものの、他の車の進路妨害とかはしていないし、信号に引っかかれば素直に停車する。信号待ちの時に、通りすがり歩行者にじろじろみられる、という弊害こそあったが、しっかりとテンの背中にしがみついて振り落とされないよう、気をつけていさえすれば、なかなか快適な乗り心地であった。
 小さな子供が乗るママチャリの後部座席に、年齢の割には長身の、制服姿の香也がしがみつくように、乗っているわけで……せめて、前と後の組み合わせが逆だったら、そんなに注目をあびることもなかったのだろうが……テンは、信号待ちの間、目を見開いてこっちを凝視している通行人のひとたち……この時間帯だから、おおかたは、買い物にでる途中のおばさんたちだった……に、脳天気な笑顔でピースサインを送ったりしている。
 そして、信号が青に変わると、再び、ペダルを踏み、びゅう、ともの凄い勢いでダッシュして、無関係な通行人のみなさんを、驚かせるのであった。

「……とうちゃーっくっ!」
 五分もかからずに最初の目的地についた時、ママチャリを漕いでいたテンよりも、後ろに乗っているだけだった香也の方が、むしろ汗だくになっていた。もっとも、汗は汗でも、この時香也がかいていたのは、緊張による冷や汗に近かったが……。
「……んー……」
 ぎくしゃくとした足取りでぴょこんとママチャリの荷台から降りた香也は、しばらく額の汗を掌で拭いながら、深呼吸を繰り返していた。
 ……いろいろな意味で……貴重な経験だった……と、香也は思う。
 しかし、しばらく休んで呼吸を整えなければ、落ち着いて絵を描けそうにもなかった。
「……あ、ありがとう……」
 息を整えながら、香也は、テンの頭を撫でてお礼をいう。
 緊張のあまり膝ががくがくしていて、ろくに歩くことが出来ないのを、テンに悟られたくなかった。
 テンの頭を撫でながら、周囲を見渡して、肝心の目的であるゴミの状態をざっと観察する。以前、有働に案内してもらった場所よりは、よっぽど狭い。狭い……というより、工場と工場の間の狭い隘路がゴミで埋めつくされている感じで、見通しが全くきかない。
 そんなこともあって、以前の時には、有働はここを省略したのだろう。確かに、見栄えがしない……というより、狭い入り口がゴミで埋まっているところしか、確認できない場所、ではあるのだ。
 香也は、ポケットから折り畳んだ地図を取り出して、確認する。
「……んー……」
 地図に記されたマーキングによると、この先、百メートル以上にわたって、狭い隘路を、ゴミが塞いでいることになっている。
「……なに、おにーちゃん……。
 ここの全体像が、みたいの?」
 テンが、香也の手元を確認して、質問した。
「……そんなの、簡単だよ。
 ほら、ちゃんとスケッチブック持ってて……しがみついていてね」
 テンは、香也が反応する隙も与えず、香也にスケッチブックを持たせ、香也の両腕を自分の首に回し、「……よいしょ……」と軽く声をかけて、香也の両腿をがっちり掴んで持ち上げた。
 テンにいきなり背負われた香也は、慌ててテンの首にしがみつく。
「……ええっと……あそこが、見晴らしがいいかな……」
 しばらく周囲を見回したテンは、きなり走り出し、再び、周囲の風景が、びゅん、と音をたてて背後にすぎさった。
 自転車の後ろに乗った時に比ではない、高速での移動だった。
 香也が悲鳴を上げる間もなく、今度は、テンは、垂直に昇りはじめる。
 気づくと、テンは、香也を背負ったまま、近くの倉庫の雨どいを手で掴んで、するすると昇りはじめていた。

「……ほらっ。
 ここだと、あそこ、全部みえるでしょ……」
 ようやく、テンの背中から降ろされる。
 確かに、そこからなら、ゴミで埋まった隘路がすべて見渡すことができた。
 テンに降ろされたそこは、隘路の正面に位置していた倉庫の、屋上だった。




[つづき]
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