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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(272)

第六章 「血と技」(272)

 酒見姉妹は、さきほどから戸惑っていた。
 荒野が話す内容は……理解できない、というわけでもないのだが……酒見たちにとっては、ひどく「遠い」内容に思えた。生え抜きの一族である酒見姉妹は、物心ついてからこれまでのほとんどの時間を「仕事」をして過ごしている。現場レベルでの判断力こそあれ、あまりマクロな視点で物事を見たり考えたりすることに慣れていない。
 そこで二人は、荒野の話しが一段落したところで、戸惑った顔をして顔を見合わせ、茅の方に振り返った。
「荒野……。
 ……いっていることは、間違ってはいないと思うの。
 でも、先走り、しすぎ……」
 茅は、酒見姉妹が自分の方に顔を向けたことに気づくと、軽く手をあげて合図し、荒野に話しかける。
「……わたしたちは……まだ、幼くて、未熟なの」
「そう……だな」
 茅の言葉に、荒野も、頷く。
「おれたちは……まだまだ未熟で、無知だ……。
 何も知らないし、出来ることに限界がありするぎる」
 ……荒野と茅にこんな会話をされてしまったら……自分たちは、どんな顔をすればいいのだろう……と、酒見姉妹は思う。
 酒見姉妹の困惑に気づいたのか、すぐに荒野が大きく延びをしながら、
「……まあ、今すぐ解決できる問題ではないし、少し気を長くして取り組んでいくさ……」
 と、いったのを機に、その日はお開きとなり、酒見姉妹はマンションを辞した。

 酒見姉妹が玄関から出て行くを見送ると、茅は荒野にぴとっと寄りかかって、抱きついてきた。
「……な、なに?」
 荒野が、震える声で尋ねる。
「今日は金曜の夜……週末なの……」
 茅は、荒野の胴体に腕を回して、脇腹あたりにすりすりと顔を押しつける。
「……他の女とやった時は、二倍から三倍の法則なの……」
「お、おーい……。
 茅……さん……」
 荒野は今週、「茅以外の女性と関係した回数」を思い返して、顔から血の気が引いた。
 何せ、わずか数日前に、茅、シルヴィ、酒見姉妹と一晩中交わっている。誰と何回交わったのか、なんてことは、荒野自身でさえ記憶していないような乱交状態だった。いや。完璧な記憶力を持つ茅なら、「正確に」カウントしているのだろうが……その倍とか三倍、茅とナニをやれ、といわれたら……いくら超人的な体力を持つ若い荒野とて、二の足を踏む。
「……荒野の、匂い……」
 しかし茅は、荒野の話しを聞いている様子はない。
 ぎゅっと荒野の胴体に腕を回しながら、すりすりと顔を荒野の脇の下あたりに押しつけて陶酔した表情をしている。
「……な、何かの中毒か……」
「茅は……荒野中毒なの……」
 そんなことをいいながら、茅は荒野の身体に抱きついたままメイド服のスカートが捲りあがるのも構わず、両脚まで荒野の胴体に廻し、ずりずり尺取り虫よろしく、荒野の身体をはい上がっていく。
 荒野は、茅に抱きすくめられて身動きが取れないのと、茅を乱暴に振り払うことに抵抗もあって、抵抗らしい抵抗もせず、茅がしたいようにさせておいた。
 正面から抱きついてきた茅はずりずりと荒野の胴体を這いあがり、荒野の肩の上に腕を回したところで長々と舌を絡めた口づけを交わす。
 それから荒野は、
「風呂にいくか? それともベッドの方?」
 と、聞いた。
 経験上、こうなった茅は、一度欲求を発散させておかないと、こちらのいうことに耳を貸さない、ということも学習しているし、何より、荒野にだって茅を求める気持ちはある。
 それに、バレンタインの時、大量のチョコレートを持ち帰っている、という引け目もあった。
「……ベッドの、方……」
 茅は、早くも頬を上気させ、潤んだ瞳で荒野を見上げながら、答える。
「荒野の汗の匂い……感じたい……」
 そういって茅は、また、荒野の口唇を塞ぎにかかる。
 ……茅……本当に、中毒に近いんじゃないだろうか……と、荒野は少し心配になった。
 単なるフェティシズム、だとは思うが……。
 荒野は、茅を首にぶら下げたまま、玄関から寝室にしている部屋に移動する。茅の重量はさして気にならなかったが、茅は口を離そうとしないので正面への視界が遮られた形になり、慎重な足取りでゆっくりと移動しなければならなかった。
 ようやくベッドのある部屋まで移動し、ベッドの上に茅の身体を降ろす。
 ベッドの上に寝そべっても、茅は荒野の首から腕を放そうとはしなかった。荒野も、茅とキスをするのは好きな方なので、したいようにさせておいた。
 この状態で困るのは、茅が抱きついて離れないので、茅の衣服を脱がすことができないことだ。
 茅は、そんな荒野の困惑にもかかわらず、下から荒野に抱きついた状態のまま、手探りで荒野のベルトを外しにかかる。
 ベルトを緩めた状態で荒野の股間に手を差し込み、ようやく口を離して、
「……もう、元気……」
 と一言、荒野の耳元で囁いて、今度は荒野の耳を甘噛みしはじめた。そのままの体勢で、腰に廻した脚で、ベルトを緩めておいた荒野のコットンパンツを下にずらしていく。同時に、茅は、ベッドについて二人分の体重を支えていた荒野の手首を掴み、それを横に払って、荒野の身体が茅の上に覆い被さるように、しむけた。
 密着したまま、荒野と茅は、ベッドの上に重なりあう。
 荒野は、下半身だけ下着のまま、という間の抜けた姿のままで、茅にむしゃぶりついた。
 茅は、荒野の身体に両腕を回して背中をまさぐり、同時に、両脚を回して自分の股間を荒野の硬直した部分に擦りつける。
 コットンパンツを下にずらしたのと同じ要領で、茅は荒野の下着も足元にずらし、その後、荒野の手を捲れあがった自分のスカートの中に導いて、自分の下着をはぎ取るよう、無言のまま荒野に指示をした。
 荒野が、茅に導かれるままに茅の下着に手をかけると、茅は腰を浮かせて荒野の動きを助ける。
 そして、再び両脚を荒野の腰に絡め、剥き出しになった自分の下半身を、荒野の股間に密着させた。





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