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彼女はくノ一! 第六話(19)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(19)

 羽生、香也、孫子が外に出てからしばらくして、茅と飯島舞花が玄関先に現れた。
「今、先生が車出してくれるって……」
 挨拶もそこそこに、舞花がみんなにそう告げる。
 真理も、車庫に向かった。
「……結局、何人になりそうなんですか?」
 楓が、舞花に尋ねた。
「……うーん、全部で、何人だろ?
 柏も来るっていってたし……柏本人よりも、柏のおねーさんのが張り切っている感じだったな……」
 舞花は、楓の問いにそう答える。
「……はーい!」
 レインコート姿のシルヴィが、狩野家の玄関に姿を現した。その後ろから、柏あんながよろよろとした足取りで現れる。
「……どーした、柏……」
 舞花が、青白い顔をしているあんなを、不審そうな表情でみつめる。
「……お、おねーちゃんが……」
 柏あんなは、震える声でそう答えると、その場にへなへなと膝をついてうずくまった。そんなあんなの後ろから、若干よろめきつつ、白い犬がよたよたと歩いていく。
「あれ?
 呼嵐……静流さんの、犬だ……」
「……犬は……人間よりも、三半器官がするどいから、よけいに……」
 柏あんなは、涙目になりながら、呼嵐の背中をゆっくりと撫でる。
「わたし……もう、おねーちゃんの運転する車に、乗りたくない……」
 舞花と楓は、顔を見合わせた。
「……えーと……」
 舞花は、こめかみのあたりを指でかきつつ、あんなに確認する。
「柏のおねーさん……千鶴さんが、車をだしてくれた。
 で、この犬と柏は、この有様になって……って、ことで、OK?」
 あんなは、目尻に涙をためながら、ぶんぶんと頷く。
「……静流さんは、助手席に座って平然としてたけど……」
 舞花と楓は、みたび、顔を見合わせる。
 舞花は、軽く咳払いをした後、テン、ガク、ノリの三人にいった。
「あー。君たち。
 千鶴さんの車に乗ると、他では体験のできないスリルを味わうことができるそうだよ。
 ……挑戦してみないか?」
 三人娘は、むしろ喜び勇んで、千鶴が運転する自家用車の後部座席に乗り込んでいった。
「……柏と犬君は、先生の車でいいな?
 あの先生、運転だけは慎重だから……」
 続けて、舞花はそう確認する。
「もう、なんでも……他の誰でも、おねーちゃんの運転よりは、ずっとましだと思う……」
 口を押さえながら、青白い顔をしたあんなは、そういった。呼嵐が、同情するかのように、あんなの手の甲を舐める。
「じゃあ……ヴィも、センセイの車の助手席にいくね……」
 シルヴィはそういって、そそくさと出ていった。
 その後を、柏あんなと呼嵐がよたよたと追っていく。
「残りは、真理さんの運転か……」
 舞花は、そう呟いた後、楓に尋ねた。
「真理さんの運転、どうなの?」
「どう、って……。
 ごく、普通だと、思いますけど……」
 楓としては、そう答えるよりほか、ない。
 少なくとも、さっきの柏あんなのように、同乗者の顔色をなくすような運転では、なかった筈だ……。
「……後、何人、くるの?」
 舞花は、話題を変えた。
「あと、わかっているのは、酒見の双子なの」
 今度は、茅が答える。
「一般人の……普通のファッションセンスを知りたいって……」
「……おはよーっすっ!」
 茅がそう答えた時、元気のいい挨拶をして、予期せぬ人物が入ってきた。
「……佐久間の、梢さん……でしたっけ?」
 楓が、不意の乱入者に向かって、声をかける。
「現象の見張りは、いいんですか?」
「……あっちは、舎人さんと平三さんがみてます。
 ってか、二人つきっきりで、現象を鍛えなおしてます」
 梢が、元気よく答える。
「この間の朝、こてんぱんにのされたのが堪えたみたいで……あれからずっと、筋トレや型の反復訓練、日長一日、夢中でやってますよ」
 つまり、現象がそっちにかまけている間は、梢も監視役としては完全に手が空くのであった。
「……それで、便乗、ですか……」
 楓が、不審な声を出す。
 楓としては、得体の知れない佐久間の一員である梢を、すぐには信用できそうにない。楓にとっては、現象の印象が強いので、「佐久間」全体の印象も、あまり芳しいものではなかった。
「そうっす!
 着替え、あんまり用意してないんで……」
 梢は、元気よく答えて、片手をあげた。
 楓が、ちらりと茅に視線をむけると、茅は、かすかに頷いた。
「大丈夫だと思うの」
 茅は、そうはっきりと口に出した。
「何か仕掛けてくるつもりなら、わざわざ姿を現しはしないだろうし……それに、これから佐久間の技を習うのだから、ある程度親しくしておいた方が、やりやすいの……」
「……さっすがは、加納の姫様っ!
 わかっていらっしゃるっ!」
 梢は、今度は茅のことを持ち上げはじめた。

 その後に来た、酒見姉妹と茅、楓、舞花、佐久間梢が真理の運転するワゴン車に乗り込み、毎度おなじみのショッピング・センターに向かう。
 あそこに行けば、たいていのものは揃うのであった。
「……うわぁ……」
「すげ……」
 真理の運転する車に乗った連中は、千鶴の運転を目の当たりにして、絶句した。
「……今の……なんで、あんなところでブレーキ踏むんだ……」
「あ。エンストした……」
「わ。信号無視してつっきった……」
「いや、そっちは一方通行……逆走しちゃ、だめだって……」
 目撃者の意見を総合すると、「千鶴が免許を持っているのは、おかしい」、「柏あんなの反応が、よく理解できた」というあたりに、まとまる。
「……あれで、事故起こさないなんて……。
 一般人って、奥が深い……」
 梢が、妙な感心の仕方をしてみせた。
「いや……後ろに乗っている三人は……なんか、楽しそうだし……」
 舞花の指摘する通り、千鶴の車に乗り込んだテン、ガク、ノリの三人娘は、千鶴のスリルに満ちた運転を、明らかに楽しんではしゃいでいる様にみえた。
「……おそらく……ジェットコースターとか、そういうのに乗っているつもりなんだと、思います……」
 楓が、三人の心理を考察する。
 茅と真理は、賢明にもノーコメントで通した。
 酒見姉妹は、ただただ、目を丸くしていた。




[つづき]
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