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彼女はくノ一! 第六話(20)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(20)

 香也は久々に、誰にも邪魔をされずに、長時間、絵に取り組むことができた。こういうときの香也は、時間の経過を忘れがちであり、朝から雨が降って外が薄暗いということもあって、この日も見事に時間の経過を忘れ、朝から日が暮れてバイト先から戻った羽生がお越しに来るまで、何度かトイレに立った以外は、ずっとキャンバスに向かって過ごした。

 バイト先から戻った羽生は、母屋の灯りがついていないことを確認すると、すぐに庭のプレハブに向かう。
 このような時、香也がどういう風になっているのか、経験上、羽生には容易に予測がついた。
 案の定、羽生がプレハブの中に入っても、香也は身じろぎもせずに絵筆を走らせている。羽生がプレハブに入る時に、多少なりとも物音がしている筈であったが、絵に集中している香也の耳には、入らないようであった。
「……おーい、こーちゃん……」
 羽生は、香也の肩に手を置いて、少し力を入れてゆさぶった。
「また、朝からこんな調子かぁ……」
「……んー……」
 香也は、のろのろと顔をあげ、羽生をみあげた。
「……そう。
 朝から、ずっと……」
 最近では、休日でも家に誰かしらがいるので、食事の時間になれば呼びに来て貰える。が、以前は、真理が比較的放任な教育方針を持っていることもあるって、香也が文字通り「寝食を忘れて」、体力が続く限り絵に没頭していることも、珍しいことではなかった。
 香也は明らかに憔悴した顔をしていたが、本人は、あまり疲労を自覚してはいないらしい。
「……その調子だと……メールも、チェックしてないだろ……。
 みんな遅くなるようだから、お風呂沸かしておいてって、メールしてたんだけど……」
「……んー……。
 メールも、見てない……」
 香也はそういって、袖机の上に起きっぱなしにしていた携帯を緩慢な動作で手にとって、チェックする。
香也が着信に気づかなかっただけで、十通以上のメールが未読のまま、貯まっていた。
 羽生はそっとため息をついて、香也の頭の上に掌をおいて髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した。
「ま。
 朝からずっとやっているんなら、そろそろ休憩しないと、後に差し障りがでるから……少し片づけて、一度母屋に戻る。
 なんか、簡単に食べられるもん、用意するから……」
 羽生はそういうと、香也は素直に、
「……んー……。
 わかった……」
 と頷いて、のろのろとした動作で画材の片づけをはじめた。
 やはり、香也は……羽生にとっては、手のかかる、頼りない弟のような存在だった。

 香也が片づけをしている間に、一足早く母屋に戻った羽生はまず風呂場にいき、濡れたジーパンと靴下を洗濯機に放り込んで、風呂窯に火をいれ、自室に戻り、ダウンジャケットを脱いでどてらを羽織り、スウェットの下を穿いてから台所に行き、冷凍庫に一膳分づつラップに包んで小分けして冷凍してあるご飯を電子レンジに放り込み、薬缶に水を入れて火にかけた。
 香也が居間に入った頃にはお湯が沸いていたので、急須にお茶を用意し、暖めたご飯と香の物を盆に乗せて炬燵の上に乗せる。
「すぐ、晩ご飯の用意すっから、とりあえず、お茶漬けでな……」
 と香也にいい、羽生は、茶碗に盛ったご飯の上に香の物を乗せ、その上にお茶をかけて、箸とともに香也の前に差し出す。
 長時間、何も食べていない筈だから、今の香也の胃は収縮している筈であり、まずはこの程度の軽い食事でちょうどいい筈だった。
 羽生は、香也にお茶漬けを用意するとすぐに台所にとって返し、米を研ぎはじめる。その時、羽生の携帯に、真理から「こちらに向かっている」、というメールが着信した。
 真理さんのことだから、この時間に帰るとなると、出来合いの総菜を買ってくることも十分に考えられるし、ご飯を多めに炊いて味噌汁さえ用意しておけば、あとはどうにでもなるか……と、羽生は思った。

 羽生が冷蔵庫にあった有り合わせの食材で味噌汁を作っていると、孫子が帰宅する。
 孫子は一度、居間にで、香也が一人きりでいるのを認めると、素早く香也の頬にキスをしてから自室に戻り、手早く着替えて台所に出て、羽生を手伝いはじめた。

 そうこうするうちに、どやどやと真理、楓、テン、ガク、ノリ、飯島舞花、三島、シルヴィ、野呂静流、佐久間梢らが帰宅し、一気に賑やかになる。
 柏姉妹も一緒だったというが、彼女たちはそのまま自宅に帰り、同じく一緒だった酒見姉妹は、茅と一緒に、荒野たちのマンションに向かった、という。
「なんだか、徳川のところの浅黄ちゃんが、おにーさんのところに泊まりにきているっていってたな……」
 とは、飯島舞花の弁であった。

 帰宅した人たちの間では、柏千鶴の運転技術が大きな話題として取り上げられていたが、その話しを聞いた羽生は、
「ち、ちづちゃんに、運転させたのか……」
 と、しばし、絶句していた。
 柏千鶴と羽生の関係は数年前にさかのぼり、羽生は、千鶴の運転技術のすさまじさについても、当然、知識があった。
「もう、みんな可愛くてねー……。
 いっぱい、買っちゃった……」
 三島や羽生とともに料理をしながら、真理は、買い物の時の様子を実に克明に説明してみせた。楓や、テン、ガク、ノリも、孫子経由でお金を稼ぐための手段を獲得した、と聞いて、真理の歯止めが若干ゆるくなった、と三島が説明する。
 大方、真理と千鶴がきゃーきゃいいながらどか買いするのを、周りの皆が止めに入る……と様子を、羽生はありありと想像できた。 
「……特にあの三人は、才賀の話しに多少誇張が入っていたとしても、かなりの金額、受け取ることになるらしいしな……」
 と、三島はいう。
「……そんなもんすか……」
 羽生は手を動かしながら、生返事をした。羽生には、あまり実感が沸かない世界だった。
「大小あわせて、今では、相当な数のソフトを開発しているらしいな、あの三人……。
 それを、才賀が世界中に売りつけてるって話しだ。
 あの三人ほどではないにせよ、楓も、大きなシステム丸ごと任されているとかで、結構なギャラを貰うって話しだぞ……」
 そのようなことで三島が嘘をついても、何の得もないので、おそらく本当のことなのだろうな……と、ぼんやりと羽生は思う。
 楓たちがしっかりとした収入源を確保したことで、真理の歯止めが利きにくくなった、ということは、十分に考えられた。




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