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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(283)

第六章 「血と技」(283)

 その後、茅はようやくパジャマを着替えてみんなの分の紅茶をいれてまわり、その間にも、浅黄とテン、ガク、ノリの三人が、おしゃべりしながら賑やかな朝食を開始した。茅は、メイド服を少し汚しすぎたばかりだったので、この時ばかりは普段着だった。
 茅がみんなの分の紅茶を入れ終え、テーブルにつくと、すかさず、テン、ガク、ノリの三人が、「シルバーガールズ」の打ち合わせにかかる。酒見姉妹も興味があるのか、四人の打ち合わせに時折口を挟んだり、質問したりしている。浅黄は、やはり普段と違う雰囲気に興奮するのか、みんなが話す内容を理解しているとも思えないのだが、たまに奇声を発したり、笑え声を上げたりしながら、食事を続けている。茅や酒見姉妹が交代で、浅黄が口からこぼした食べ物を始末したり、口の周りを拭いたりして面倒を見ていた。
 荒野は、シルバーガールズとかそちらの方面の話題にはあまり興味はなく、さらにいえば、積極的に関わるつもりも微塵もなく、さらにさらにぶっちゃけたことをいえば、出来るだけ関わり合いになりたくはなかったので、その話し合いの詳しい内容については、あえて聞き流すことにして、素知らぬ顔を決め込んだ。
 結果、荒野は、みんながわいわいと食事をしている間、ソファに腰掛けて紅茶を啜りながら、一人でまったりとしている。
 ……平和だな、と、荒野は思った。思った途端、携帯から、呼び出し音が鳴った。
 手にとって液晶を確認すると、シルヴィの携帯からだった。
「はろー。こちら、荒野だけど……」
 シルヴィの機嫌を損ねると、後のしっぺ返しが怖い……ということが身に染みついている荒野は、即座に電話にでる。
『コウ?
 よかった、起きてた。
 今からそっちにいくから。お茶くらい飲ませて』
 電話越しに、シルヴィが、早口にまくし立てる。
「……お茶くらい、構わないけど……。
 今から? 何か急用?」
 不審を覚えた荒野は、そう尋ね返す。
 約束もないのに、日曜の朝から来訪……というのは、シルヴィの性格を考えれば、かなり異例のことといっていい。
『別に、格別報告が必要なイベントは、何も起きていないわ。
 強いていえば……昨日、そっちのお隣りに、泊まっちゃったのよね』
 シルヴィの声は、苦笑いを含んでいた。
『一晩、明かした上、これ以上長居するのも何だし……。
 で、帰る前に、ついでにそっちに寄って、一息つければなぁ、っと思っただけ……。
 あ、あと、シズルもいるけど……それくらい、構わないわよね?』
「ああ。もちろん……」
 そういうことか、と、荒野は納得する。
「あ。二人とも、朝は、もう済んだの?」
『Yes』
 シルヴィは、短く答えた。
『センセイも、いるのよ。
 純日本風のhomemade breakfast、おいしくいただきました。オミソシルがおいしかった……』
 などという問答をした後、通話を切る。
 その後、荒野は茅に向き直って、
「……これから、ヴィと静流さんと先生が、こっちくるって。
 特に用事があるわけではないけど、お茶をご所望だそうだ……」
 と、告げた。
 酒見姉妹が新しくたっぷりとお湯を沸かしはじめ、ぼちぼち朝食を食べ終わったテン、ガク、ノリの三人が、皿をシンクに下げたり、食器を洗ったりしはじめた。何もいわずとも自然に動き出すあたり、この三人も、お隣り狩野家で、いい躾のされ方をしているようだな……と、荒野は思う。孫子や楓もに対してもごく普通に接している真理や羽生の性格を考えれば当然なのかも知れないが、こういう三人だからといっても、あの家の人たちは別段構えることなく、自然体で接しており、その成果がこういうところにも現れている、と。
 学校でも、同様のことがいえるが……総じて、こと、人……には、かなり恵まれているよな、おれたち……と、荒野は思い、それから……でも、そのことに甘え過ぎては駄目だ、とも思い直す。
 気づけば……孫子や楓、テン、ガク、ノリ……それに、茅までもが、各自の方法で、地域社会やら学校やらにコミットし、溶け込もうと動きはじめていた。
 対一族的な要件、あるいは、悪餓鬼対策のため、突発的に時間を取られる身である……という理由はあるにしても、実のところ、荒野自身が、この辺の努力を、一番していない……。
 荒野は、ティーカップに半分ほど残った紅茶に眼を落としつつ、そんなことを考えているうちに、シルヴィ、三島、静流の三人が尋ねてくる。

 インターフォンが鳴った時、出迎えに動いたのは、茅だった。茅は、ちょうど、浅黄を着替えさせ終えたところだった。浅黄も、茅の後をちょこちょことついて玄関まで歩いて行く。
 茅と浅黄に招きいれられて、シルヴィ、三島、静流が入ってきた。
 人数が多すぎてテーブルやソファに座りきれないので、荒野は隣の部屋からクッションや座布団代わりになりそうなものを片っ端から持ち出して、椅子やクッションに座りきれない人たちに配った。茅は、新しいお客さんたちに紅茶をいれた後、テーブルの上にノートパソコンを出し、徳川のサーバ内に置いてある動画にアクセスし、それを見ながら、テン、ガク、ノリの三人と本格的に「シルバーガールズ」の打ち合わせをはじめた。ルーズリーフも広げ、メモをとりながら、どの動画をどういう風につなげる、とか、とか、シリーズ構成や世界観がどうのこうの、とか、荒野には内容を追い切れないディープな打ち合わせだった。
 良くしたもので、三島もソッチ方面の素養を持っていたので、時折口を挟んだりしていた。
 シルヴィと静流は、床の上に直接クッションを置き、それに座りながら、二人で浅黄の相手をしていた。
 好奇心が強い浅黄は、シルヴィの髪を弄ったり静流のサングラスを取り上げたりして遊んでいる。シルヴィや静流も、浅黄に好きなようにさせて、うまい具合にあやしていた。浅黄は、興味をそそられる対象に対しては、物怖じせずに手を出してみるタイプらしい。こういうところは、浅黄のおじに当たる徳朗と似ているのかな……とか、荒野は思う。
 酒見姉妹は、静流やシルヴィのいる場では寛ぐことに抵抗があるのか、二人して壁際に突っ立っていた。一応、六主家の血は引くものの、本家の筋とはお世辞にもいうことができないこの二人は、他の平均的な一族の者と同じく、能力や血筋的なヒエラルキーに対して敏感すぎるところがある。
 荒野にしてみれば、「……そんなに、ビクビクしなくてもいいだろうに……」ということになるのだが……加納本家直系である荒野が何をいっても、かえって逆効果になりそうな気がして、あえて放置しておくことにした。

 ……まあ……平和な休日、だよな……と、荒野は思う。




[つづき]
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