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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(284)

第六章 「血と技」(284)

「……で、お前らまでうちにメシを食いに来たのか?」
「まさか」
 荒野たちのマンションの玄関先で、飯島舞花は、顔の前で掌をぱたぱたと振った。
「茅ちゃんに呼ばれたんだ。特撮物を作るからよっといで、って……」
 それから舞花は、まじまじと荒野の顔を見つめる。
「おにーさん……顔に、お前もか、って書いてるぞ……」
「……実に、的確な洞察力だ」
 荒野は頷いて、舞花を招き入れた。
「まあ、入れ……。
 おーい、茅ぁ……。
 ヒーローオタク、もう一人追加だぁ……」

「……で、どういうコンセプトなの?
 三人ってことは、戦隊物なんだろうけど……」
 テーブルについた飯島舞花が、早速、紅茶をいれてくれた茅に向かって、尋ねる。
「最初から、主人公たちが、みんな同じ目的を持っているのもつまらないから……」
 茅が、ノートパソコンを操作して、「シルバーガールズ」のスナップを舞花に示しながら、説明をしはじめた。
「……全員に、別々の物語を用意するの。
 バラバラの目的、バラバラの敵……それに、変身する理由も、バラバラなの」
「それは……」
 舞花は軽く眉間に皺を寄せた。
「話しが……複雑に、なりすぎないか?
 あの手のものは、シンプルさが肝心だぞ……」
「複雑な話しを、シンプルに見せるの」
 茅はそういって、頷いてみせた。
「媒体がテレビではないから、想定するユーザー層も微妙に異なってくるし……それに、最初はネットで無制限に配信することが前提だといっても、リピーターを作るだけのクオリティにしないと、意味はないの。繰り返し見ることができる、複雑な要素も付け加えなければ、コンテンツにお金を払ってはくれる人はいないの」
「そっか……ボランティアの、資金源にするんだけっけ……」
 舞花が、思い出したかのように、いう。
「でも、テレビのこの手の番組は、たいてい子供向けのオモチャを売るためのものなんだけど……」
「テレビとネットでは、視聴者数が違うから……それに、世界中の人が見るし……オモチャを売るとなると、製造ラインや販売網の整備とか、準備が大変だし……それに、関連グッズについては、デザインに協力してくれた人たちのバーター取引があるから、こちらは手を出さない方がいいの……」
「……って、ことは……やっぱり、コンテンツ自体を、売らないと駄目なのか……」
 舞花が、少し考え込むポーズを取った。
「……これ、経費ってどれくらいかかっているの?」
「今のところ、ほとんど、ゼロに近いの」
 茅は説明した。
「シルバーガールズの装備は、実用品だし、カメラや撮影に必要な機材、それに、映像処理に必要なマシンは、徳川持ち……人件費は、全部ボランティアか条件付のバーター取引……」
「うーん……実際には、タダってことはないけど、現金は動いていないってことか……」
 舞花は、納得した顔で、頷く。
「シルバーガールズの装備とか、撮影に必要な費用は、あとでボクたちが精算しても……」
 テンが、いいかけると、
「それでは、駄目なの」
 ぴしゃり、と、茅が遮る。
「人件費は、有志の協力に頼っても良いけど……それ以外の諸経費をペイして、それ以上の純益をあげないと、意味がないの」
「そうすると、ますます、面白いものを作らなくちゃね」
 そういって、舞花は、笑った。
「熱心なファンがでたり、何度も見返したくなるような内容に、しなければいけない……」
「そう」
 茅は、頷く。
「子供がみても飽きない表層的な部分と、大人が繰り返しみたくなるような、奥深い部分を、共存させるの……」
「それで……三人の主人公、それぞれに、別の物語を用意する、と……」
 舞花も、頷いて、ついで、当然の質問を発した。
「で、肝心の脚本……誰が書くの?」
 茅は、黙って、片手をあげた。
「……いわれてみれば、適役だな……」
 再度、舞花は、頷く。
「そんで、わたしは……何を協力すれば、いいのかな?
 この子たちがいるんなら、アクション方面では協力できる場面もないと思うけど……」
 といって、舞花は、ちらりと荒野に向かって意味ありげな視線を走らせた。
「伝統的ヒーロー成分の、補充なの」
 茅は、答えた。
「飯島は、古い特撮をよく観ている。
 企画とか脚本の段階で意見をだしてくれる監修役には、ちょうどいいの……」
「……ああ。
 そういや、前に、そんな話しもちらりとしたことあったっけ……。
 確かにわたし、昔っから親が留守がちだったもんで、ケーブルテレビでやってる昔の特撮物は、随分観ているけど……。
 でも、そんな素人の言い分、役に立つのかなぁ……」
「参考意見だけ、くれればいいの」
 軽く首を捻った舞花に、茅は、自信がありそうな様子で答えてみせる。
「細かいところは、茅たちがやるから……」
「……確かに……ついこの間、ゼロからはじめて……ここまで作っちゃうっていうのは、凄いけど……」
 舞花は、ノートパソコンの画面を見つめながら、そういう。
 ノートパソコンには、いかにも着ぐるみ然とした敵のクリーチャーと戦うシルバーガールの動画が、大写しになっていた。
「……これ、着ぐるみまで、全部、作ったの?」




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