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彼女はくノ一! 第六話(26)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(26)

「お盛んというか、騒がしいというべきか……」
 香也は、その朝、三島と顔を合わせるのと同時に、挨拶も抜きにしてそういわれた。
「……相変わらず、この家は、お約束に忠実だなあ……。
 お前さん、朝のこんな騒ぎを、もう何回繰り返した?」
 そういう三島は、にやにや笑いを浮かべていた。
「……んー……」
 香也が返答に困っていると、苦笑いをしながら、羽生が助け船を出す。
「センセ、それ、シャレにならんから……。
 いやー……。
 ラブコメってか、お約束なエロコメってか、ともかくもそういうの身内でやられると、ここまで心臓に悪いとは思わなかったわ、わたしも……」
 その口調は苦笑いを含んでいたが、羽生の表情はどこか辟易した風でもある。
 ……パジャマ姿の香也は、さらに返答とリアクションに詰まった。
「……ほら、こーちゃん。
 もうご飯、できているし、早く顔をあらっていらっしゃい……」
 台所から、顔だけをだし、真理がそう告げる。
 香也は、内心「……助かった」とか思いながら、「……んー……」と返答して、洗面所に向かった。
「……こっちも、相変わらず良くできた御母堂だ……」
 香也は洗面所に歩いていく背中で、三島のそういう声を聞いてた。

「……ど、どうも……おはようございます……」
「……んー……」
 洗面所に行くと、見覚えのない美女とばったり出くわし、香也は、当惑した。一見、当惑しているようには見えないのだが、これで香也は当惑している。
 一瞬、その女性が誰だか分からなかった……ということもあるのだが、洗面所の出入り口のところで立ちつくしていたその女性は、香也の鼻先からわずか数センチ、という至近距離で顔を見合わせても、瞬きもせず、香也の顔をじっとみている。
 目が、大きい。黒目がちで、肌は抜けるように白い。茅ほど長くはないが、さらさらのストレートヘアで……
「ど、どうも……」
 香也も、相手につられてどもりながら、挨拶を返し、脇にどいて道を譲った。
「い、いいのです……」
 その女性は、大きなサングラスをかけながら、香也の脇を通って居間の方に行く。
 すれ違い様に、ふと、その女性の体臭をかいでしまい、香也は少しどきりとした。
 ……あっ。
 と、香也は、思った。
 今まで、サングラスの印象ばかりが大きくて、素顔を見たことがなかったから、咄嗟には誰だか分からなかったが……その女性は、野呂静流だった。
「……こ、う、や、さ、まぁ……」
 その時、いきなり背中から、かなーり逼迫した感じの声をかけられて、香也はぎくりと背中をこわばらせ、ぎこちない様子で、顔だけを後に向ける。
 タオルを手にした楓と孫子が、剣呑な表情で、香也の顔を凝視していた。
「……んー……」
 何かいわなくては……と思った香也は、とりあえず、唸ってみせた。
「そ、そういうのじゃ、ないから……」
「な、に、が……そういうのじゃないんですか?」
 楓が、ずい、と一歩踏み出す。
 反射的に後に下がろうとした香也の腕を、孫子が掴んだ。
「やっぱり、香也様……年上の方が……」
 香也の耳元に息を吹きかけるようにして、孫子がそんなことを囁きながら、洗面所の中に香也を引きずっていく。
「……な、なにいうですかこの女はっ!」
 楓も、香也のもう一方の腕をぎゅっと掴んで、抱きしめた。
「一歳や二歳の違いでは、年上も年下もあまり関係ないのですっ!
 それに、成熟度では……」
「今まで、あまり気にかけてなかったけど……」
 わいのわいのいいながら、もつれ合うようにして洗面所に消えていった三人を目撃し、シルヴィは、一人、呟いた。
「ここの子たちも、なかなか……」

「……そーだろ、そーだろ……」
 全員の分の味噌汁を用意しながら、三島が鷹揚に頷く。
「今時だな、こんなにベタな家庭内ハーレムやっているご家庭なんざ、めったにあるもんじゃないぞ! ん?」
「……だから、そこで……なんでセンセが、偉そうに胸を張るんです?」
 羽生が、つっこみを入れた。
「いや、真に偉大なのは、この状態でも動じるところがない真理さんの度量なんだけどな……」
 三島は、味噌汁の茶碗を配りながら、そんなことをいう。
「で、でも……先生のお料理……お、おいしいのです……」
 静流が、そんな合いの手を入れた。
「真理さんも、長旅から帰ったばかりだし……普段、問題児どもが迷惑かけている分、この程度のことはしないとな……」
 三島は、そんな風に軽く答える。
 それから、おたまを香也、楓、孫子の方に振り、
「いいか……問題児ども。
 いくら真理さんが寛大だからといっても、節度はきちっと守れよ。らぶったりこめったりするのは勝手だが、若さ故のあやまちっとかいって、取り返しのつかなくなることだけは、するんじゃないぞ……」
 と、いつになく真剣な声でいった。
「わ、わたくしたちが……問題児、なのですの?」
 孫子が、三島に対して異議の声をあげる。
「おう、問題児だ。本人に責任がなくても、問題児だ」
 三島は、断言した。
「基本的な、現在のこの国は、比較的保守的で……多少毛色が変わっているってだけの人間でも、平気で排除するような性質を、構造的に抱えているんだ。
 お前らは……荒野にしろ茅にしろ、今、眼の前に雁首並べている三人にせよ、今のところ、どうにかうまく行けているが、ちょっとでもバランス崩して踏み外したら、あっという間にスポイルされる。
 今で見てきたんで断言できるが……お前ら、能ある鷹は爪を隠す、なんて器用な真似、できこないだろ? 性分的に?
 だったら、せめても、どうしたら、叩かれないように振る舞えるか、普段から、言動に気をつけていろってーの……」




[つづき]
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