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彼女はくノ一! 第六話(27)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(27)

「……荒野からもさんざんいわれているだろうが、お前らはどうあがいても規格外品なんだから、普段から目だない様に心がけるくらいで、ちょうどいいんじゃなんじゃないか?」
 三島は、そんな風に続けた。
「……あの……」
 楓が、遠慮がちに片手をあげる。
「わたしたち……そんなに、目立ってますか?」
「目立つな。
 何にもしなくても、その容姿だ」
 三島の返答は、にべもない。
「今のところ、学校でもあまり反感を持たれていないのは、二人ともそこに糸目にべったりとくっついているからだ。
 特定の相手が決まっていてるやつは、同性からも異性からも、スルーされやすい……。
 それがなかったら、女子には反感もたれーの、男子からはアプローチかけられーの、大変なことになっているところだぞ、二人とも。
 ただでさえ、鼻息の荒い年頃なんだ……」
 三島が淡々とした口調で説明すると、楓と孫子は、絶句した。
「……ああー……」
 羽生が、三島の説明に相槌をうつ。
「ありうる、かな……十分。
 二人とも、そんくらい美少女なわけだし……周りが放っておかない、ってやつだ……。
 でも、センセ。
 何で今頃、そんな話しを……」
「……そいつは、だな……」
 三島は、にやりと笑った。
「真理さんの留守中、この家の風紀が一気に乱れただろう?
 その紊乱を、あまんまり外に持ち出すと、世間体的にももっと見も蓋のない部分でも、かなり困ったことになるぞーってのと……あとは、あれだ。
 あの三人、こんどの春からうちの学校に転入してくるんだろ?
 今の調子で学校でものべつなしにいちゃいちゃされちゃあ、他の生徒たちが黙っちゃいないってーの。
 ほんでもって、このうちの誰かが妊娠でもしてみろ。目も当てれないことになるぞ。
 ん、で……だ。
 やつら三人に関しては、まぁ、後に回すとして……まず年長者の二人から、じっくりと言い聞かせておこうかと思ってな……」
 三島が説明する間にも、真理は黙々と食事を続けている。
 テン、ガク、ノリの三人は、まだ豪雨が振っているというのに、朝早くからどこかに外出していて、この場にはいなかった。
 香也は、いたたまれないというか、居心地が悪そうな表情で、箸を止めていた。
 楓と孫子は、かなり気まずそうな表情をしていた。
「いやな、色恋沙汰自体をどうこういおうって気は、ないんだ。わたしもこれでも女なわけだしな。
 でもな。
 お前らの年頃にふさわしいつきあい方っていうものが、たいがいに、あるだろうが……。
 四六時中、盛っているのが正常だとは思わんぞ、わたしは……」
「……おおっ……」
 羽生が、妙なところで関心してみせた。
「センセが、常識的なこと、いってるし……」
「……あのな……。
 お前は、わたしのこと、一体なんだと……」
 三島は、ジト目で羽生を軽く睨む。
 それから軽くため息をついて、
「……まあ、いいや。
 ともかく、だな。
 少しは世間の目というものを考えて、もう少し行動を自重するように。
 お前らだってまったくのガキってわけじゃないんだ、その程度の理屈くらいわかるだろ?
 どういう風に振る舞えば、自分たちにとって、利益になり不利なるのか……しっかり考えた上で、行動を選択しろっての……。
 別に、難しいこっちゃないだろ?」
 三島は、珍しく、真面目な顔をして、楓と孫子に目を向ける。
「そこの糸目一人をどうこうして、お前らの気が済むのか? そのためには、今のこの生活を全部壊しちまってもいいのか? ん?
 まあ、一言でいっちまえば、そういう話しだ……。
 ほれ、後かたづけする都合もあるんだから、二人とも、それとそこの糸目も、さっさと飯、くっちまえっ!」  
 そういって三島は、手が完全に止まっていた楓、孫子、香也を即した。

 食事が終わると、孫子はフォーマルな服に着替えて外出し、香也と楓は、例によって庭のプレハブへと向かう。
 三人が姿を消し、羽生も出勤すると、しみじみとした口調でシルヴィが呟いた。
「今まで……ソンシとしかまともなつき合いがなかったけど……なかなか、面白い子たちね……」
「……お前さんは、どちらかというと、糸目ではない方の荒野サイドの住人だからな」
 三島は、頷く。
「面白いっちゃあ、みんなそれぞれに面白いんだが、面白すぎて周囲の人間が困るってこともある。
 荒野も真理さんも割と放任する方だから、わたしくらいは締めるところ締めとかないとな。
 正直、このままずるずるいったら……先が、怖い……」
「わ、わたしは……」
 例によって、お湯を借りて普段から持ち歩いている真空パックでお茶をいれながら、静流が、遠慮がちにいった。 
「さ、昨夜みたいに、よそのお宅にお泊まりする経験も、なかったですし……。
 そ、それに……に、賑やかなのは、好きです。
 き、昨日は、た、楽しかったです……」
「……まあ、昨夜は糸目がさっさと引っ込んだんで、後は女同士の無礼講だったしな……」
 三島は、けけけけけっ、と奇怪な笑い声をあげた。
「静流さんのお茶、本当においしいですし……」
 真理も、ゆったりとした口調で答えて湯呑みを傾ける。
「シルヴィさんも、いつでも寄ってくださっていいんでうすよ……」
 などなど、成人女性陣は何気に結束を固めているのであった。

「……はぁ……」
 傘を差してプレハブに入るなり、楓は太いため息をついた。別に、冷たい雨の中をかいくぐって庭を横断してきたから、というわけでもないらしい。
 香也は、楓の態度には反応せず、まずはいつも通り、年期の入った灯油ストーブの前に屈み込み、燃料をいれ、火をつける。
 香也にしてみれば、楓といわず、同居人の少女たちには、もう少し自重して貰いたいところであり、ここで下手に楓を慰めることも出来ないのであった。
「香也様ぁ……」
 案の定、楓は、屈み込んだ香也の背に、もたれ掛かってきた。
「わたし……そんなに、ご迷惑ですかぁ……」
「……んー……」
 背中に楓の柔らかい感触を感じた香也はその場で固まって……口だけを、もごもごと動かした。
「迷惑、っていうより……その、本気でないのに、あんまりべたべたするのとか……周囲の人の目も、あるし……」
「……ちっわぁーす!」
 そんな時、いきなりがらりとプレハブの引き戸が開け放たれた。
「……昨日は、どうもお世話になりましたーっすぅっ!
 今日は、うちのバカ若がこちらの絵をまた見たいとご所望で、案内してきたら、こっちの灯がついていたんでこっちに直接、来た……来た……来た……」
 一気にまくしたてていた佐久間梢は、そこでストーブの前でうずくまって一体となっている香也と楓の姿に気づき、顔を強ばらせて背を向けて、
「……こりゃまた失礼しましたぁ!」
 と、今朝の羽生と全く同じことを叫んで後ろ手に戸を閉めた。
「……ちょっ……な、何でもないっ!
 何でもないから、遠慮せずに中に入ってっ!」
 反射的に立ち上がって、佐久間梢を呼び戻す、香也であった。




[つづき]
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