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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(286)

第六章 「血と技」(286)

 茅と、テン、ガク、ノリ、それに舞花が、真剣に「シルバーガールズ」の打ち合わせをしはじめると、シルヴィが荒野に近寄ってきて、
「朝、先生もいってたけどね……」
 と前置きした上で、荒野に、
「彼女たちに、一度、自分たちの特殊性を、きちんと説明しておいた方が、いいよー……」
 と、続けた。
「春から、学校に通い出すんですしょ?
 学校と監獄は、基本的に異物を排除するようにできているから……」
 荒野は、少し考えて、
「……そう、だな……」
 と、普段より、一層、慎重な口振りで答えた。
「やつら……今まで、あまり、自分たちを否定的にみる人とは、接触していないから……ことによると、学校に通いはじめるのが、いい機会かも知れない……とも、思ってたけど……いくらなんでも、ぶっつけ本番は、リスクが大きすぎるか……」
 荒野は、今まで、三人と接触してきた人たちを思い返す。
 今まで、三人が接触してきたのは……一族の関係者に、狩野家の人々、それに、楓と孫子によって、あるていど免疫をつけてしまった、商店街の人々……であり、程度の差はあるものの、三人にも比較的寛容であった筈だ。
 新学期になり、学校に通うようになると……今度、主として接触するのは、三人のことも、楓や孫子、茅や荒野の存在が「公認」になっている「校風」にも染まっていない、新入生な訳で……。
『……年度ごとに、一学年分の生徒がまるまる入れ替わる、というシステムも……』
 学校としてはしごく当然の機構も、今の荒野にとっては、割合、負担が大きく思える。
 考えてみれば、新学期とは……。
『……悪餓鬼どもが、怪しまれることなくおれたちに近づくための……』
 絶好の、機会ではないか……。
「新入生の身元調査を、徹底的にしておかないとな……」
 突然、荒野はシルヴィの問いとはまるで関係のないことをいいだす。
「そ、その程度なら……」
 静流が、口を挟んだ。
「流入組の野呂に声をかければ、造作もないことなのです。
 い、今では人数がいるから、分担して行えば、た、たいした負担でもないのです……」
 そうした探索や調査は、確かに野呂の得意とするところだ。
「うん。
 おそらく、お願いすることになると思う……」
 時間をかければ、編入時、荒野と楓だけでおおかたの生徒について簡単な捜査を行ったように、新入生全員の身元を洗い直すことも可能だったが、あの時とは違い、荒野たちの立場はかなり微妙なものになっている。
 いや。
 以前から、微妙な立場にたっていたが、荒野や楓は、その微妙さについて説明を受けていなかったし、自覚してもいなかった。
 今は……違う。
 個人単位でみた場合、荒野と楓は、客観的にみて、最大の戦力である……から、いざというときに備えて、他の者に回せる仕事は、できるだけ回した方がいい……と、荒野は思っている。
 それに、この程度のことでも……。
『野呂に……いや、静流さんに、貸しを作っておいても……』
 今後の関係を考えると、かえって、その程度の負担を請け負って貰う方が、静流にしても、気が楽になるだろう……。
 と、荒野は判断する。
 静流の、野呂の中でのポジションは、微妙だ。
「パーフェクト・キーパー」の異名を取り、それなりに敬愛もされているとは思うが……仕事を選ぶ、ということは、術者としては半端な存在である、ということを意味する。
 静流は……野呂の中では、「本家の血を繋ぐ存在」として、一番に期待されている。言い換えると、「静流本人」には、誰も大きな期待はしていない、ということになる。
 おそらく、静流は……いや、自分の意志で、この土地に流れ込んできた一族の関係者は、大半……。
『……一族の中でも、居場所がない……』
 半端者、はぐれ者の集まり……なんだろうな……と、荒野は思う。
 一族の社会の中で、実力を認められ、信頼されて仕事を任されているような者は……よほどの拗ね者、変わり者でなければ、現在の仕事に継続して邁進するだろう。
 それまでの地位や仕事を放り出しても惜しくはない……と、考える者は、能力的に半端で肩身が狭いのか……あるいは、性格に問題があって、周囲とソリがあわないかの、どちらかだ……と……荒野は、酒見姉妹の顔を見ながら、そう思った。
「「……な、なんですか?」」
 荒野が自分たちのほうを見ている、と気づいた酒見姉妹が、声を揃えて疑念を口にする。
「いや、別に……」
 荒野は、つい、と、視線を逸らす。
「お前らみたいなのにも、居場所を用意するのが、おれの役割なのかなぁ、っと思ってな……」という内面の想いをその場で口にすることはなく、「手が空いているんなら、浅黄ちゃんとでも遊んでやってくれ……」と、荒野は、酒見姉妹に申し渡した。
 時間をかけさえすれば、一族社会の中に復帰できる気力や能力のある者は、そうすればいい。
 事実、負傷して、一時的な休養やリハビリの場所としてこの土地を選んだ者は、流入組の中でもそれなりの割合を占めていた。
 しかし、そうでない場合……この土地に、半永久的に永住するつもりで来た者に対しても……そのうち、便宜を図っていかなければならないのではないだろうか……と、荒野は思いはじめている。
 この土地が……、
『……一族からリタイアしていく者の、一般社会への順応、馴致の場……』
 として機能しても、いいのではないか……と。
『……だけど、まあ……』
 仮に、将来、そういう事業を立ち上げるにしても……。
『まずは……自分自身たちのこと、だよな……』
 社会的にも、荒野は、未成年であり、学生である。
 現状、荒野にやれることには、大きな制限があり、加えて……。
『……悪餓鬼どもの、対策……』
 を、最も急がなくてはならない……とは、思っているのだが……。
 こればかりは、相手の思惑もあるし、荒野の都合や意気込みだけでは解決のしようもないのであった。




[つづき]
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