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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(287)

第六章 「血と技」(287)

 昼前になって、今度は楓が尋ねてきた。
「……真理さんが……留守中にお世話になったようだし、みなさんに、お昼をご馳走したいっていうことで……」
 荒野は振り返って、来客の人数をざっと数え、足元をみた。
「あの……申し出は、嬉しいんだけど……今日のうち、とんでもなく、人数が多いんだけど……」
 楓も、荒野の視線を追って、目を落とす。
 履き物が、玄関に入りきらなくて、廊下のフローリングの上にまで、新聞紙を敷いて置かれているありさまだった。
「真理さんも、知ってます。
 昨日の今日ですし……うちから直接こっちに来た人も、多いですから……。
 それに……このマンションに、この人数というのは……」
 荒野たちのマンションの間取りは、2LDK。対象、リビングが広めの設計であるが、この人数を収容するには、流石にきつい……とは、思っていた。
「……そう……だな。
 真理さんの好意を、素直に受けておくか……」
 不承不承、といった感じで、荒野は頷いて、みんなに「お隣に移動しよう」と、告げにいった。
 楓が、真理に報告するため、正確な人数を数えていると、
「おお。
 またみんなで飯か?
 任せろっ!」
 と、真っ先に、三島がでてきた。
 ……真理さんの負担が、かなり軽くなるな……と、楓が思っているうちに、三島は、取り出したメモ帳にさらさらと何事かを書き付け、そのページをちぎって楓に渡した。
「ほれ。
 これ、買ってこい。
 荷物持ちに、何人か連れていって……。
 それから、お代は……荒野持ちでいいな?」
 首だけを後ろに向けて、三島が確認をした。
「……ういっす」
 荒野が、再び玄関に顔を出した。
「これで」
 と、自分の財布から紙幣を何枚か抜き出して、楓に押しつけ、
「……余裕あったら、マンドゴドラにも寄ってきてくれ……。
 この人数だから、そこから代金払ってもいいし……」
 と、付け加えた。
 それから荒野は再び室内に戻り、
「双子と三人娘っ!
 楓にくっついていって、買い出しの荷物持ち部隊なっ!」
 と、いった。
 雨が降っているし、人数は多い方がいい、と思ったから、そう指示したわけだが……実際には、それに、ついでにクリーニング屋に寄っていく、という茅が加わって、ぞろぞろと大人数で出ていった。
 昨夜、今日とはしゃぎすぎたのか、眠そうな顔をしている浅黄の手を飯島舞花が引いて、荒野と残りの面子はお隣りの狩野家へと向かう。

「……よう、荒野」
 玄関で二宮舎人のごつい巨体にエプロン姿で出迎えられ、荒野はリアクションに困った。
「……舎人さん。
 こんなところで、何をしているんです?」
 数秒、固まった後、荒野は、ようやくそういう言葉を絞り出す。
「みて、わからないか?」
 舎人は、手にしていた包丁を胸元に掲げ、真面目くさった表情で答えた。
「昼飯の、準備だ」
「……いや、まて……。
 それは、なんとなく予想がついている。
 おれが聞きたいのは……なんで、舎人さんが、この家で昼飯の準備をしているのかっていうことで……」
「そりゃ、お前……」
 舎人は、ゆっくりと首を横に振った。
「これから、現象とか梢とかが頻繁にお邪魔するわけでな。
 この家の人たちにも、気に入られておいた方がよかろう?
 で、だな……奥さんにお願いして、台所をお借りしている次第だ」
 そんなことより、外は雨なんだから、みんな、早く中に入れろよ……とかいいつつ、舎人は大きな背中をみせて、台所の方へと去っていく。
「おい! 待て、おっさんっ!」
 その後を、三島が追った。
「人数多いいから、今、材料を買い出しに行かせたところでな、お前さん、何を作るつもりだ……」
「冷ご飯があったんで、冷蔵庫の残り物を炒め合わせた五目炒飯。
 それと、春雨を戻してベトナム風のスープで仕上げて……」
「ま。人数も多いし、品数は、多い方がいいだろ……」
 大きな背中と小さな背中が、並んで去っていく。

 全員で居間に入ると、もう一つ、以外な出会いが待ち受けていた。
 いや、舎人がいる時点で、予測していてもおかしくなかったのかも知れないが……。
「……何で、お前が炬燵にあたっているんだよ……」
「……うるせーな。
 ぼくがどこに行こうが、勝手だろうが……。
 第一、佐久間の技を伝授しろって呼びつけたのは、お前等じゃないか……」
 荒野と佐久間現象とは、例によって、顔を合わせると瞬時に険悪になる。
「はいはい。
 二人とも、元気が良いのはいいけど、ここでは、仲違いしない……」
 真理が、すかさす割ってはいる。
 真理は、現象が過去に何をしてきたのか、知らされていない。しかし、真理の性格からいっても、この家の中での喧嘩や公然とした仲違いは、断じて許容する筈もないのであった。
 荒野は憮然として炬燵の中に入る。
「……実は、こちらの坊ちゃんの絵が気になるとかいって、見に来たんですよー……」
 佐久間梢が、こそこそ、といった感じで、荒野に囁きかける。
 主語は、「現象が」なのだろうな、と、荒野は判断する。梢なり舎人なりが絵に興味を持ったのなら、それぞれ単独で来る。三人が揃っている、ということは、現象が動いたから、監視役の他の二人も付随してきたから、ということなのだろう。
 当の香也は、居間の中にはいなかった。大方、例によって、食事の仕度が出来るまでの間も、寸暇を惜しんで絵に没頭しているのだろう。




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