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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(285)

第六章 「血と技」(285)

「……なるほど……」
 舞花は、ウェブカム用のカメラに向かって、わさわさと指を動かして見せた。あくまでパーソナルユースのウェブカム用のカメラだから、解像度その他の諸元性能は、そこそこの代物である。
 すると、ノートパソコンの中の緑色のモンスターも、わさわさと指を動かしてみせる。そのウィンドウの中では、舞花の座っている椅子に、その緑色のモンスターが座っていた。
「こっちのカメラで読み込んだ動きを、リアルタイムで、こっちのデータの中のモデルに同期させているのか……。
 これって……実は、結構凄い技術なんじゃあ……」
「モーションキャプチャ、という技術や概念は、昔からあるけど……」
 茅は、舞花にそう説明する。
「データスーツを着たり、背景を合成したり、と……実際にやるとなると、それなりに大げさな設備や準備が必要になるの。
 それを、これだけ簡便な設備で出来るようにしたのは、画期的なの……」
「どのみち、使える物を最大限に使うしかないわけで……」
 そういって、ガクは肩を竦める。
「本格的な着ぐるみなんか作る余裕、ないし、それに、中に人が入る、という前提でいくと、デザイン的にもどうしても制限がでてくるし……。
 タマさんに紹介して貰った人がね、結構面白いデザイン、あげてくるんだけど、そういうマニアックなことやる人って、どこかしら懲りすぎているところがあって……実際に造形を作る、となると、難しいデザインが多いんだ……。
 だから、いっそのこと、最初からデータで処理するんなら、そういう凝ったデザインも、できるだけそのままの持ち味を活かせるかなぁ、って……」
「そっか……。
 制約と、それ以外のメリットもあるんだ……」
 舞花は、頷く。
「でも、全部3Dモデルで処理するとなると……質感とか……は、大丈夫だな、これを見る限る……」
 舞花は別のウィンドウを操作して、光源の位置や背景などを切り替えてみる。適当にボタンなどをいじくっているだけだったが、舞花の操作は瞬時にウィンドウの中の光景に変化を与えた。
「……おぉ……反応、いい……。
 ねえ、これ、このシステムだけでも……そっか、売りに出している、とかいってたな、さっき……」
 舞花は、一人でいろいろいじくって、そんなことをぶつくさいっている。
 いろいろいじくった結果、登録されたキャラクターの中から、シルバーガールのモデルを呼び出すことに成功した舞花、カメラの角度を変え、みんなが見ている前で、リビングの中央に移動する。
 そこで舞花がラジオ体操をすると、ウィンドウの中のシルバーガールも舞花の動きをトレースしてラジオ体操をはじめた。
「おお。
 凄い凄い……」
 舞花は、ノートパソコンのディスプレイをみて、小さな歓声をあげる。
 いきなりラジオ体操をはじめた舞花を、浅黄が不思議そうに見上げていたので、
「浅黄ちゃん、こっちこっち……」
 と、栗田が浅黄を手招きして、ノートパソコンの画面を指さしてみた。
 とことこと浅黄がテーブルに近づき、ノートパソコンを覗き込み、舞花の動きと見比べ……ようやく、「舞花の動きを、画面の中のシルバーガールが真似している」と気づいた浅黄は、当然のように、「……やるーっ」と言いだした。
「……じゃあ、交代……」
 舞花は、舞花をリビングの真ん中に立たせ、茅に向かって声をかける。
「茅ちゃん、設定とか、いろいろ、お願い……」
「もう、やったの……」
 ノートパソコンのキーボードを軽やかな動きで叩いた後、茅はケーブルを持ち出してきて、ノートパソコンとテレビを繋いだ。
「浅黄、動くの……」
 茅がいい、浅黄がこくんと頷いて、
「……やぁー!」
 とハイキックを披露した。
 テレビの中のシルバーガールも、ハイキックと、その後、いきなり足を高く上げすぎてバランスを崩し、その場で倒れる動作まで、正確にトレースして見せた。
 荒野や静流など、見守っていた人々が、慌てて倒れた浅黄を助け起こしに行く。
「これ……ゲームとか、それに、スポーツや格闘技のトレーニングとかもにも……十分に、使えるんじゃないか?」
 舞花は、そんなことをいいだす。
「遠く離れた場所にいる人に、フォームを教えるとか……。
 格闘技の場合は、怪我したりするリスクなしに、模擬戦が行える……。
 プロのレベルでは使い物にはならないだろうけど……例えば、趣味でボクシングをやっている人が、顔に痣を作る心配をしないで、気軽にスパークリングを疑似体験できるし……。
 もちろん、体感ゲームとしても、十分に応用できると思う……」
「特許やパテントに関しては、才賀と徳川が押さえにかかっているし、多少の改良で増収が見込めるのなら、この三人なら数日で差分ファイルを用意できるの」
 茅にしても、舞花のいう応用分野に関する認識はあったのか、即座に頷いて見せた。
「例えば、シルバーガールズにしてもさ……映像以外にも、ネット対戦とか出来るゲームを同時に展開すれば、ユーザー層は、それだけ……世界中に、広がるわけだし……」
 いいかけて、舞花は、絶句し……テン、ガク、ノリの三人の顔を、まじまじとみた。
「これ、本当に……たったの一週間で、作ったの?
 ほとんど、君たちだけで?」
「本当は、これだけでは、なくて……他にも、いろいろやってたんだけどね」
 三人を代表して、ガクが、表情も変えずに舞花に向かって頷いて見せた。
 ……凄い子たちなんだな……と、舞花は、改めて思った。
「……責任重大だな、おにーさん……」
 そこで舞花は、荒野にそう声をかけた。
 今のところ、この三人は、反社会的な思想や行動を行う見込みはない。しかし、何かのきっけかけで、犯罪や非合法な行為に手を染めはじめたら……それを制止するのは、かなり難しいだろう……と、その手のことに疎い舞花でさえ、そう思ってしまう。
 それほど、三人の能力は……舞花の予想を、遙かに超えていた。
「ま……なるように、なるよ」
 荒野は、のんきな顔をして、舞花に肩を竦めて見せた。




[つづき]
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