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彼女はくノ一! 第六話(30)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(30)

 香也は、いつも平然としている……と、みんなで賑やかに食事をしながら、楓は思う。
 これはやはり……一緒に過ごす時間が多い、真理の影響が大きいんだろうな、と。
 その真理は、一口、料理を口にしては、三島や舎人に作り方やコツを聞いたりしている。顔見知りの三島はともかく、舎人と真理はほとんど面識がなかった筈だが、成人男性の標準よりも身体が一回り大きく、いかにもこわもてな感じの舎人にも、真理は臆するところがまるでない。まるで、近所の主婦を相手にしているような気軽さで、舎人に接していた。
 ……この、真理に普段から接していれば……そりゃ、影響を受けちゃいますよねぇ……と、楓は思う。
 そういえば、真理は、過去に、楓や孫子、テン、ガク、ノリの三人の尋常ではない少女たちの存在も、あっさりと許容して、同居を許しているわけで……その真理に育てられた香也も、同様の鷹揚さを身につけている。
 楓は、さきほどのプレハブでのやりとりを思い起こす。
 佐久間の術者は……どうやら、他人の記憶とか考えていることを、読みとる能力があり……現象は、香也に対して、それを行使したらしかった。
 香也は、楓とは違い、術者の能力がどういったものなのか、とか、事前に説明をうけていないにしても……前後の会話の流れから、なんとなく、現象が自分にしたことに対して、察していてもおかしくないのだが……特に態度を変えたり、特別な言動をしたりすることもなく……その時の香也は、まったくもって、いつもの通り……つまり、我関せず、とばかりに、黙々と絵を描きつづけていた。
 自分の記憶なり内面なりを無断でのぞき込まれても、平然としている、というのは……剛胆なのか、鈍感なのか。
 いや……香也の関心が……極端に、香也自身から、外れている……ということなの、ではないか……と、楓は、これまでの香也の言動も併せて思い返し、そう推察する。
 むしろ……香也は、自分が考えていること、感じていること……言い換えれば、自分の内面を、直視することから、逃避しようとしているようにも、見える……。
 そうした香也の態度が……現象が香也の中に「発見」し、そして、楓たちにその内容を教えようとはしなかった「何か」と、関連するのではないか……と、楓は思った。
 せっかく、うまくいっている現状を……無理して、暴きたてることはない……という現象の言い分は、それなりに、納得できるのだが……当面は、それでよくても……将来、香也は、今まで目を反らし、閉ざしてきた自身の記憶と、まともに向き合わなくてはならなくなる日が、いずれ、来るのではないか……。

 楓が、機械的に手を動かし、食事を続けながら、そんなことを考えていると、荒野が、
「茅が、新学期に生徒会長に立候補するようだ……」
 とか、いいだす。
 楓は、特に深く考えることもなく、ほぼ反射的に、「いいですね。協力します」みたいなことを口にしている。
 別に楓は、生徒会の活動に興味はなかったが、茅の能力を考えれば、適任……どころか、オーバー・スキルもいいところだろう……と、思った。
 驚いたのは、荒野がそういったすぐ後に、現象も、
「……それじゃあ……」
 と、前置きして、
「……ぼくも、立候補しよう……」
 といいだしたことだ。

 これには、楓も荒野も、かなり驚いた。
「キミ……一体、何を考えている?」
 目を丸くしている一同を代表して、梢が現象に真意をただした。
「この土地で、自分の基盤を作ることを考えている」
 現象は、即答する。
「ぼくには、加納とは違って、自分自身の基盤がない。
 それに、ぼくが自身に規定している、一族キラーとしてのアイデンティティからいっても、一族内部にシンパを募るわけにはいかない。
 だとすれば、一般人社会の中で、自分の能力を十全に生かす術を模索するのが、適切な態度というものだろう。
 そして、ぼくの当面の立場といえば、学生だ。
 学生として、自分の能力を生かし、なおかつ、異能の自分を受け入れてくれるよう、周りを感化しやすい立場に立とうとするのなら……。
 確かに、生徒会長という肩書きは、それなりに重宝するものだ……」
 そこまで一気にまくしたて、現象は、
「……それとも、君たちの学校は、転入したばかりの生徒は、生徒会役員に立候補できない、とかいう理不尽な校則でもあるのかい?」
 と、付け加えた。
「そういう校則は……ないの」
 茅が、現象の問いに答えた。
 茅なら……校則ぐらいは、丸暗記しているのだろうな……と、楓は予測する。
「立候補することは、生徒でさえあれば、誰にでも可能。
 でも、選挙で票が入らなければ……同じことなの」
「もちろん、転入したてだと、その点は不利なわけだが……あいにくと、ぼくは佐久間だ。
 大衆の扇動や意識操作は、それなりに得意でね……」
 現象は、余裕の笑み、のつもりなのか、にやにや笑いを浮かべている。
「……生徒会の選挙って、当選するのがそんなに難しいんですか?」
 楓は、隣に座る香也に、小声で尋ねる。
 この場にいる中で、あの学校のことについて、一番
よく知っているのは、香也だった。
「……んー……」
 香也は、緊張感のない、のんびりとした声で答える。
「……むしろ、なり手がいない。
 たいてい、先生が……毎回、成績がいい人とか、生活態度が真面目な人に、立候補しないかと持ちかけているくらいだけど……」
 そうしたことにまるで興味を持たない香也にしてから、このような認識を持っている……。
 と、いうことは、やはり、面倒くさいだけの生徒会役員などに、自分から立候補する生徒は……ほとんど、いないのだろう……。

 ……なんか……おかしなことに、なりそうだな……と、楓は思った。
 香也がいうような状態なら……今ではそれなり顔と名前が知られている茅が立候補しさえすれば、ほぼ自動的に当選したのではないだろうか?
 現象には現象の思惑はあるのだろうが……。
『……茅様にしてみれば……』
 邪魔くさいこと、この上ない……。
「負けないの……」
 案の定、茅は、珍しく敵愾心を露わにして、現象の顔を軽く睨んでいた。
 茅が、無防備に感情を露わにすることも……珍しい。

 現象の登場は、大小様々な影響を、自分たちに与えはじめている……と、楓は、改めて感じた。




[つづき]
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