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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(290)

第六章 「血と技」(290)

 食後も、何故かみんなその場から動かず、静流がいれてくれたお茶を飲みながら、歓談していた。
 真理と三島と舎人は、料理のレピシを交換している。
 テン、ガク、ノリの三人と、それに茅を含めた四人は、「シルバーガール」の打ち合わせを熱心に続けていた。香也と楓は、その打ち合わせの聞き役に回っていた。三人がなにくれと香也に話しかけたり、ノートパソコンを持ち出して、「シルバーガールズ」のスチールなどをみせては、造形やデザインについて意見を求めたりしている。
 浅黄は、満腹したら眠くなったのか、食後、すぐに炬燵に横になっていた。
ました
 そんな中、孫子が帰宅して、居間に入ってくるなり、ガクに向かって、南米で指名手配犯が逮捕され、例の認証システムが使えることが実証された、世界中から問い合わせやオファーが来ている、といった意味のことを告げた。
「……何の話しだ?」
「あのチビどもが、人の顔を識別するソフト作って、そのかげで逮捕者がでたらしいですよ」
 舎人が荒野に聞いてきたので、荒野は簡単に説明してみせた。
「それは……機会が、監視カメラとかの映像を操作して、人の顔、勝手に見分けるってことか?」
 舎人が、不審げな顔になって聞き返す。
「今のコンピュータは、その手の判断は苦手だった筈だが……」
「だから、それ、判断させるソフト、その場で作っちゃったんですよ、あいつら……」
 荒野が、説明を追加する。
「おれ、たまたま、その場にいたけど……」
「それって……あの、テンって子ですか?」
 今度は梢が、荒野に聞いてくる。
「いや。
 今、才賀と話している、ガクの方……」
 当然、三人に関する資料くらいは、事前に渡されているのだろうな……と、荒野は思った。
「……あのガク、あれで、時々、他の二人にも理解できない、複雑なプログラム組むらしい」
 そういいながら、荒野は梢と現象の顔色を観察する。
 テンと茅に、完璧な記憶力があることは、関係者の間では、すでに周知の事実になっている。「佐久間」として、それが、どれくらい普遍的な資質なのか、荒野には判断できなかった。
 そこで、梢と現象に、あえて質問をぶつけてみる。
「カオス理論がどうとかこうとかいってたけど、詳しい理屈はおれには理解できなかった。そういう、あー、アイデアとかインスピレーションの類も、佐久間の領分なのか?」
「……ぼくが、一般的な佐久間について、よく知っているわけがなかろう……」
 現象は、そういってむくれてみせた。現象の経歴を考慮すれば、納得のいく答えだったが、野郎が拗ねてみせても、ちっともかわいげがないな……と、荒野は、身も蓋もない感想を抱く。
「……あっ……ははっ」
 梢は、どうしたわけか、乾いた笑い声をあげた。
「佐久間って、いうのは……その……。
 資質にも、性格にも、個人差が大きいので……同じ佐久間でさえ、作動原理が理解できない、とんでもない機械、いきなり作っちゃう人とかごろごろいますし……その分、扱いが難しい人も、多いんですが……」
「……それは……あれか……」
 荒野は、梢の言葉を自分なりに咀嚼してみせる。
「おれは……六主家の一員である、佐久間の、表面的なことしか知らないわけだけど……。
 佐久間って、あれ……どこかいっちゃったマッドサイエンティストの集団、とか……」
 荒野は、静かな寝息をたてている浅黄をちらりとみながら、梢にそう確認してみる。身近にそういう実例がいるので、想像がしやすかった。
 そういえば、源吉も、「佐久間は、一族の仕事を、兵役のように感じている」とかいう意味のことを、いっていたっけ……。
 梢は、「……あはっ。あはははは……」と乾いた笑い声をあげて、荒野の質問に回答することを避けた。
『……佐久間が、なかなか姿を現さないのは……』
 まともなコミュニケーションがとれる人間が、少ないから……という理由も、あるのではないだろうか……と、荒野は、想像する。
 常人を遙かに凌駕した知性の持ち主がどのような言動をとるのか、常人並みの知性しか持たない荒野が正確に予想するのは、難しい。
 梢が言葉を濁している以上、問いつめても無駄だろう……と、判断した荒野は、話題を変えることにした。

 荒野たちがそんなことを話している間にも、孫子は、廊下にでて何箇所かに電話した後、また家を飛び出していった。

「それで……例の家庭教師の件だけどな、いつからはじまれそうなの?
 幸い、今、この場に関係者が揃っているんで、日程とかそういうの、打ち合わせしやすいと思うけど……」
 荒野は、「シルバーガールズ」の打ち合わせに夢中になっている、茅と三人娘をみながら、そう続ける。
「茅は、まだ学校があるし、みての通り、これでこいつらも、結構、忙しいから、決めるんなら話しあってさっさと決めちゃった方が、いいと思うよ……」
「……あっ。
 はい……」
 荒野の言葉を聞くと、梢は、ピンと背筋を伸ばす。
「わたしたちは……ごらんの通り、学校に通いはじめるまでは、暇ですけど……」
「……うん。
 それじゃあ、向こうの四人の都合を確認して……茅っ!」
「聞いてたの」
 荒野が声をかけると、茅はすぐに顔をあげた。
「佐久間の技の修練って、毎日、少しづつでもやった方がいいものなのか、それとも、丸一日時間をあけて、集中して習った方が、覚えやすいものなの?」
 茅の疑問は、きわめて順当なものだった。
 確かに、効率的な修得法をあらかじめ知っていた方が、スケジュールが組みやすい。
「最初のうちは、感覚を拡張するところからはじまりますから……毎日、少しづつお時間を頂くのが、効果的です。
 ようは、身体の慣れの問題ですから……」
 梢は、真面目な表情を作って、頷く。
「毎日、一時間前後が都合良いのなら……夕食の後ででも、みんなで集まるの」
 茅がそういうと、テン、ガク、ノリの三人も、頷く。
 昼間は徳川の工場に入り浸っている三人にとっても、夜間の方が、何かと都合が良い。




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