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彼女はくノ一! 第六話(32)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(32)

 孫子が再び出ていった後、荒野は現象や茅たちと、いよいよ佐久間の技を伝授するための、具体的な日時を話し合いはじめる。
 そんなことは香也には関係ないので、そろそろプレハブへ戻ろうかと腰をあげかけるのを、楓は制止した。
「……香也様」
 香也の背中の服地を掴んだ楓は、にこにこっと笑う。
「今週は、実力テストがありますし……そろそろ、お勉強をしましょうね……」
「……んー……」
 香也は、楓から目を反らしながらも、すでに諦観の域に入っているのか、すぐに頷く。
「道具、とってくる……」
 飯島舞花までもが、
「どうせなら、こっちで一緒にやれせてもらおうか……」
 などと言い出して、栗田精一を伴って帰っていった。
 そんなことがきっかけとなって、シルヴィと静流も帰るといいだし、三島が、「雨も降っていることだし、車で送ろう」と腰をあげる。

 シルヴィ、静流、三島が出ていったのと入れ替わりに教科書、ノート、筆記用具を持った香也が居間に戻ってきて、少し遅れて舞花と栗田の二人が戻ってきた。
 楓と香也、舞花と栗田が本格的に勉強に没頭しはじめる頃には、荒野たちの話し合いも終わっていて、四人の様子を確認した荒野も、「……おれも、こっちで勉強しようかな……」とか、いいだした。
 別に一人でやっても効率的には、さして代わらないのだろうが、他に予定がない日曜日、何気なく、こうして集まって……というのも、滅多にないことだった。
 茅と、テン、ガク、ノリの四人は、相変わらずノートパソコンを開いて「シルバーガールズ」の打ち合わせをしている。
 現象は、プレハブにいって勝手に絵をみせて貰う、といって、居間を出ていき、梢と舎人もその後をついていった。

 二時間ほど、そうしていた後、茅が茶器を持ち込んで、紅茶をいれてくれた。現象、舎人、梢も、ついでで居間に呼び戻されている。
「……いつもと雰囲気が変わったせいか、割と、集中してできたな……」
 ティーカップを傾けながら、舞花がいった。
「他人の目があると、かえって気が引き締まりますね……」
 楓も、舞花の言葉に頷く。
 いつもは香也に教える一方の楓だったが、今日は学年が上の舞花や荒野に自分の勉強も見て貰っていた。なんだかんだで面倒見がいい荒野は、自分の知っている範囲内のことなら丁寧に教えてくれるし、舞花は、栗田とのつき合いで慣れているのか、教えるのがうまかった。
 楓がそう指摘すると、荒野は、
「いや、来年、受験生だし。一応……」
 と答える。
 荒野はその後、「いまだに学生生活に実感が伴っていないのだが、最近は、隙間の時間を利用して真面目に勉強している」といった意味のことをいった。
「確かに……。
 来年、受験生なんだよな……実感が湧かないのは、こっちもだけど……まあ、なんとかなるでしょう……」
 と、舞花も頷いた後、楓に向かって問いかけた。
「それで、そっちの方は、どうなの?」
 香也のこと、である。
「……ええっと……段々と、持ち直してます……」
 楓としては、そう答えるより他ない。
「本格的な成果が出はじめるのは、これからでしょうね……」
 実際のところ、年末からの短期間で、入学して以来の、全教科分の復習をしているようなものだった。しかも、一日に使える時間は限られている。実体的にみると、香也の成績は「最低」から持ち直して、「下の中」、あるいは、「下の上」あたりをうろうろしている感じだった。
 毎日の地道な努力の甲斐があって、各教科とも、基本的な知識は身についてきているから、これからはぐんと伸びる時期に入るのだろうが……今の時点では、お世辞にも他人に自慢できる成績ではない。
「……そっか……」
 舞花は、楓が考えていることを見透かしたかのように眼を細めた。
「まあ……まだ、一年だしな。
 長期休暇の時期に、時間取って真剣に取り組めば、まだまだ挽回する時間はあるよ……。
 周りの子が放っておかないから、まず、大丈夫だろ……」
「……本人にやる気になって貰うのが、一番いいんですけど……」
 楓は、はっきりと聞き取れない小声でむにゃむにゃと呟いた。
 香也は、こうして「つき合え」と少し強引に腕を引いてくれば、それなりに時間を割いてくれる。
 けれども、今ひとつ、真剣味が感じられない。
 香也とて、知能が低いわけではない。人並みだ。
 だから、時間をかければかけただけの成果は、一応、でてはいるのだが……楓の主観では、イマイチ、手応えを感じないのであった。
 話題になっている当の香也は、それらの話しに耳を傾けている様子もなく、いつの間にかスケッチブックを取り出して鉛筆を走らせている。
 逃げ出さないだけマシ……ではあったが、絵に向ける熱意の何文の一かを別のことにふり分けてもいいのではないか……と、楓は思う。
 香也の感心のありようは……一極集中にも、ほどがある……と。
「……それで、あれだけのものを産み出せるのなら、別に構わないじゃないか……」
 それまで黙って一連のやりとりを見ていた現象が、いきなり口を挟んできた。
「いくら学校の成績がよくても、他に何も出来ないやつ、何の役にも立たないやつなんざ、ざらにいる」
「……でも……絵、だけだと……」
 楓は、現象に向かって、抗弁しようとした。
「……んー……。
 そう……」
 その時、それまで聞く一方だった香也が、はじめて口を開いた。
「絵、だけだと……どんどん、狭く、つまらなくなる。
 だから、もっと……いろいろ、広いところを見られるようにならなければ、駄目……。
 知識も必要だし……それに、もっと、いろいろな物を、見たり経験したりないと……絵や線が、硬直していく……」




[つづき]
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