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彼女はくノ一! 第六話(33)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(33)

 どうやら、香也は香也で、何かしら思うところはあるらしい。
「……焦ることはないよ」
 と、荒野がいった。
「まだまだ、これから……いろいろなことを、経験していけばいい」
「そうそう」
 舞花も、頷く。
「幸い、周りの人にも、恵まれているし……」
 荒野も舞花も、香也の危惧、つまり、学校の勉強のみならず、「見聞する事柄が限られていて、同年配の人tに比べても、人生経験が乏しい」という不安を、正確に読み取っている。
「……ええ」
 楓もそういって、みんなにわからないように、炬燵の中で、香也の太股の上に自分の掌を乗せた。
「この先、何があろうとも、わたしたちが、ついていますから……」
 太股の上に掌を乗せると、香也は一瞬、身震いをしたが、それ以上の反応はなかった。
 拒絶されるかな、とか思っていた楓は、少し安心をする。
 香也がいやがっているのは、短絡的に性的な行為へと結びつくことであり、楓との接触全てを拒否しているのではないらしい……ということが、最近、楓にもわかかけてきている。
 とはいえ、香也狙いの他の少女たちにも、香也は同じような態度で接している筈なので、楓としては、あまり安心できないのだが。
 また、そうした競争相手の少女たちが存在しなかったら、楓もこうまで強硬な態度で香也に接することもなく、もっとゆっくりと時間をかけて、距離を詰めていったことだろう。しかし、現在の現実としては、そんなに悠長な真似をしていたら、どんどん、他の少女たちに既成事実を作られてしまい、香也の中での楓の存在が、軽くなっていく……と、思うので、楓としても、隙あらば、それなりに香也に構いつけなければならないのであった。
 香也は、「それで、自分が描く絵の個性が弱くなっているから」ということが原因で、不安に思いはじめているようだったが……どんな動機であれ、香也が自分の意識で見聞を広めようと思いはじめたのは、好い傾向だ……と、楓も、思う。また、「自分自身」よりも「自分の絵」を重視するのは、いかにも香也らしいと思うし……それに、舞花が指摘したように、香也は、環境……もっと端的にいって、周囲の人々に、とても恵まれている……とも、思う。
「まあ……学校で習う程度のことなんて、あくまで土台だからなぁ……」
 舞花は、そういって大きく伸びをした。
「茅ちゃんとか、楓ちゃんとか……後、他にもここには、大の大人も太刀打ちできないような知識や能力を持った人たちが、いっぱいいるわけだけど……。
 それに、絵描きくんだって……この間の同人誌みたいに、分野を限定してそれだけを専門にして仕事をしていれば、今からだって、それなりにお金を稼げると思うけど……でも、それだと、土台が脆弱だから、やはり先の広がりが限られてくると思うし……。
 別に、勉強だけに限らないけど、今からいろいろなことを経験して、いろいろな人とつき合っていくのは、いいことだと思うよ……」
「いや……例え、その辺の大人以上の、能力とかがあっても、だな……」
 荒野は、意外と深刻そうな表情を浮かべ、ため息をついた。
「今の学校から、学ぶべきところは、意外に大きいよ……」
「……ぼくは……」
 突然、それまで口を閉ざしていた現象が、呟く。
「正直、学校には……いい思い出が、あまりない……」
「思い出があるだけ、ましではありませんか……」
 梢が、複雑な表情で、現象を諭した。
「わたしなんか……一般人と同じ学校に通った経験も、ありませんから……」
 テン、ガク、ノリの三人が、「ボクも、ボクも」と、梢の言葉に賛同しはじめる。
「……まあ、こういうイレギュラーな連中ばかりだし……」
 荒野が、今度は、辟易した表情になる。
「香也君程度なら、全然、普通だよ」
「……しかし、よくよく考えてみると、凄いよな……」
 滅多に口を開かない栗田精一が、感心したように、呟いた。
「……ええっと……来年の春から……こっちの二人が、二年で……こっちの三人が、一年、っと……」
 栗田は、現象と梢の二人、テン、ガク、ノリの三人を指さす。
「野郎はともかく……来年からうちの学校、美少女キャラのインフレ状態だ……全学年に、数名づついることになるし……」
「……そういう軽薄なことをいうのは……」
 舞花が、栗田の首の後から手を回して、ほっぺたを両側から、むにっ、っと抓み、ぎゅーっ、と、力任せに引っ張る。
「……この口かっ! この口かっ!」
 二人はもつれ合って畳の上をごろごろと転げ回る。
 現象と梢が、なんともいいようもない表情で、ぽかんと口を開けてじゃれ合う二人をみていた。
「……こういう、人たちですから……」
 楓は、なんとなく申し訳がないような気がしてきて、小声で、梢に向かって声尾をかける。
「……仲が……よろしいんですね……」
 梢が、やはり小声で答えた。
「幼なじみだそうだ」
 荒野が、ずずず、と、紅茶を啜った。
「そんでもって……今は、見ての通りの関係だ……」
 栗田と舞花がどたばたと暴れたので、その振動で浅黄が眼を醒ます。眼を擦りながら、起き上がった浅黄を見て、
「……ケーキを出すの」
 といって、茅が立ち上がった。
 どうやら、浅黄が起きるまで待っていたらしい……と、楓は思った。
「……おしっこ、してくる……」
 といって、浅黄も立ち上がった。
「そういえば、あの子……」
 その浅黄の背中をみながら、梢が楓に尋ねた。梢にしてみても、同じ年齢である楓は、話しかけやすい相手なのだろう。
「……どういった、関係の……。
 加納様のマンションにいましたが……まさか、一族の関係者とも思いませんが……」
「……ええっと……やはり同じ学校の、徳川っていう人の姪御さんで……」
 楓は、どこまで詳細に説明したらいいのか、考えながら、ゆっくりと説明する。
「茅様と仲がよろしくて、時折、泊まりがけで遊びに来るようです……」
「……茅の、トクサツ友達だ」
 荒野が、真面目な顔をして頷いた。




[つづき]
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