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彼女はくノ一! 第六話(34)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(34)

「……トクサツ、ですか……」
 梢は荒野の返答をどう解釈したらいいのか判断しかねているようで、そういったっきり絶句する。
「そう。
 トクサツ、トクサツ……ほら、こんなことまでやっているし……」
 荒野はあくまで真面目な表情を崩さずに手を伸ばし、炬燵の上にあった、茅たちが打ち合わせで使用していたルーズリーフ・ノートを取りあげて、梢の前に差し出す。
 そこには、シナリオのチャートや文章によるメモ書きの他に、画面レイアウトや敵怪人のデザインを指定したラフスケッチなども、描かれている。
 絵関係は、香也の絵を見慣れている者にとっては、あまりにも稚拙なタッチであり、見ていてちょっと痛かった。
 全員で描きながら、説明したりしているのか、何種類かの画風が確認できた。比較的、鑑賞に堪えうるのを描いたのは、ノリなのかな……と、推察できるのだが、後のは、誰が誰のだか、判然としないくらいに下手だった。
「……他人の趣味にケチつけるなよ、かのうこうや……」
 ガクが、唇をとがらせながら、炬燵の上から、がばっと一挙動で、ルーズリーフを引ったくるように取り戻す。
「打ち合わせ用のスケッチだから、イメージが他の人に伝われば、下手でもいいのっ!」
「……別に、下手なんて、一言もいってないだろう……」
 荒野は、肩を竦める。

 そんなやりとりをしながらケーキを食べ終わると、現象、梢、舎人の三人は、帰る準備をしはじめた。
「……別に、ゆっくりしていっても、いいのよー……」
 と、真理は引き留めたが、現象は、
「もともと、ふらりと立ち寄っただけで、こんなに長居をするつもりはありませんでしたし……。
 お昼、ご馳走さまでした……」
 と、頭を下げる。
 現象も、流石に真理を相手にしたら、殊勝な態度をみせる。
「よかったら、また遊びに来てくださいね。
 うちのこーちゃん、友達、少ないから……」
 真理の方も、特に構えることなく、普通の少年に対するように、現象に接していた。 
「……あっ。
 はい……」
 現象にしてみれば、これはこれで、調子を狂わされるのだろう。
 一瞬、虚を突かれた表情をした後、顔を伏せ、小声で、
「また、寄らせて貰います……」
 と呟いて、深々と真理に一礼し、玄関に向かう。

 その後も香也は、楓たちと一緒に、真面目に勉強を続けた。夕方になると、荒野が茅を即して帰り支度をしはじめ、それを機に、舞花と栗田も腰をあげ、荒野たちに倣って帰り支度をはじめる。
 ちょうどその時、徳川篤朗が、訪ねてきた。
 玄関の方から徳川の声が聞こえると、浅黄がとたとたと駆けだしていき、その後を荒野が追う。
 玄関先で荒野と徳川が短い会話をしているところに、支度を終えた茅、舞花と栗田が、荒野を追う形で出てきた。
「……お前らも、来ていたのか?」
 徳川は、舞花たちの顔をみて、そういった。
「うん。
 まあ、お昼ご馳走になった後、みんなで勉強してた」
 舞花が、頷く。
「……勉強……」
 徳川は、微妙な顔をした。
「浅黄は、大人しくしてたか?」
「半分以上、寝てたし」
 舞花が、即答する。
「それに、起きている時も、茅ちゃんたちが相手、してたから……別に、問題はなかったと思うけど……」
「そうか……なら、いいのだが……」
 浅黄を背負った徳川は、そういって頷く。
 浅黄が迷惑をかけていないかどうか、徳川なりに気にしているらしい。
「それでは、車を待たせているので、ここでさらばなのだ……」
 徳川はそういって、外に出ていった。
 荒野と茅、それに、舞花と栗田がそれに続く。
 帰っていく、友人たちを玄関まで見送った後、香也は、
「……んー……」
 と大きく延びをして、両腕を肩のところで、軽く回す。
 コキリ、コキリ……という、軽い音がした。
 結局、昼食後から夕方まで、炬燵に入って勉強を続けていた。これほど長時間に渡り……というのは、香也にしてみれば、はじめての経験である。もっとも、絵を描く場合は、誰も制止しなければ、体力が尽きるまで、えんえんと寝食を忘れてえんえんと描き続けるのではあるが……。
「今日は……頑張りましたね……」
 楓が、香也にいう。
「……んー……。
 まあ……たまには……」
 香也は、ごにょごにょと明瞭でない返答をすると、
「……おにーちゃん、えっらーいっ!」
 とかいいながら、テン、ガク、ノリの三人が、背後から香也の背中に飛びつく。
「……おっ、っと、っと……」
 いきなり三方向から負荷を駆けられ、バランスを崩してよろめく香也。
「あぶないっ!」
 その香也を抱え起こそうとして、楓が手を伸ばしたが……すでに大きく体制を崩していた香也を助けるのには間に合わず、香也や三人と一緒になって、もつれ合うようにして、廊下に倒れ込む。
「……たっだいまぁー……。
 って……何やってんの? 君たち……っつうか、こんなところでナニをしているのかっ! 君たちっ! 真理さんもいるというのにっ!」
 その時、玄関から入って来た羽生は、目の前の廊下で、もつれ合って倒れている五人を目にし、そう叫んだ。
「……ご、誤解ですっ!」
 みんなの下敷きになっている楓が、反射的に抗弁する。
「わ、わたしは……ただ、みんなを止めようとして……」
「……みんなー……。
 ご飯、できたわよー。
 手の空いている人いたら、配膳を手伝ってー……」
 台所の方から、真理ののほほんとした声が聞こえる。
「「「……はーいっ!」」」
 テン、ガク、ノリは、真理の声を聞いた途端、ぱっと香也の身体から身を離し、立ち上がって台所へと向かった。

 廊下の上に取り残された香也と楓、それに玄関で突っ立ったままの羽生は、気まずい表情で、お互いの顔色を探る。
「……さ、さあー……。
 ご飯、いただかなくっちゃぁ……」
 羽生は棒読みの口調でそんなことをいい、露骨に、未だに廊下の上で抱き合っている香也と楓から視線を逸らし、自分の靴を脱ぎだした。
 ここまできて、香也と楓は、現在の自分たちの姿勢にはじめて気づいたかのように、その場からとびのき、身を離す。
 何故か、二人とも、廊下の上に正座していた。
「……ただいま、帰りました……」
 その時、孫子が帰宅した。
「……今度は……一体、何の遊びですの?」
 そして、廊下の両脇で、正座して畏まっている香也と楓に向かって、不審な視線を向ける。




[つづき]
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