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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(294)

第六章 「血と技」(294)

 夕食を終えると、茅が食器を片付けて、風呂に入るための準備をし、紅茶をいれてくれる。バスタブにお湯が溜まるまで、お茶を飲みながら寛ぐのが最近の習慣になっている。
「……ふぅ」
 荒野は、ティーセットを手にしたまま、どさりとソファの上に身体を投げ出す。
 ひとことで要約すれば、「平和な一日だった」といっていい、日曜日だった。少なくとも、トラブルなどは、何も起こっていない。
 しかし、荒野は……妙な気疲れをしていた。
「……ふぅ」
 バスルームから出てきた茅が、荒野と同じようにため息をついて、荒野の膝の上に腰掛けた。
 茅がそのまま背中を押しつけてきたので、荒野は慌てて手にしたティーセットを大きく上に上げる。
「……こらこら」
 荒野は、そういいながら、両手で持ったティーセットを、茅の身体の前に回す。
「いきなりそういう真似したら、危ないでしょ?」
「荒野の反射神経なら、この程度のことは、楽にかわせるの」
 茅はそういいながら、荒野の手にしていたティーカップを両手で抱え、完全に背を荒野の方に傾け、体重を預け、「……ん。おいし……」とかいいながら、紅茶を飲んでいる。
 荒野からは、茅の頭頂部を眼下に見下ろす形となる。しかも、茅の柔らかい背中とお尻を、膝と身体の前に密着しているので、否が応でも、茅の体臭や体温を感じてしまう。
 荒野の分身が、早くも反応しはじめていた。
「……荒野の……」
 茅が、そういって、お尻を左右に揺さぶる。
「……硬く、なりはじめているの」
 もちろん、茅の方も、荒野を挑発するために、わざわざそんな言動を取っているのだ。
「そうなるように、しむけている癖に……」
 荒野は、背中から茅の腰に腕を回し、茅の耳元に口を寄せて、囁く。
 そのまま、茅の耳たぶを甘噛みしようとすると、茅は、
「駄目ぇ……」
 といって、身をよじった。
「……紅茶を、飲むの……」
 語尾が、「飲むのぉ」と、尾を引いているせいか、ひどく甘ったるい語調になっている。
「茅は、ゆっくり飲んでいていいよ……」
 そういいながら荒野は、両側から茅のあばらの下あたりを両手でがっしりと固定し、茅の頭頂部に顔をつけて、そこの匂いをかいだ。
「……なっ……」
 荒野が何をしているのか気づいた茅が、慌てて立ち上がろうとする。
 が、荒野にがっしりと押さえつけられているため、思うように身動きできない。
「ほらほら。
 そんなに暴れると、紅茶、こぼすよ……」
 荒野は、あえて冷静な声を出した。
「……荒野……。
 意地悪なのっ!」
 茅は、珍しく慌てた様子で、荒野からなんとか離れようと、もがく。しかし、この手のことで、茅が荒野を出し抜くことは不可能だった。荒野は悠然と、茅の頭の匂いをかいでいる。荒野のフェティッシュな趣味、というよりは、茅の狼狽ぶりが面白くなって、止められなくなったのだった。
「意地悪って……おれ、何もしてないよ。
 茅がおれの膝に乗ってきたから、茅の頭の匂いをかいでいるだけで……」
「それ……へ、変態っぽいの」
 茅はそんなことをいいながら、「……んー」といきんで荒野の膝の上から逃れようとするが、茅の両脇に添えられた荒野の手は、びくりともしない。
「ほら、そんなに暴れると、本当に、紅茶をこぼすから……」
 荒野が冷静に指摘すると、茅は、しばらく動作を止めて考え込んだ後、「……ふぅ……」と深く息をついて、手にしていたティーカップをごくごくと一気飲みする。
 おそらく、もうかなり冷めかけていたのだろうが……それでも、普段の茅らしくない、飲み方だった。そんな飲み方では、味や香りを味わうどころではないだろう……と、荒野は思う。
「……飲んだの」
 茅は、飲み干したティーカップを荒野の目の前に掲げて、見せた。
「荒野……お皿」
 と、平手を、荒野の目の前に差し出す。
「……おう」
 荒野は、指と指の間に挟んでいたティーソーサーを、茅の掌に、乗せた。
「片付けるから、離して……」
 茅が、心なしか、硬い声でいった。
「おう」
 荒野が素直に応じて、茅の腰から手を離すと、茅は、弾かれたように起き上がり、シンクにティーセットを置き、すぐにUターンして、今度は正面から、荒野の胸に飛び込んでくる。
 そして、
「……むぅ」
 と、不満そうに鼻を鳴らし、荒野の胸に顔を埋めて、ずりずりと頬ずりを繰り返す。
「……頭の匂いをかぐなんて……荒野、変態さんなの……」
「だって、茅が、いきなり膝の上にのるから……」
 荒野は、胸に押しつけられている茅の頬が、熱くなっているのを感じながら、そう答える。おそらく、羞恥によるものだろうが……茅は、耳まで真っ赤だった。
「髪の毛の匂いくらいで、そんなに恥ずかしがることないだろう……」
 茅と荒野とは、身体の隅々まで知っている間柄である。
 たかだか体臭だけで、そこまで恥ずかしがる感性が、荒野には理解できない。
「……だってっ!」
 茅は、きっ、と、荒野の顔を見上げる。
「まだ……お風呂に、入ってないし……汗の匂いがするのっ!」
 茅は、珍しく、感情的になっているようだった。
「……いや……冬だから、そんなに汗、掻いてないだろうし……。
 それに、普通に茅の、いい匂いがしてたけど……」
 荒野がそういうと、茅の顔は、ますます真っ赤になった。
「……あー……。
 お風呂、見てこよう……」
 荒野は、どことなくいたたまれなくなって、その場から逃げるように、バスルームに向かう。




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