第六章 「血と技」(295)
バスタブに、頃合いにお湯が貯まっていたので茅に「風呂に入ろう」と声をかける。すると茅は脱衣所に入ってきて、荒野に向かって、「脱がせて」といった。今更恥ずかしがる関係でもなし、また、茅がこのような形で甘えてくるのも珍しくはないので、荒野は何の躊躇もなく茅のワンピースに手をかける。
茅の服を脱がして下着姿にすると、今度は茅が荒野の服に手をかけて、脱がせはじめた。荒野は、茅が脱がせ易いように、屈み込んで上体を茅の方に倒し、両腕をあげる。荒野の上半身がむき出しになると、茅は、荒野の肩に覆い被さった。
「……荒野……」
茅が、荒野の耳元に口を寄せて、囁く。
「肩が……広い……」
茅が荒野の肩を抱こうとすると、かなり腕を開かなくてはならなくなる。
「それは、野郎だから……」
荒野は、短く答えた。
小柄で華奢な体格をしている茅より、荒野の方が肩幅があるのは、当たり前だった。
結局、茅は荒野の肩を抱くのを諦め、屈み込んだ荒野の頭に腕を回して、抱き寄せる。
荒野は、茅の胸元に顔を押しつけられる格好になった。荒野も、茅の腰に腕を回し、軽く力を込めて、ブラ越しに茅の乳房を感じる。大きくはないが、張りのある乳房だと思う。
荒野はそのまま顔を動かして、茅のブラをずらそうとすると、茅は、荒野の腕を払って、身を離した。
「まだ、駄目……」
茅は、悪戯っぽい微笑み浮かべて、自分の手で下着を外す。
「お風呂に、入るの……」
荒野は、その言葉が終わらないうちに、茅に覆い被さって、口唇を奪った。
茅は、最初のうち、抵抗して荒野の腕の中でもがいていたが、すぐに大人しくなって荒野のなすがままになった。口の中に舌をいれても、あらがうことなく受け入れ、むしろ、積極的に、荒野の舌に自分の舌を絡めてくる。
荒野は、茅の腰に回した手を降ろして、茅の下着の中に手を入れた。
すると、それまで大人しくしていた茅が、急にもがきはじめる。
もちろん、荒野はそんな抵抗を許さず、がっしりと片手で茅の腰を固定しながら、お尻の割れ目に指を這わせるようにして、茅の陰部に触れる。
「……もう……濡れてる……」
少し顔を離して、茅の目の前で、荒野がそこの感触をあえて言葉に出して指摘する。
と、再度、茅が身をふりほどこうともがきはじめる。
しかし荒野は、茅が自分から離れていくことを、許さなかった。もがく茅を、ことさらに抱き寄せ、口唇を塞ぎながら、手で茅の下着を下にずり降ろす。続いて茅の背中に手を回して、ブラのホックを手探りで外した。
そのころには、観念したのか、茅も抵抗をせず、目を閉じて荒野のなすがままになっている。
荒野は茅と身体の前面を密着させ、茅の舌を吸い続けた。
すでになじんだ感触とはいえ、荒野の前は、痛いほどに勃起している。
茅が二人の身体の間に手を割り込ませて、荒野の硬直している部分を、指先で、輪郭をなぞるように、さすった。
「……荒野の……すっかり、大きくなってる……」
少し顔を離して、茅が、荒野の顔に息を吹きかけるように、囁く。
「茅の身体が、きもちいから……」
荒野は、手のひらで茅の背中を撫でながら、答えた。
実際、茅の肌は、触った時の感触が、ひどく心地よい。しっとりとしていて、こちらの肌に吸いついてくるような感触があった。
「……んっ……」
頬染めた茅が、吐息混じりに、荒野の、最後に残った下着を降ろす。荒野は抵抗しなかったが、茅が膝下まで荒野の下着を押し下げ、全裸になると、茅の身体を自分の肩の上に乗せて持ち上げ、
「……さぁ、お風呂、お風呂……」
と、ことさら快活な声を出して、浴室に入った。
荒野に担がれながら、茅が小さく、「むぅ」と不満の声をあげる。
二人の身体にざっとシャワーをかけた後、狭いバスタブに、二人で浸かる。もともと、単身で使用することが前提になっている浴槽なので、身体を密着させていても、二人とも肩まで浸かることができないのだが、入浴する時はしょっちゅうこのようなスタイルになるので、二人とも気にしてはいなかった。
浴槽の中で、茅の身体を前に抱きながら、
『なんだかんだいって、どんどん慣れていくよな……。
茅の身体にも、今の生活にも……』
荒野にとって、今の生活と茅との関係は、果てしなく等価であった。もはや、「この先茅と離れて暮らす自分」、というものが、荒野には想像できなくなっている。同様に、今の学校の友人たちと一緒に育ち、成人していくことが、当然のように感じはじめていた。
理性では……悪餓鬼をはじめとした、各種の不確定要素が多すぎるため、確率的にみて、現在のまま、数年以上、現在の生活を続けられる可能性は、極めて低い……と、思っているのだが、それでも、こうして狭い浴槽の中で、茅の華奢な身体を抱きしめていると、その存在の確かさと同じくらいに、彼らとともに成長し、成人していく自分、というものが、確実にありうる……という錯覚を、持ってしまう……。
荒野は……冷静になれ、と、自分に言い聞かせる。
おそらく、この土地にいる関係者の中で、一番俯瞰的な視野を持てるのは、他ならぬ荒野自身、なのである。
言い換えると……この先、荒野が判断を誤れば、危ういバランスの上に成立している、この土地の荒野、あるいは、一族をめぐる環境は、あっというまに安定を崩して崩壊する……。
だから、荒野は……何が何でも、冷静な判断力を、失うわけにはいかない……。
「……荒野……考えごと、をしてる……」
茅が、自分の胸あたりに回されている荒野の腕を、掌で軽く叩きながら、そういう。
「……うん、そう。
考えごと……いろいろと……」
荒野は、あえて軽い口調で、茅の疑問を肯定する。
「いろいろ……考えなけりゃならないこと、多いから……」
「荒野は……」
茅は、首を反らして、下から荒野を見上げる。
「……もう、一人で、抱え込まなくて、いいの。
茅もいるし……みんなもいるの……」
「そう……だな……」
荒野は、ゆっくりと首を振ってから、頷いた。
「もう……おれは、一人じゃないんだな……」
当たり前のこと……ではあったが、改めて口にすると、その事実が、じんわりと荒野の中に染みてきた。
ここに来た時……荒野は、一人だった。
しかし……今は、違う。
茅が、身体の向きを変えて、荒野に抱きついてきた。
「……おいおい……」
とかいいながらも、荒野は、自分の胸に押しつけられる、濡れた茅の乳房の感触を、楽しんでいる。
この感触だけ、何度味わっても、飽きない……と、そう思う。
茅は、やはり、口唇を重ねてきた。
茅は、キスが好きだった。荒野も、好きだったが。
お互いの舌の感触を確認するように、執拗に舌を絡ませ合う。
茅の膝が、荒野の股間をまさぐっていた。偶然そこに触れた、というわけではないらしい。荒野の硬度を確かめるかのように、立て方向に、膝頭をあてて、動かしている。
荒野は、片手を茅の腰の後ろに置き、もう一方の掌で、茅の乳房を包み込むように、触る。
しばらく、口唇を重ねながら、揉みしだいた後、親指と人差し指で、すっかり硬くなっている乳首を、少し力をいれて摘んだ。
「……んっ!」
茅が、鼻にかかった声をあげる。
決して、嫌がっている響きではなかった。
[
つづき]
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