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第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(36)
翌朝には、雨は上がっていた。
香也が眼を醒ましたのは、例によって時間ギリギリだったが、その時間まで香也が眠れた、ということは、早朝には、つまり夜半の時点で、すでに雨があがっていたのだろう……と、香也は推測する。
これまでの例で考えてみると、早朝に雨が降ったときは、同居人の少女たちのいずれかが、かなり高い確率で香也の布団の中に忍んで来るからだ。今朝はそれがなかったから、彼女たちは、今朝、野外でトレーニングに勤しんでいたのだろう……というのが、香也の想像である。
通常のパターンなら、香也が眼を醒ます時間には、全員、シャワーを浴びて着替え終えており、寝起きの香也よりもよほどしゃんとした格好をしている。今朝はその「通常のパターン」だった。
顔を洗い、パジャマを制服に着替えて朝食を摂り、みんなで家の外に出る。
一歩、外に足を踏み出して、天を仰ぐと、昨日一日、じめじめした天気だったのが嘘のように晴れ渡っていた。快晴の時の冬の空は、心なしか、他の季節よりも透明度が高い……ような、気がする、と、香也は思う。
庭のプレハブに行って、昨夜梱包した荷物を外に出すのを、みんなに手伝って貰う。こうしてまとめてみると、自分でも「……意外に、描いたな」と思ってしまう。描いている最中は、量のことなど考えはしない。あくまで趣味の延長……というよりは、習慣というか脊髄反射的に「描いて」いて、しかも、普段から「下書き」と「仕上げ」をあまり区別して考える習慣のない香也は、依頼されて絵を描くことは、最近、増えたものの……仕上がった絵がどう使用されるのか、ということまでを考慮して絵を描いた経験が、実はない。
……有働さんに、使えそうなものを選んで貰おう。
使えそうなものがなさそうだったら、アドバイス貰ってまた描こう……。
とか、内心ではそんな、謙虚を通り越して弱気なことを考えている。
香也が、楓や孫子、テン、ガク、ノリに手伝って貰って、結果的にはかなり多くなった荷物を玄関前に持ち出すと、荒野が「おっ……」と声を上げる。
いつもの面子は、すでに集合していた。
「それ……ああ。ひょっとして、ボランティアの……」
流石に、荒野は勘が良かった。
「……んー……。
そう」
香也は、短く答える。
「……短い間に、随分と描いたもんだなぁ……」
すでに集合していた飯島舞花も、感歎の声を上げる。
香也は、
「……んー……。
ぼく、そのあたりの加減っていうのが、どうもよくわからないから……」
とか、答えた。
これも、照れているとか謙遜しているわけではなく、香也は本気で「加減がわからない」。
「まあ、いいや。運ぶのは、任せて。
人数、いるし……」
こういって舞花は、栗田にも荷物を持たせる。
もとより、かさばるとはいえ重いものではない。また、荒野や楓、孫子、それに、荒野と樋口明日樹に即され、大樹までもが持ってくれたので、在校生だけで全ての荷物を持つことが出来、テン、ガク、ノリの手を借りる必要はなかった。
三人娘は、どこか残念そうな、ないしは、拍子抜けの表情で、香也たちを見送る。
ただでさえ、目立つ容姿の持ち主がぞろぞろ連れだって歩いている、ということで、注目を浴びやすいのに、今朝はほぼ全員が大きな荷物を抱えているテンということで、この日は、いつもにも増して、通行人の皆さんの視線が気になる登校となった。
「やぁやぁ、おはよーさん。
今日はまた、みなさん、大勢で大きな荷物を抱えますなー……」
などと脳天気な挨拶とともに途中から合流してきたのは、玉木玉美だった。
「これ、香也君の絵、なんだがな」
荒野が、挨拶もそこそこに、玉木に告げた。
「……有働君の依頼で描いたものだ。全部」
荒野にそういわれて、玉木は慌てて、香也が持っていた荷物を、引ったくるようにして奪取する。
おかげで香也は、自分自身の鞄だけしか持たない身軽な身となった。
全部、自分が描いた絵なのに……と、多少は後ろめたい思いを抱いていると、荒野が香也の表情からそうと察したのか、
「いいから、いいから。
香也君は、もうこれだけの絵を描き上げた功労者なんだから、そのままどっしりと構えている……」
と、声をかけてくれる。
荒野のかたわらで、樋口明日樹がうんうんと頷いていた。
校門に近づくにつれ、声をかけてくる生徒が増えてきた。香也はともかく、その他は、それなりに他の生徒たちに顔も知られ、人望もある存在である。
声をかけてくる生徒たちは、ほぼ例外なく、荒野たちが抱えている荷物をみて不審そうな表情をし、荷物について質問した。
別に隠す必要もないから、質問された側(荒野だったり、舞花だったり、茅だったり、楓だったり、玉木だったりした)は例外なく、素直に「香也が描いた絵だ」ということと、「有働経由で、ボランティア活動のために描いた」という事実を告げる。
頻繁に聞かれ、答えたので、香也たちが学校に着く頃には、そうした事実はかなり広範に知られるようになってしまった。また、そうした問答がある度に、それまで面識がなかった生徒も含め、しげしげと顔を覗き込まれたりしたものだから、「他人に注目される」ということに慣れていない香也は、すっかり挙動不審になっている。一緒に登校する人たちにぐるりと囲まれているから、まだしも平静を装うことが可能だったが。
楓や孫子が、
「もっと、堂々としていてください」
「どっしりと、構えて」
などと再三、言葉をかけて、ようやく落ち着かせている有様だった。
校門を通りすぎ、下駄箱が置いてあるエントランスまで到着すると、
「……これだけの量だと、一度、美術準備室に借り置きした方が、いいね……」
といい、樋口明日樹が職員室に先行し、鍵を借りに行く。
残った者たちは、上履きに履き替えると、そのまま荷物を抱えて美術室に直行した。
[
つづき]
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